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吉田知那美選手の「大丈夫!」にみる「楽観的」と「楽天的」のちがい

私は、カーリングと言うスポーツが大好きだ。正確にいうと、4年前の平昌オリンピックで、その面白さに気づかされ、大好きになった。

今回の北京オリンピックでは、運よくほとんどの日本戦をリアルタイムで観戦することができているのが嬉しい。それはもう、めちゃくちゃ楽しんでいる。

さて、試合を観戦していると、日本代表はどの国よりも大きな声を出して、細かいコミュニケーションをとっていることが分かる。そして、その中でもひときわ目立つ声の主こそ、吉田知那美選手だ。

「ナイス―!」
「ラインはいいよー!」
「うん、そだねー、それでやってみようかー!」
「ヤーップ!!!」

プレー中の指示がどれだけ適格なのか、という専門的なところは全く分からないが、プレーの合間合間や、試合後の取材対応時に発せられるポジティブな言葉は、本当に素敵だし、お見事だ。もはや、なんでそんなこと言えるの…その人間性、どうやった手に入るの…と、尊敬すらしてしまう。

ここで、今大会発せられた、知那美選手の主なポジティブワードを挙げておこう。



「4年前の平昌五輪のときも大会中盤に研磨が行われて、私たちはそこで大きな失敗をした。その失敗がこの試合にすごく生きたと思ったので、本当に無駄な経験なんて何一つないんだなと試合をしながら思っていた」

―中国戦勝利後のインタビューで、前日にストーンが研磨され、それまでと曲がり具合が変わったことへの対応について聞かれて


「2試合しかないと思うのか、2試合もあると思うのかで気持ちの部分は違う。次は今日よりも、昨日よりもいいプレーができるように準備したい」

―ミスと不運が重なって敗れたイギリス戦後のインタビューで、準決勝進出に黄色信号が灯ったことに触れて


「前半頑張ったおかげで、私たちには点差のアドバンテージがあったので。ひっくり返されたのではなくて、私たちが前半頑張ったからこそ、その4点取られても大丈夫な状況にしたというふうに考えれば、私たちに精神的なアドバンテージはしっかりあったので。4点とられた後にしっかり2点とれたのはチーム力なんじゃないかと思います」

―アメリカ戦勝利後のインタビューにて、第7エンドでミスが絡んで4点を取られ、同点に追いつかれたシーンを振り返って


「4位上がりの私たちの最大のアドバンテージはラウンドロビンで他の3チームよりもたくさんのミスだったり、劣勢を経験できていることでした。私たちは3点取られることも4点取られることも経験していたので、そこに関しては何点取られても驚くことなく、1点アップなんだという冷静なエンドの展開を作れたのがよかったと思います」

―準決勝で勝利した直後のインタビューで、試合中スイスに3点取られたシーンについて問われて


「生きていたらこんなことあるんだなって。私たちは4年前にブロンズメダルゲームに勝って、ブロンズメダルをとった。そのあとの苦悩もあったんですけど、ミュアヘッド選手はあそこでメダルを取れなかったことで、4年間とても苦しんだ。その苦しみは彼女にしかわからないと思うが、その対戦相手が私たちだったということで、勝ち心地がよかったかといえばそうではなかった。今回はメダリストとして次のステージで戦える。う~ん、4年間お互い違う状況で頑張り続けたご褒美なんじゃないかなと思います」

―決勝進出決定後の取材で、次の対戦相手が4年前3位決定戦で下したイギリスチームだということに触れて


・・・


これらのコメントを見て分かるように、知那美選手はとても前向きだ。どんな状況でも、必ずひとつはポジティブな言葉が入っている。どんな困難な状況でも、絶対に悲観しない。言わば、常に楽観的なのだ。

ここで大切なのは、知那美選手はあくまでも「楽観的」なのであって、「楽天的」ではないということ。


一見似ているこの二つの言葉には、こんな違いがある。

楽観的
〘形動〙 物事の成り行きをよい方に考えて心配しないさま。先行きを明るく考えてくよくよしないさま。
楽天的
〘形動〙 物事にくよくよしないで、何事も良いようにとらえるさま。楽天であるさま。のんきなさま


どちらも、「物事を良いようにとらえる」「くよくよしない」という部分は一致しているように思える。では、どこが違うのか。それは、「のんき」かどうか、ということだろう。

「楽天的」には、「のんき」という意味が含まれているが、「楽観的」には含まれていない。


やや言葉遊び的な気もするが、「楽観的」は「前向きだがのんきではない」ことで、「楽天的」は「前向きでのんきなこと」という感じだろうか。

イメージとしては、楽観的な人は、何かマイナスなことが起きても「大丈夫大丈夫、次はいい結果になるようにがんばろう!」と考えるのに対し、楽天的な人は「大丈夫大丈夫、次はきっとなんとかなるさ!」と考えると言ったところ。

この違いは、小さいようでとっても大きい。

いわば、楽観的な人は、足元にある「最低」という穴をしっかり見てから前を向いているのに対し、楽天的な人は「最低」を見ずに前を向いているのだ。これでは、意気揚々と前に進んでいても、どこかで穴に落ちてしまうだろう。

そういう意味では、知那美選手はまさに「楽観的」と言えよう。
どんなに不運だろうと、どんなにミスが続こうと、必ず前を向く。ただ、不運やミスを「たまたま」や「仕方がない」では片づけず、「どうしたらもっと良くできるか」をしっかりと考える。どれだけ苦しい場面でも、そこに存在しているプラスの側面を見つけることができる。

ここが素晴らしいのだ。まさに、理想的なポジティブ思考と言えるだろう。

そんな彼女だからこそ、その口から発せられる「大丈夫!」には、誰よりも強いパワーがあるのだ。



余談だが、インターネットで「ポジティブ」と検索すると、「ポジティブになる方法」という検索ワードが上位に表示される。もともと、日本人の8~9割は心配性で悲観的(イメージは悪いが、これも活かし方次第なので必ずしも悪いことではない)な遺伝子タイプを有しているとされるので、多くの人が「ポジティブになりたい!」と思っているのだろう。

無理やりポジティブになる必要は全くないのだが、それでもポジティブになりたいという人は、楽天的にはならずに、ぜひ知那美選手のように楽観的になってほしいと思う。


さて、いよいよ2/20は、金メダルをかけてイギリスとの決勝戦が行われる。試合そのものももちろん楽しみだが、上手くいっている時、上手くいっていない時それぞれの、知那美選手をはじめとする日本代表チームが発する言葉に、注目しておこう。
がんばれ、ロコ・ソラーレ!

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