妄想日記『モノクロ兄弟』

ボクの名前は田中白17歳。
双子の兄だ。

ぼくの名前は田中黒17歳。
双子の弟だ。

町の人々は僕たちをこう呼ぶ。
“モノクロ兄弟”。

僕らは大阪の新世界で生まれた。
大阪の下町の下町。
通天閣の裏側にある築40年のオンボロ一軒家で生まれた。

両親はたこ焼き屋を営んでいて、
幼い頃の思い出は父の作ったたこ焼きでたこ焼きパーティーをしたことくらい。
休日に出かけたり、買い物をしたことは一度もなかった。
小さい頃から顔も声も身長も同じ僕らは、両親にもよく間違えられた。
「ボクは黒じゃない!白だよ!」
「ぼくは白じゃない!黒だよ!」
初めのうちはそんなこともあったが、
今ではもう心配ない。
何故なら、僕らはとっておきの秘策を思いついたのだから。

10歳の誕生日。
両親から、
「誕生日プレゼントは何が欲しい?」
と聞かれた。
ボクは、
「真っ白なTシャツが7枚欲しい」
ぼくは、
「真っ黒なTシャツが7枚欲しい」
そういったのだ。

次の年は、
「ボクは真っ白なスニーカーが3足欲しい」
「ぼくは真っ黒なスニーカーが3足欲しい」
その次の年は、
「ボクは真っ白なリュックが欲しい」
「ぼくは真っ黒なリュックが欲しい」

それから僕らは、誰からも間違われないようになった。

そして僕らは、“モノクロ”にとりつかれたかのように、毎年毎年モノクロアイテムの数を増やしていった。

モノクロの腕時計、モノクロのパンツ、モノクロの筆箱、モノクロの弁当箱。
昼休みは売店で、
「牛乳ください!」
「珈琲ください!ブラックで!」
家族で外食に行ったならば、
「ボクカルボナーラください!」
「ぼくイカスミパスタください!」
信号が青になると、
ボクは大股で白線を歩き、
ぼくは大股で黒面を歩いた。

それから7年と364日が経って、
明日は僕らの誕生日。
「2人とも、誕生日プレゼントは決めた?」
母さんはこたつで寝転ぶ僕たちにホットミルクとホットコーヒーを持って来て聞いた。
ボクはみかんを食べながら、
「ボクは白いスマホケースが欲しい」
という。
すると黒は、
「俺、ナイキの赤いスニーカーかな」
ボクは言った。
「え!?黒どないしたん?」
黒は、みかんを丸々一つ口にしてムシャムシャと頬張りながら。
「べつに」
ボクと母さんは目を合わせて首をひねった。

18歳の誕生日。
ボクは白いスマホケース。
黒はナイキの赤いスニーカーを貰った。

次の日から、黒はクラスの人気者。
「黒のスニーカーカッコいい!」
「黒ってお洒落だよなぁ」
「黒くんってカッコいいよねぇ」

そうして、僕らは“モノクロ兄弟”から、
“黒と双子の兄”になった。

弟の黒は、どんどん人気者。
黒が青いお洒落なスマホケースを買ったら、クラスのみんなが黒と色違いの同じスマホケースを付ける。
黒が黄色いスポーツバックを背負って登校すれば、次の週から学校は黒と色違いのスポーツバックだらけ。
黒が刈り上げヘアになったら、クラスの男子はみんな刈り上げヘアになった。

ボクはとうとう自信を失い、学校では名前も呼ばれなくなった。

そんなときだった。
黒が、真っ黒なスニーカーで、真っ黒なリュックに、真っ黒な腕時計をして学校に来た。
すると次の週からクラスのみんなも、真っ黒なスニーカーに真っ黒なリュックに、真っ黒な腕時計をして学校に来たのだ。
教室はまるでお葬式。
そんな今日、学校では開校50周年記念日の全校集会があった。
黒はいつしかクラスを超え、全校生徒のアイドルになっていたから、
体育館は真っ黒な集団がずらりと並ぶ。

校長先生の朝の挨拶が終わり、全校集会が終わる直前、事件は起こった。

開校記念のドッキリで、あの人気なお笑い芸人が舞台の前に姿を表したのだ!!

それはボクがずっと憧れていたテレビの人気者、白田優作さん。
白田優作さんは舞台の前で、マイクを持ってこう言った。
「君ら全員真っ黒やなぁ!全然個性ない!!そんなんあかんぞ!おもろない!一番後ろの右端のあの子見てみ!あの子だけやぞ自分の色もっとるの!!」
一番後ろの一番右端。
黒い集団が、一斉にボクの方を振り返る。
「あの子みたいに自分にしかない色見つけなあかんで!自分にしかできへんこと見つけてみ!自分の人生やねんから自分色に染めなあかんで!」

その次の週、
学校はいつもよりカラフルになった。
黒は相変わらず、赤いスニーカーを履いている。

ボクの名前は白。
好きな色は、白。
好きな飲み物は、ホットミルク。
そしてボクの夢は、
真っ白な家を父さんと母さんにプレゼントすることだ。

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