東方天晶花/幻想郷覚書を読んだ

東方天晶花と幻想郷覚書を読んだ。面白かったけど恥ずかしかった。

これらは2009年〜2016年の間に連載してたネット小説である。お金をもらって連載されているのではなく、ただ連載していた。すごい。この辺りの年代のひたすらに趣味で、コツコツと楔を打ち続けたようなコンテンツめっちゃ好き。
ちなみに連載当時の中学生の俺はバチコリ連載を追っていた。

主人公が現実世界から幻想郷に行き、何の力もない状態から幻想郷の全てが見たいがために奮闘し、最終的に最強になるお話である。
所謂俺ツエー系ではあるのだが、弱かった時代が描写されているし、絡め手で戦うことが多いので、読んでいて意外性があって面白かった。
主人公の能力は強いのだが解釈の範囲が広く、段々と能力を使いこなしていく様は読んでいて共感できたし、自分だったら。。。と妄想を働かせることも容易だった。
難解な文章はなく、簡単な描写で読みやすいし、東方Projectという奥の深い設定を独自の解釈で落とし込んだ凝った設定を用いた物語の展開は手軽さと読み応えを両立し、読み進む手が止まらなかった。

しかしながらやっぱり「恥ずかしい」と思う瞬間も多々あった。お話自体は東方の世界観を踏襲し、作者も東方や、日本の神話などに造詣が深いこともあって読み応えはあるのだが、オリジナルの設定や文体には作者の願望がモロに来るからだ。

主人公は普通に「はにゃ?」とか言うし、主人公は女性らしい顔立ちで他のキャラクターに女装させられるし、主人公の能力を聞いて皆興味深そうな反応をするし、ところどころキャラは崩壊するし。なんというか作者の性癖というか、「僕の理想の異世界生活」みたいな願望が見え隠れしていて、その願望が前面に出たシーンにはご都合展開を強く感じた。
でも、それがいいのだ!!!

このネット小説は2010年代に掲載されていた。2009年〜2015年くらいの間というのは、インターネット全体が従来の陰湿でジメジメとした閉ざされたコミュニティと、オープンで発信することが盛んな大らかなコミュニティが混在したカオスな空間だった気がする。思い出補正もあるがこの時期が1番面白かった気がする。
この小説はそんな時代のカオスの潮流をサーフィンしながら生み出されたような作品で、面白さと作者の顕著な癖という、現代ではなかなかみられない独特の雰囲気が漂う作品だと思う。
そして当時の俺もそのカオスの波に塗れながらこの小説に出会い、溺れた。
超影響受けた。自分のことと関係のないことには全く興味を示さない主人公に憧れ、当時テニス部の部長だった俺はやる気を無くして座り込んだ部員に「お前が休みたいのは別にいいんだけど俺に迷惑はかけないでね(暗黒微笑)」などと吹いていた。死にたい。

めちゃめちゃに黒歴史でたまに当時を思い出して布団でバタバタと暴れているが、何かに陶酔して、自己投影して、自分は特別だと信じて疑わなかったあの頃を愛おしくも思っている。だからその当時を思い出し、あの頃の自分に戻るためにたまにこの小説を読む。

当時を思い出して読むことがすでに「あの頃に戻る」という目的から外れているかもしれないが、この小説は7年分ある。普通に読んで1ヶ月以上かかる。読み始めは昔を懐かしむかもしれないが、1週間も読んでいれば俺の心は厨二病全盛期の最高に無垢な心に戻っていた。

この小説に心酔し、寝る前の妄想がより具体的になり、毎日が楽しくなっていたあの頃の気持ちを思い出し、己の体に浸透していった。そして読み終わった後に「やっぱり面白いけど恥ずかしい」と思った瞬間に俺は23歳になる。

物理的に過去に戻ることはできないが、この気持ちの乱高下を享受することは、過去に戻ることよりもかけがえのないモノなのでは無いだろうか。

この小説は確かに恥ずかしいシーンが多くあるが、それはあくまで、今読んだらの話である。中学生少年の当時の俺はなんの疑問を持たなかったし(流石にはにゃ?っていうのは疑問だった)、なんならかっこいいと思っていた。この感情の変化は大人になった証である。
この小説がいつも変わらず10年以上ネットの海を漂っていたからこの変化に気づいたのだ。

東方天晶花と幻想郷覚書を読んだ、面白かったが恥ずかしかった。しかしこの恥ずかしさを無きものにするべきでなく、今と昔の自分の変化として楽しみ、いつか恥ずかしく無くなる日を楽しみに生きていくことも悪くないと思った。

最後に、作品のURLを掲載する。作者のSNS等のアカウントはもう動いていないが、もしまだ作者が存命であるのであれば、俺はこの作品に出会えて本当に良かった。人生を構築するものの一つであると伝えたい。

東方天晶花


幻想郷覚書


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