第4話:恥と視線の先

球技大会当日。
いやーな晴れ方をしている天気だった。
男子サッカーはリョータたち1年B組が初戦を突破し、今まさに2年A組と2回戦目をしている。
試合時間は30分。
もうすでに20分が経過しようとしていた。
得点は1対1で試合は膠着状態。
両者初戦を突破した組とはいえ、中学でサッカーしていましたっていう人以外は例え1軍・2軍に属している人であっても素人だらけなため、数日の練習だけじゃ両者連携がうまくいかずなかなか点が入らずにいた。
白線で仕切られたガッタガタでグッニャグニャのサッカーコートの中で局地的に団子サッカーになったり、一瞬だけ全国高校生サッカー選手権のようなサッカーになったりしている。
リョータは線といえない白線の枠の外で同じ5軍の立ち位置にいる奴らとボーっと試合展開を眺めていた。センターサークル辺りの白線枠の外ではクラスの女性たちがピッチにいる選手たちに黄色い声援を送っていた。初戦には出なかった。正確には出させてくれなかった。当然、補欠の身なので出させろなんて言わないし、サッカーは体育の授業ぐらいしかやったことないからそんなこと言える身ではない。
コーナーらへんの白線枠で5軍の奴らと試合展開をみていると枠外のセンターサークルから「リョータいるか?」って言う声が伝言ゲームの如く伝わってきた。クラスメイトたちが将棋倒しのようにコーナー付近を見てくる。声と視線は遂にリョータの近くまで来た。
「なんか呼ばれているよ?行って来たら?」
5軍に属しているクラスメイトの一人がリョータの背中を押した。
言われるまま交代場所まで行く。
クラスメイトのイケメン風の男子生徒と交代だった。
交代するすれ違いざまイケメン風の男子生徒がリョータに言った。
「んじゃ、頑張れよ。」
そいつの顔はよくわからない笑みを浮かべていた。
リョータは何もわからないままピッチに入った。

「はぁ……。」
リョータはクラスメイトから少し離れた位置で1人体育館のギャラリーの柵に肘を置いて溜息をついた。
サッカーは結局負けた。
FWに配置されたリョータは試合終了間際にセンタリングを受け、何を思ったのがダイレクトシュートしようとモーションに入ったが、足を振り向きざま見事に透かしてしまった。
そこから相手のカウンター。
リョータが透かしてわずか30秒足らずで点取られ、試合が終了した。
試合が終わってからリョータの周りには人は寄ってこない。
「最も冴えないグループ」のメンバーも空気を読んでか声をかけて来なかった。
人って所詮そんなもんだろう。
さらに、こんなヤツを試合には出せないとクラスメイト達は判断したのだろう。
バスケの試合は交替されず終わった。
1回戦負けで敗退したのだけれど。
サッカーの試合もバスケの試合もクラスの女子たちが応援しに来てくれていたがリョータは何一つ良いところ魅せることができなかった。他の球技や女子の方は1回戦勝ち上がったり、僅差で負けたりしていいところまでいってたりした。リョータは罪悪感から独りになりたかったが、もちろんこれでもクラスの一員だし、ここでふらっと一人でどっか行くのはまずいと思い、体育館のギャラリーへクラスメイトが頑張っている姿を応援しにいくことにした。応援しに行ったのは男女混合ソフトバレー。確か男女混合ソフトバレーにはマイがメンバーに入っていた。小学校の時から見てきたからわかるがマイは決して球技が上手いわけではない。よくメンバーに入ることができたなとリョータはつくづく思う。
「あのマイってやつかわいいよな。」
「え、どれどれ、どの子?」
「ほら、今あそこ動いている子」
「あー、あの子。」
クラスの中で1軍辺りにいる男子勢が指さしながら話している。
指さしている方向を見るとそこには髪型がショートの息が上がっているのか小さくて白い丸顔を少し赤くして味方からのトスをスパイクして相手コートに返すマイの姿がいた。この高校の女子の間で流行っているTシャツの下の部分をヘアゴムで留めて団子みたくしてちょっとしたオシャレまでしている。リョータはマイってそういえば、小学生のころから比べると身長も体系も胸の育ちも大きくなったなと感じた。リョータとマイとは中学1年までよく話す仲だった。帰りもよく一緒に話しながら帰っていた。マイの雰囲気はほわーとしている雰囲気で接してみると優しい。そしてあくまでリョータが思っていることだが少しエロい。男子が言う下ネタに敏感でよく「やだー」と言って男子をたたいていたがその恥じらっている姿がかわいくてエロかった。しかし、ある出来事があってそれを境にリョータとマイは話さなくなった。話しても挨拶ぐらいだ。高校が一緒になってクラスも同じになってもリョータとマイはお互い素知らぬふりをしていた。
リョータがマイの姿を追っているといつの間にか試合終了のブザーが鳴った。リョータのクラスは僅差で負けた。
これでリョータのクラスの勝ち上がっている球技種目がなくなった。しばらくすると他のクラスや学年が勝ち上がっていく中、リョータのクラスは教室に戻って暇を持て余していた。
「あーあ、負けちまったよ。あいつがオーバーラップしてこねーからチャンスができねーしよ」
「あいつ、バスケの試合でトラベリング連発してパスが繋がんなかった。」
「あいつ、シュート透かしてやんの。笑ったわ。」
クラスの1軍の奴らが机の上に座りながら同じ1軍同士の友達やクラスの女子に愚痴をこぼしていた。
クラスの女子もそれに乗っかって
「ね~あいつ、気合入れていた割にはミスばっかしてダサかったよね~」
「ほんとね~」
リョータは自分の席で小説を読みながら聞き耳を立てていた。
おそらく自分のことを言っているのだろう。
リョータはそう思うと胸が痛くて仕方がなかった。陰口は人間誰しも出てしまうものだが決して陰口の対象となっている人の前で言うものではない。
でも、さすがに大事な場面でシュート透かすのはリョータでもこんな本番に弱くて出来ないヤツだとはとショックだった。
しばらく1週間は立ち直れそうにない。
最悪、トラウマになりかねないだろう。
リョータは気になって本から目を離しチラッと斜め前の席を見た。
陰口の会話はリョータの席の斜め前の真ん中の席で1・2軍の男女が数名がしていた。その中になぜかマイの姿もいた。どうやって1・2軍に入ったのだろう。マイもやっぱり他の奴らと同じ気持ちなのだろうか?リョータとそう思い、気になった。けど、見た感じ、マイはその場に合わせて愛想笑いをしているだけだった。たぶん周りに合わせているだけなのだろう。リョータはマイが本心であの場にいるわけではないとわかると少し安心した。
リョータの心は小学校からの付き合いの子に陰口言われていないだけまだ救われていた。

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