Bの定義:1話「補欠を決めたいと思います」

 夏休み1週間前は誰しもがあと1週間で普段より自由にできる時間が増えるという気持ちが浮き立ち始める時期ではなかろうか。普通は。
小学生のころはこの時期は通信簿を親にみせる恐怖より夏休みという特権に嬉しさで胸が高鳴り、あの40℃近くなっている下校道をクラスメイトとぺちゃくちゃと話しながらルンルン気分で帰っていた。
でも、今年の夏休み1週間前はリョータにとってツイテナイ入り方のようだ。
今年入学した、県立 三本駒桜(さんぼんこまざくら)高等学校では夏休みの1週間前は球技大会のイベントがある。球技大会の種目は、男女別バスケ、男女別サッカー、男子バレー、男女別卓球、男女混合ソフトバレーで中でもバスケとサッカーは花形の種目。
「はい、そしたらこれから球技大会の種目のメンバーを決めたいと思います。まずは、男子サッカーから。出たい人いますか?」
総合の時間の後半、クラスの学級委員長的役割・立ち位置の男子生徒が教壇に立って仕切り始めた。
もちろん競争率が激しいためメンバーはまず教室内で日頃の体育の時間ではっきりする運動神経の優劣とクラスのヒエラルキー順で決められ、それでも埋められないメンバー枠は残りの参加したい面子の中からじゃんけんで決める。だから、決めるとき最初に出る話は中学時代の50m・100m走のタイムだったり、中学時代何の部活に所属していたかなんて話になる。更に大抵、クラスの中のこういう決め事はスクールカースト1軍・2軍の融通が効く。サッカーや男女別バスケ、バレー、男女混合ソフトバレー,男女別卓球のスタメン枠はどんどんイケメン・美女、コミュ力高い奴、流行りを作る奴らなど陽キャの1軍と2軍の奴らで埋まっていく。なんて効率的で差別的で理不尽な決め方だろう。メンバーになった人の名前が書かれていく黒板をボーっと見ながらリョータは思った。そんなリョータは中学時代は陸上部に所属していた。長距離走が得意で大会で3000mを走ったり、駅伝でアンカーを務め見事入賞したりした。しかし、中学3年間をずっと陸上に注いでいたため、球技に関しては体育の時間で触れる程度だったために球技に必要な基本的運動神経が低下している。かつ中学最後の中体連には間に合ったがその1か月前に両膝、両ふくらはぎ肉離れを起こして癖が残ってしまったため思うように走れなくなっていて高校に入学してからの体育の時間は足を引っ張ってばかりだった。出来事を反芻しているうちにすべての種目のスタメン枠が埋まった。
「じゃぁ、次は補欠を決めたいと思います。まずは男子サッカーから。」
それでもせっかくの高校生活なのだ。人生に一回しかない高校生活なのだ。
ここで怯えて何もしなかったら……挽回することなく終わるんじゃないか?
「はい。」
リョータは気づいたらサッカーの補欠枠に手を挙げていた。クラスメイトの視線がリョータに集まる。リョータは中学デビューと高校デビューを失敗している。中学のときは色々と自己中心的行動を取ってしまっていたため中学3年間を通して周りから意味嫌われていた。最初は小学校のときの女子とかが味方してくれていたが、思春期が本格的に始まるとお互い恥ずかしさなどがありだんだん気まずくなって疎遠になった。陸上部の面子とは仲良かったがそいつらとはクラスが違った。しまいには中学の卒業アルバムはクラスの人たちからのメッセージはなく、陸上部の同期のメッセージしかなかった。それだけでもいいじゃないかという人も一定数はいるとは思うが。しかしそれだけではなくリョータは高校デビューもやらかしてしまった。それはまた自己中なことをして悪目立ちしてしまいクラスのみんなから引かれてしまったというものだった。さらに、運の悪いことにリョータのクラスには小学校からの付き合いであるマイがいて僕が中学の頃しでかしたことを自分が所属するグループに陰で喋ったことにより中学での失敗談がすぐにクラス中に広まり、リョータはクラスのみんなからいじられ、笑い者にされてしまった。こうしてリョータの高校デビューは華々しく散っていったのだった。それから3か月ちょっとが過ぎ球技大会を迎えようとしている。さっきから浴びてる視線は白い目だろうか。あぁ、多分白い目だろう。関係ない。その勢いでバスケの補欠枠にも手を挙げた。ここまでは我ながら上出来だとリョータは感じた。正直怖さはあった。結局サッカーとバスケ両方とも補欠枠はかちあい、「別室」で行われたじゃんけんでリョータはなんとかバスケの補欠枠とサッカーの補欠枠を手に入れた。ここまではここまでは良かったんだ。

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