超年下男子に恋をする⑭(超年上女の恋は季節外れの冬の花)
酔って最悪の愛の告白からの「僕もう振ってますよね!」の大玉砕。
着物のまま、部屋で朽ち果てた私は朝方最悪な気分で目を覚ました。
断片的に蘇る記憶。
酔って何も覚えていないなんて嘘。
部分部分は飛ぶけれど、全部忘れてるなんてありえない。
でも、思い出したくもないし、相手にも忘れてほしいから、そういってごまかしてるだけ。全部忘れたなんて本当は誰も信じちゃいないって思っても。
なんにしてもやらかしたことはきっちりと詫びねばならない。
私はまず健にLINEして謝った。
それから彼へLINEを送ろうとしたけれど、どう言葉を選ぶべきかわからなかった。振られたことへの絶望感とやらかしたことへの後悔でいっぱいだった。
それでもこのままにはできないし、とにかく誠意を込めて謝った。
「僕はいいですけど、健さんにちゃんと謝った方がいいですよ」
という返事。
「自分はいいけど・・・」っていう時というのは、誰かを盾にして批判するときの常套句。
やっぱり相当私はやらかしてしまったようだ。
もう彼にも合わせる顔はない……。
しかもただでさえメンタルやられてるのに肉体的にも大ダメージを負っていた。
昨日酔って無様にすっころんだときに強打した尾てい骨……。
まともに歩けないぐらいの痛みだった。
私が酔って路上ではいつくばって、支えられなければ歩けなかったのは、酔いが回ってたからだけが理由じゃなかったのかもしれない。
私はすぐに整形外科に行った。
一応折れてはなかったけれど、ヒビが入っているかもしれないという診断。
忙しくて走り回る店ではこれは致命的。
ただレジで立っているだけなら仕事はできないことはない。
私はバイトには休まず行った。
彼の顔を見た時、気まずかった。
とっさに何も覚えていないと嘘をついた。
彼は単純なのでそれを信じた。
「本当に覚えてないんですか?」
信じられないと言った顔をしたあと、なぜかニヤニヤ笑う彼。
「へー、本当に知らないんだ? じゃ、あんなこと知ってるの僕だけなんだ」
「何? あんなことって」
「え、言っていいんですか? でも、これ言ったら傷つくと思うし」
傷つくって振ったこと?と思ったけれど、それでニヤニヤ笑うような底意地の悪さは彼にはない。
首にキスしたことや抱きついたこと、恋人つなぎをしたこと、膝枕させたこと、心当たりがありすぎて、とても確認なんてできなかった。
そもそもあの時は嫌そうだったいうか、「うわぁあああ」と軽く悲鳴をあげたくせに、ニヤニヤする意味がわからない。
自分だけが弱みを知っているという子供じみた優越感?
とにかく嫌われたわけではないらしいということはわかってほっとした。
しかも彼は尾てい骨をかばってほとんど動けない私をフルサポート。私もついつい調子に乗って、あれやってこれやってと甘えるようになってしまい、「しょうがない人だなぁ」と言われながらも、優しくしてくれることがうれしかった。
男って結局あれこれ世話を焼かれるより、頼りにされて何かしてやってお礼言われることの方が好きなんだと思う。彼も結局男なんだなぁ。
尾てい骨を強打して身も心もボロボロだったのが、逆に距離が近づいてしまった。
世話を焼いてばかりいたはずの自分が、逆に彼に面倒みてもらう立場になった。甘えさせるつもりが甘えてしまう。でもなぜかそんな関係の方が居心地がよくて、彼も前以上に優しくなった。
「僕、もう振ってますよね!」
確かにそう言われた。
でも私はずるいから、あの夜のことは何も覚えていないと嘘をついて、飲み会の前の浮かれたデート状態で一時停止、黒歴史は編集カット、そして私の世話を焼くようになった彼の場面へとつなげた。
まだ終わりたくなかった。
芽生えたばかりのこの恋が、咲きもせず枯れもせず凍りついていくのが嫌だった。時期が悪くて咲かないのだとしても、もしかしたら咲くかもと、期待を込めて、夢見て水を与えたかった。