出頭申告と在留特別許可

元入管職員のヨーキです。

出頭申告という制度を知っていますか?

東京だと調査第三部門。
名古屋だと調査第二部門。

不法滞在にある状態の人で、

・帰国を希望する人

・在留を希望する人

いずれも、自ら入管庁に申し出ることができる制度のことです。

さて、出頭申告をすることによるメリットはひとつです。

仮放免を受けられることです。
収容されている方々が熱望しているあの、仮放免です。

私、収容所で1年間働いていましたが、
出頭申告した方、いなかったように思います。

みなさん不法滞在もしくは不法入国の方々で、
シャバでの生活を、納税義務も果たさず、自由謳歌していたところ、
「突然」捕まってしまった方々でした。

突然とは、語弊がありますね。

いつかは捕まるとわかっていて、不法状態を継続していた、
というのが正しいと思います。

そんなこんなで、出頭申告について書いていきます。

まず、出頭申告していれば、たいていは収容されません。
即日で仮放免された状態で手続きができます。

自ら出頭してきた = 逃亡の恐れが低い

ということです。

逆に、

捕まるまで出頭しなかった = 逃亡の恐れが高い

ということです。
不法滞在捕まえたぞ!身柄チェックしたし、ヨシ、仮放免!
とはならないですよね。不法滞在って犯罪ですから。入管法24-4-ロです。

出頭申告するのは、過ちを犯してしまったけど、
「在留特別許可」を嘆願する人たちです。

在留特別許可とは、通常の退去強制手続きの中で、
法務大臣が出すものであり、申請というものはありません。

世の士業の方々で、ホームページなどに堂々と、
「在留特別許可申請」などと書いていらっしゃる方、
時々見受けられますが、恥ずかしいので直したほうが良いです。

在留特別許可が出る要件は、入管にガイドラインとして
公表されています。

裁判例などを読む限り、たいていはこのガイドラインにさえ
沿っていれば、在留特別許可が下りる余地は十二分にあると思います。

○ 引続き日本国内での生活を希望される方は,まずは入国管理官署に出頭して,日本で生活したい理由等を申し述べてください。   

・ 先般改訂した「在留特別許可に係るガイドライン」には,在留特別許可の許否判断を行うに当たっての積極要素として,日本人と婚姻が成立している場合などのほか,
(1)自ら入国管理官署に出頭申告したこと,
(2)日本の初等・中等教育機関に在学し相当期間日本で生活している実子を監護及び養育していること,
(3)日本での滞在期間が長期に及び定着性が認められること等を挙げていますので,このガイドラインをよくお読みください。
 例えば,(3)に該当し,かつ,他の法令違反等がない方が,出頭申告した場合には,在留特別許可方向で検討されやすくなることをガイドラインで紹介しています。 ・ また,摘発等により違反が発覚した場合は,原則,収容されることとなりますが,出頭申告した場合には,仮放免の許可により,収容することなく手続を進めることが可能です。 ・ 別紙[PDF]のとおりの退去強制手続の中で,申出の内容を審査した結果,法務大臣から特別に日本での在留を認められた場合には,不法滞在の状態が解消され,正規在留者として引続き日本で生活することができます。 ・ なお,在留特別許可は,積極要素と消極要素を総合的に考慮して許否を決定しますので,結果として許可されない場合には,退去強制令書が発付されることにご留意ください。
出頭申告のご案内~不法滞在で悩んでいる外国人の方へ~ | 出入国在留管理庁 (moj.go.jp)

