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投機筋がロングボンド先物で過去最大のショート、その意味

 ロイターの記事(20/10/9付け)で「投機筋が30年物米国債先物ネットショート、過去最大に売り越している」との記事ですが、ちょっと違和感があったので詳しく見てみました。
https://jp.reuters.com/article/usa-bonds-cftc-idJPKBN26X02N
金利は上昇傾向(価格は下落)にあり、4カ月ぶりの高水準を付けている。長期債は物価高で資産価値が目減りする可能性があるため、インフレ期待に敏感に反応する。大型の刺激策と国債発行が長期金利を押し上げると考えるのが理にかなっていると指摘。
とのことですが、ショート(金利上昇にかけている)しているのは、主にレバレッジ・マネーです。反対に実需筋のアセット・マネージャーのポジションは過去最大級のロング(金利低下にかけている)となっています。アセット・マネージャーは、約50万枚までロングを増やしています。このレベルはリーマン・ショック後の2009年初頭とほぼ同じです。レバレッジ・マネーのショートは、約40万枚と過去最大です。2008年から2009年にかけて、レバレッジ・マネーは、15~20万枚のショートでした。
 投機筋のポジションですが、ここ数年では確かに最大級のショート(金利上昇)となっていますが、2007年~2010年にも、同程度かもしくそれ以上にショートとなっていました。(下グラフ参照)

CFTC 旧フォーマット ロングボンド先物のネット・ポジションと30年金利

CFTC 先物のみ 投資家種別ネット・ポジション

CFTC オプション含む投資家種別ポジション

ウルトラ・ロングボンド先物 CFTCネット・ポジション

ウルトラ・ロングボンドの先物のネット・ポジションを見る限り、レバレッジ・マネーのショート(金利上昇にかける)は増えていません。

 先物のみの金利との相関係数ですが、レバレッジ・マネーは逆相関にあります。一方、アセット・マネージャーは正の相関を示しています。投機筋と言われる投資家は主にレバレッジ・マネーにカテゴリーされるヘッジファンドなどです。ヘッジファンドはよく現物ロングの先物ショートのポジションを取ります。現物は資金調達手法としてレポに出せるので、レバレッジが効かせることが可能なので、現物ショートはあまり行いません。なので、現物ロング、先物ショートということで、金利リスクを抑えます。このポジションをとるだけで、他の期間セクターで同じようなポジションをとることが可能となります。金利スワップとのアービトラージや合成ポジションをとることが多いです。
 むしろ、先物のショートが減ってきた時の方が、ロングボンド市場(金利市場)にとっては怖いことです。

ロングボンド先物 CFTCポジションと金利の相関【2020年10月6日時点】(期間は2006年6月より)

ロングボンド先物 CFTCポジション(旧フォーマット)と金利との相関係数【2020年10月6日時点】(期間は1986年1月より)

まとめ
 ロイターの記事では、投機筋のネット・ショートが増えていて、金利上昇のリスクがあるとのことですが、リーマン・ショック後のポジションに似ているだけで、現状、金利上昇のリスクはそれほど高くないと思います。レバレッジ・マネーは先物のショートだけでポジションをとるにはあまりにも投機になり、まともなヘッジファンドはそのようなポジションをとることは少ないです。それとも、短期セクターのロングとのイールドカーブ・プレイ(スティープ化にかける)をしている可能性はあります。アセット・マネージャーのポジションが極端に先物ロングとなっているので、ベーシス取引(先物売りの現物買い)の投資機会を見つけたのかもしれません。
 ウルトラ・ロングボンド先物のポジションも減少していることから、それほど金利上昇のリスクは高くないと思います。
 債券は現物を大量に保有している投資家が一番有利です。先物でヘッジすることも可能です。レポ市場でスクイーズをかけることも可能です。現物を保有しているアセット・マネージャーのポジション繰りの方が市場への影響は大きいです。過去は金利との相関も高かったです。アセット・マネージャーのポジションには注意してみていきたいと思います。

※当資料は、投資環境に関する参考情報の提供を目的としてFuture Researchが作成した資料です。投資勧誘を目的としたものではありません。当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。ここに示された意見などは、当資料作成日現在の当方の見解であり、事前の連絡なしに変更されることがあります。投資に関する決定は、ご自身で判断なさるようお願いいたします。

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