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超年下男子に恋をする㉞(冬の温もり、彼の手袋)

 12月生まれの彼には冬がよく似合う。

「どの季節が一番好き?」

と聞くと

「冬ですね。うちに引きこもってられるんで」

と彼は答えた。

 おうち大好き。お母さん大好き。部屋が一番落ち着くと言う。

 見た目もアウトドアな感じではない。

 色が白く、どこか寒そうな感じ。黒髪に綺麗な瞳、大きな手。背が高いから長いコートがよく似合う。

 でもまだ自分で自分のこともよくわかっていない彼は、私が二十歳ぐらいの頃似合わない化粧をしていたように、似合わない服を着たがる。

 ZOZOTOWNで服を見るのが趣味という彼は流行り物は一応押さえるようだけど、自分に合う個性かどうかまでは判断できないらしい。

 前職はアパレルだったミワも私とは同意見で、彼には派手なストリート系よりUNIQLOとかのシンプルな感じがよく似合う。

 大学でダンスデビューしたぐらいだからしかたない。憧れが強いんだろう。でも慣れない世界で髪まで染めて、挙げ句の果てに留年。お母さんにダンスサークルも辞めさせられてしまった。

 高校時代は書道部だったらしいけど、静かに文字を書いている彼の姿はしっくりくる。一文字一文字丁寧に、心を込めて書く姿は、不器用だけど誠実な彼そのものなイメージだ。

 服は派手よりシンプルが似合うし、髪は茶髪より黒が似合うし、ダンスより書道が似合うし、そして本当は彼女も年上の方が合っている。

 これは彼以外はみんな思っていたこと。しかも一つや二つぐらいの年上では彼は無理だということを。

 でも人は、自分に近いもの相応しいものよりも遠くて手に入りにくいものを追い求めたいところがある。だから これはもう仕方ない。

 その派手めな上着はリバーシブルで、裏は羊の毛みたいにもこもこ。

「そっちの方が似合うよ」

と私が言っても

「僕はこっちが好きなんです」

と彼は突っぱねる。

 でもそう言った後彼はもこもこを表にして着てくることが多くなった。

 初めてもこもこを見た時は

「もふらせて!」

と抱きつくポーズをしただけで、両手で身を抱く防御姿勢。

「うっわ、きっも! 気持ち悪い!」

と言われてさすがにしゅんとした。

 でもそれからだった。もこもこの頻度が高くなった。

 別の日、私を待ってた彼はやはりもこもこスタイルだった。

「それさー、私に撫でろって言ってるよね?」

とからかうと

「少しだけなら」

と彼は照れくさそうに言う。

 彼の服をそっと撫でると彼は緊張で体を硬くした。

 なんだか野生動物を慎重に手なずけようとしているかのよう。

 そしてだんだん慣れてきた頃、

「もふっていい?」

と聞いてみると、彼は腕をすっと私の前に伸ばした。

「腕だけなら…」

 私は彼の腕をそっとつかむ。

 一体なんのプレイだ…。

 でも彼は体に触れられることを極端に嫌うし、最初気持ち悪いと全力拒否されたのに比べたらずいぶんな進歩だと思う。

 そしてある時、外が寒くて、私の手が冷えてしまった時、彼が手袋を貸してくれた。

 大きな手、大きな手袋。

 手を繋ぐよりもドキドキした。

 でもその次も私が手袋を忘れて、「貸して」と言ったら

「またですかぁ!なんで忘れるんですか!」

と怒り口調。

 それでも手袋は貸してくれる。

 でもさすがに自転車で来ている時には借りない。

「僕の手体温高いから大丈夫」

とは言うけど、さすがに手袋なしはつらいだろう。

 彼は自転車通勤の時でも必ず私を待っている。
 そして一緒に休憩室を出て、外の入り口で別れる。
 これは約束してそうなったわけではない。

 待っててくれるのは嬉しい。

 でも要求はどんどん高くなる。

 帰るまでの時間が早すぎる。
 もっと一緒にいたい。

 早く雪が積もればいい。道もすべて凍ればいい。

 そうすれば彼は晴れても自転車通勤しなくなる。
 私が車で送り迎えできる日が増える。
 一緒にいるのに理由が必要な彼に

「雪だからしかたないね」

と言える。

 しかたなくてもなんでもいいから、私といてほしかった。

 怒られてもぼやかれてもいいから、その大きな手袋の優しい温もりが欲しかった。

 誕生日に手袋を送ろうかなとも思った。

 でも彼はファッションにはこだわりがある。

 それに私は彼女じゃない。手袋やシャツは重いかも。

 かといって、ケーキなんかも作れない。

 私は料理は得意だけれど、お菓子作りは興味がない。だからうまく作れる自信もない。

 それに手作りケーキもやはり重い。

 どうすれば彼は喜ぶだろう。

 形じゃなくて心に残るものがいい。

 そして私は誕生日、あることを思いついていた。

 


 

 
 

 

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