「フットサル」について(時系列にみるフットサルの変化・変遷)

ものごとを見る時に「古今東西」というように、縦軸(時間軸)と横軸(同時代/世界・地域)を見ることで、いろいろ分かることがあったりします。今回は時間軸でフットサルについて書きました。


【W杯の上位4チームの変遷】

前回、W杯全体のレベルは決して高くないということを書きましたが、ただ、ベスト8以降はやはりレベルは高いし、トップ4は雲の上の存在であることは確かです。そこで、歴代の大会で1位〜4位の移り変わりや優勝チームの変遷を確認してみました。

1989年大会
①ブラジル/②オランダ/③アメリカ合衆国/④ベルギー
1992年大会
①ブラジル/②アメリカ合衆国/③スペイン/④イラン
1996年大会
①ブラジル/②スペイン/③ロシア/④ウクライナ
2000年大会
①スペイン/②ブラジル/③ポルトガル/④ロシア
2004年大会
①スペイン/②イタリア/③ブラジル/④アルゼンチン
2008年大会
①ブラジル/②スペイン/③イタリア/④ロシア
2012年大会
①ブラジル/②スペイン/③イタリア/④コロンビア
2016年大会
①アルゼンチン/②ロシア/③イラン/④ポルトガル
2021年大会
①ポルトガル/②アルゼンチン/③ブラジル/④カザフスタン

フットサルの黎明期はブラジルが三連覇しており、向かうところ敵なしといった時代だったのだと思います。その後も、2016年大会以外は常にベスト4に入るなど、基本的にブラジルの強さが際立っていると思います。その中で、スペインが少しずつ上がってきて、2000年にはじめで王者になり、その後、スペインとブラジルが世界をリードしている印象です。そして、近年、アルゼンチンやポルトガルが浮上してきたと言えます。これを少し整理してみます。

【時代の変遷(フットサルの変化)】

1.「個」の時代
テクニックをベースとしたブラジルが世界を席巻していた時期。サッカーの4-4-2の中盤のダイヤモンドのような配置で3-1をベースとしたフットサルが基本となっていたかと思います。これが世界に広がったため、うわゆる「ポジション」の呼び方はポルトガル語で普及されたのだろうと思います。

2.組織の時代(🇪🇸の影響)
ブラジルの個人技術に対して、組織で対抗し、フットサルの組織化が進展した時代に突入します。選手間の連携を軸にした4-0(クワトロ・セロ)が世界に浸透していきました(クワトロブーム)。ポルトガル、ロシア、イタリアなどの西欧の国を中心にスペインの影響を強く受けていたと思います。

3.フィジカルの時代
「個(技術)」と「組織」で揺れ動く中で、もう一つ別の軸である「フィジカル」の視点がクローズアップされる時代が到来したかと思います。アルゼンチンを筆頭に、いわゆる「頑張るチーム」「プレー強度の高いフットサル」が台頭してきた。また、「速さ」という意味で、ポルトガルのように縦に速いフットサルもある意味でフィジカル的と言えると思います。アルゼンチンやポルトガルが直近でW杯を制しているという意味で、フィジカルの時代と考えてもよいと思います。

ここから次はどのような時代になるのか。いろいろなものが融合してくる時代だと思いますが、こうした流れがフットサルの潮流なのだと思います。

【近年の流行】

上記に書いたように、すべてが高いレベルで融合した時代になってきましたが、ここに至るまで、いろいろな流行がありました。戦略・イメージよりももう少し具体的な部分について振り返ってみようと思います。

ブラジルの技術に立ち打ちできない時代から、スペインが組織フットサルを広めて以降、「クワトロブーム」が沸き起こります。その後、前プレ&前プレ回避のせめぎ合いの中で、やはり前方に基点を置きたいということで、3-1へ戻る動きが増えてきます。「ピヴォシステムへの回帰」です。ただし、クワトロブームの中でピヴォが育っておらず、全世界でブラジル人ピヴォの争奪戦が繰り広げられました。スペイン、ポルトガル、ロシアなどは特にブラジル人ピヴォの獲得が多いですし、一部の欧州の国々ではブラジル人を帰化させる動きも多かったです。

一方で欧州ではなく、ブラジルでも変化はあります。ブラジル人が欧州リーグでプレーすることで自然と「組織化」した部分もありますし、ブラジルのフットサルで近年明確になってきた考え方としては、2つのポイントがあります。ひとつはサインプレーです。ジョガーダと呼ばれます。これは以前から言われていたものですが、ブラジル発信で世界に広まるものも出てきます。日本でも「ボランチ」や「アルカ」などがそうです。もうひとつのポイントが「配置・動きのバランス」についてです。ピヴォを置いた3-1の配置はバランスがいい。これを前提に個人技がありましたのが以前のブラジルの印象です。近年では、組織として動きを作り出すために、あえて「バランスを崩す」という考え方があり、数年前にブームになったボランチなどとこれらの文脈の中で生み出されたものだと思います。ゲームに流れを作るためにあえてバランスを崩す。このような考え方も世界に広がりつつあります。

また、こうした文脈の中で、「ピヴォシステムへの回帰」と同様に、「マンツーマン(M2M)」の傾向が高まります。ナショナルチームは練習時間などの関係からM2Mの傾向はありましたが、クラブチームもほとんどがM2Mをベースにした守備体系になっているところが多いです。

このようにM2Mが顕著になる中で、「アイソレーション」(サイドアイソ)という戦術が注目されます。これは質的優位性を活かした戦術になります。ボールホルダーを除く他のFP3枚が逆サイドへマークをピン止めすることで、ボールホルダーに1対1を仕掛けさせるというものです。

もうひとつ、質的ではなく数的な優位性を活かした戦術も脚光を浴びました。一般的には「フライングGK」と呼ばれますがGKがペナルティエリア外に出てきてボール保持・攻撃に参加するものです。「戦略的5-4」など、人によって呼び方は異なります。自分は「GKのFP化」と呼んでいます。GKがペナ外でもボールに絡むことで、単純に数的に優位性を築くことができます。

また、アイソレーションとGKのFP化の特徴を合わせた、「自陣ゾーンでのアイソレーション(1-3システム)」も見受けられます。ボールホルダー以外の3枚がマークを引き連れて相手ゾーンに侵入することで、自陣サイドでボールホルダーの質的優位性を活かすことができます。低い位置なのでリスクが高いようにも見えますが、GKを活用することで、制限はありますが、2対1という数的な優位性を活かすこともできます。

いろいろな「流行」が生み出されては対策されるという繰り返しで現在に至っていると思います。

いじょう、おしまい。

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