どうでもいいですが、
公文書て、読点は「、」じゃなくて「,」なんですよね。
どうやら今後は「、」に変わっていくみたいですが。

さて、日本にいる不法滞在の方には、
出頭申告という制度を活用することで、
正規滞在へ逆転できる可能性があります。

しかし、ほぼ全ての被収容者は、摘発、警察、刑務所などを経て、
捕まってしまう方々ばかりです。

そして、送還忌避に転じては、
「日本には私たちは住む権利がある、在留許可を出せ」
と声を上げます。

日本に長年潜伏していれば、入管に出頭するチャンスもあったでしょう。
家族がいればなおさら、このままではよくない、と思ったはずです。

もちろん自ら捕まるくらいだったら潜伏するだろう、
といえば、当然かもしれません。

しかし、不法滞在というだけでも、

・税金を払わない
・雇用者も税金逃れ
・当然まともな雇用者ではない
・弱みを握られ、搾取される可能性
・健康保険にも加入できない

などなど、よくないことがたくさんあります。

そもそも不法滞在をせずに正規滞在をすればいいし、
不法滞在になる理由がなにかあったとして、理由があれば出頭すればいい

正規滞在もしていない、出頭もしない、
なぜ入管が、日本が在留資格を出さないのか、
少し考えてみていただきたいと思います。

在留特別許可

不法滞在の方々は
「日本にいる理由が私にはある」と申されますが、
入管でもガイドラインを定めており、それに当てはまらない人が収容され、退去強制令書を発付されているのが現状です。

入管は、下記積極要素に該当する場合は、
在留特別許可の可能性が高まるとしています。

・日本人の子
・子供が未婚(相当期間同居、監護養育をしている)
・日本人と相当期間共同生活していたり、子がいる
・自ら出頭した
・その他人道上の配慮

細かく見ればいろいろありますが
子供に関してはかなり積極要素としては強いものがあります。

2008年ごろ、フィリピン人一家の退去強制が話題になりました。
当然、在留特別許可を出すかどうかの判断を経て、結果、
全員退去強制または子だけ残して両親退去強制を迫りました。
結果、両親が退去し、子は正規滞在の叔母のもとで、
生活できることになりました。

このケースでは、なぜ両親が退去強制になったのか?
それぞれの積極的要素と消極的要素を羅列してみます。

<積極的要素>
・日本で10年以上同居し、子供を学校に通わせていた両親。
・日本で生まれ日本語しか話せない子供。
・同居し、養育していた実績。

<消極的要素>
・両親ともに偽造のパスポートで入国していた(正規滞在の期間全くなし)
・母親は懲役刑を受けている(一生入国拒否)
・出頭しなかった(正規滞在の嘆願をしなかった)
・両親の家族など、親戚一同不法滞在歴がある

結果、消極的要素が強い、という判断がされたわけです。
もし、例えば出頭していたら、在特にひっくり返っていたかもしれません。
懲役刑までいかなければ、在特だったかもしれません。

ただ、この時はニュースに大いに取り上げられ、
世論も大きくうずまきました。

結果、強制送還により子供を引き裂くのはあんまりだから、
全員在留を認めよ、という流れになっていたように思います。

結果として、両親は退去強制されましたが、
本来は入国拒否期間中にありながら両親の来日が許されています。

確かに、子供にはなんの罪もありません。

個人的には在留を認めるべきだと思います。
中学生まで日本で育ち、日本語しか話せない環境で、
突然行ったこともない国へ帰れと言われても、
子供の心には大きなダメージを与えることは想像に難くありません。

しかし、両親は?

数々の消極的要素が、子供がいることによって、
打ち消されてしまうのでしょうか?

では、殺人犯が日本で子供を養育していたら?
強盗犯だったら?
窃盗犯だったら?
不法滞在だったら?

どこかで線引きをするのが、法律です。
不法滞在”だけ”なら、許してあげるべきでしょうか?

きちんと手続きを踏み、在留資格を取得し、
更新のたびに現状を報告し、更新手数料を納め、
税金を納め、子供を産み育ててる外国人夫婦と、

短期滞在で入国後不法滞在となり、
在留資格を取得することなく、
税金を納めず、子供が大きくなってから摘発され、
在留資格を求める外国人夫婦。

同列に扱うべきでしょうか?
後者が在留資格を取得できるなら、
前者はルールを守るだけ無駄ということになりませんか?

感情論に訴えず、簡単なようで難しい問題に、
真っ向から議論しなければいけないと思います。


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