Bの定義:第3話「あら?奇遇だね」

放課後の時間に突入しリョータのクラスはHRをして解散することになった。リョータは『最も冴えないグループ』と一緒に玄関で靴を履き替えた後別れて帰りの市営バスに乗った。リョータの家から高校までは約30キロぐらい離れていて通学にはまず自転車でバス停まで行き、市営バスに乗って通っている。そのため登下校に1時間くらいかかっていた。遠いっちゃ遠いとリョータは感じている。リョータは帰りのバスに乗ると小説を読み始めた。45分ぐらいバスは走ると自転車を置いてあるバス停に着いた。リョータがバスから降りて停めてある自転車のところに行き鍵を開けたときだった。
「あら?奇遇だね。」
リョータにとって知ってる声が聞こえてきた。リョータが声がした方向に顔を向けると高校のクラスメイトのマイがそこにいた。
「・・・なんでここにいるの?」
「なんでじゃないでしょ!私とリョータ君、同じ地域じゃん。もう忘れたの?たまたまリョータ君と帰る時間がかぶったから、普段学校で話さない分今話しかけたんじゃん!!」
「あっそうなの?別に、俺いなくても高校生活満喫してるじゃん。」
「昔のよしみだから、話してるのよ。はぁ・・・こうなるんだったらさっさと帰ればよかった・・・。」
マイはリョータに1発肩パンしてぷーってぷく顔した。
可愛い。
マイはリョータの小学校からの幼馴染だ。
小学生の時は親同士の付き合いから良く話す仲であったが、中学生になると些細な出来事から卒業するまで疎遠になってしまっていた。
同じ高校に入学し更に同じクラスになったが、リョータにとって中学の時に起きたマイとの些細な出来事がシコリとなり未だにマイと上手くコミュニケーションとれずにいた。
こうして肩パンされてぷく顔されてもどう反応したらいいのか、長い期間女子と話してこなかったリョータにはわからない。
立ち話も時間の無駄なのでリョータとマイは自分たちの自転車を押しながら話し始めた。
「まさか、俺とマイちゃんが同じ高校に入学するとはね・・・」
「しかも、同じクラスね。」
「マイちゃん、高校生活華々しそうで楽しそうじゃん?」
「そう?まぁ、いい位置にいるから華々しいのは確かなのかな?」
どうやらマイもクラスの中の位置づけ・立ち位置というのを意識しているらしかった。
「楽しいわけじゃないの?」
「う~ん、まぁ、色々と気にしないといけないから決して楽しいとは言えないかもね。」
マイは絶対に自分の事はあまり話さない人だ。自分の事を話す時は必ず何かをうやむやにするように話す。小学校高学年のときからマイはそうだった。
「そっちはどうなの?」
マイが聞いてきた。
「底辺の辺りで楽しくやってる。」
リョータはそれしか言わなかった。いや、それしか言えなかった。
「そっか。」
マイもそれしか言わなかった。ここで、「誰かさんのせいで~」とでも皮肉を言えばよかったのだがリョータは性格上そんなことは言えなかったし、そんなことを言って傷つけることはもうマイに対してはしたくなかった。その代わり、
「う~ん、でも、色々とやらかし過ぎてクラスで悪目立ちして肩身狭いかな?」
とリョータは自虐を言った。
「そうなんだ~。大変そうだね。」
マイはどこか適当に返した。
「球技大会何出るっけ?」
リョータの方から軽く話題を変えた。
「同じクラスなのにそんなのも覚えてないの?」
「いちいち誰が何にでるとか覚えてねーよ!自分のことで精一杯なのに。」
「ひど!!同じクラスなのに。教えないよ。」
マイの性格が出てきた。
「えー、いいじゃん。」
リョータは過去何度もこの秘密主義に弄ばれてきた。
2人の空間にしばらく沈黙が流れる。
その沈黙をセミの鳴き声が繋ぎ止めてくれた。
「一応、卓球のスタメンと男女混合ソフトバレーの補欠。」
マイが渋々口を開いた。
「へ〜。あ、そっか、中学卓球部だったもんな。」
「そ、だから。ソフトバレーは仲いいクラスメイトがスタメンだから流れでね。」
「そっかー。トーナメント上がれるといいな!」
「リョータ君はサッカーとバスケの補欠だよね。」
「よく覚えてるよな。」
「ふふっ。誰かさんとは違うから。」
「悪かったな。」
「けど、よくサッカーとバスケの補欠メンバーに入れたよね。」
「それ、同じグループの奴にも言われた。運良くじゃんけんで勝てたからね。」
「それほんと~?」
「ほんとだよ!それか俺がコネ使ったっていうのかい?俺がそんな人望もなければ、そんな勇気もないチキンな奴だってことマイちゃんがクラスの中で一番よく知っているはずだよ?」
「確かにそれもそうね。」
「うわ、ひど!!フォローぐらいしてよ。」
そういうと二人で笑った。笑い終わるとマイが聞いてきた。
「そいや、入学式前のクラスの初顔合わせ、リョータ君、私の顔見てびっくりしてたでしょ?」
「あ、やっぱ、ばれた?」
「ばればれ。なんで、びっくりしたの?」
「だって、マイちゃんも入学するなんて知らなかったもん。それに、名簿張り出されたとき自分がどこのクラスなのか、それしか見てなかったと思うし。でも、まさか一緒になるとは思わなかったよ。」
「ほんとね。」
入学してからこの3ヶ月ろくにちゃんとマイと話していなかったからこういう会話内容になってしまった。
更にここまで歩きながら話していると二人の帰宅する分かれ道まで来てしまった。
「んじゃ、このへんでバイバイ。球技大会、頑張ろうね。」
「おう。じゃぁな。頑張ろうな。」
リョータとマイはお互いそう言うと、自転車のサドルに乗り、それぞれの帰る道へと自転車を漕ぎだした。向かい風がすごい清々しい。リョータは、自転車を立ちこぎしながらマイと話せたことに感情を高鳴らせていた。もっと話したかったなという感情がリョータに芽生えさせていた。

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