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VALIS 1stワンマンライブ「拡張メタモルフォーゼ」について

昨日のVALISの1stワンマンライブ「拡張メタモルフォーゼ」の大反響を受けて、本ライブのパンフレットに掲載された“PIEDPIPERと操桃の対談”を少しの加筆を加えて、緊急転載致します。


バーチャルサーカス団「VALIS」初となるワンマンLIVEを記念して、KAMITSUBAKI STUDIO、SINSEKAI STUDIO統括プロデューサーのPIEDPIPERとVALISディレクターの操桃のスペシャル対談を実施。VALISの秘話やPIEDPIPERと操桃の裏話など、存分に語り合ってもらいました。

(「拡張メタモルフォーゼ」パンフレット制作チーム)



ー「VALIS」の名前の由来について

PIEDPIPER(以下、P):個人的に、古いSF小説が好きで、なんらかのネーミングの際にはよくヒントにさせてもらったりしているのですが、VALISもそうですね。昔のSF小説から引用して付けさせて頂きました。

VALISの正式名称である「Virtual Artificial Living Intelligence System」は小説のフィリップKディック版のVALISの元々の略称をオマージュして付けています。


ーKAMITSUBAKI STUDIOとVALISについて

P:KAMITSUBAKI STUDIOとの関係性を明かすことには実は当初不安もあり、プロデューサーとしてはだいぶ長い間明言はしてきませんでした。とても正直にお話すると、VALISには、KAMITSUBAKI STUDIOでやってきた流れを「拡げる可能性」と「やや方向性がずれてしまう可能性」がどちらも存在してて、悩ましい部分が多く自分としてはバランスをみながら少しブレーキをかけながら関わってきた節もあります。またバーチャルシンガーはプロデュース出来るけど、性質もルールも違うバーチャルアイドルグループを自分がちゃんとプロデュース出来るのか、そこにもかなり不安がありました。
自分の中では、ある意味非常に実験的なプロジェクトだったんです。

そんな中で、操桃や関わってくれたクリエイターさん達が途中からすごく良くグルーヴしはじめて、現場の人間がVALISにより命を吹き込んでくれたんです。
勿論VALIS本人達もそれに凄く触発されて更に本気で頑張ってくれた。それで僕も腹をくくって、神椿との関係性をきちんと出そうと決めました。
またKAMITSUBAKI STUDIOの姉妹プロジェクトであるSINSEKAI STUDIOを立ち上げて、チームを分ける事でようやく精神的にもバランスが取れるようになってきた側面もあります。

今迄大枠では監修をしてきたし、これからも彼女達には関わっていくつもりなのですが、VALISがようやく盛り上がってきたのは現場の力が大きいので、花譜達とかと比べると少しだけ距離を持って監修はしつつ、後方支援を中心にしていこうとは思っています。

操桃(以下、S):PIEDPIPERから少し離れ、私に引き寄せるということは、PIEDPIPERプロデュースのプロジェクトであるという気質が薄くなってしまうという事でもあるので、少し怖さはあります。私のやり方が「すごくやりたいから」という熱量で引っ張っているというよりは、ある道筋に対してやっていく、という感じなので、今まさに、ライブまでの道筋は明確だったけど、その先に関してはこれから創っていくというところで、不安やプレッシャーも大きいです。

P:もともと神椿と深脊界では運営方針や世界観など、構想段階からかなりの解離がありました。やっていることも、バーチャルシンガーとバーチャルアイドルでは似ているようで全然違います。深脊界はもう少しごちゃまぜな世界観というかカオスをテーマにしているんですよね。だから今迄やった事の無い事を前向きにやりたいと思っていて。

また深脊界は複数の会社とのコラボレーションプロジェクトでもあり、実験的な企画をやっていく中で、僕の今迄のやり方とはまた違う方法も試してみる必要があるような気がしていました。

特にバーチャルアーティストというのは、そもそもアバターとオリジン(本人自身)という構造上、オリジンである本人達にセルフプロデュース的に全てをお任せするのではなく、アイドルのようにどうしてもプロデュース性が必要になってきます。ただ本人の意志が弱まった形でプロデュースしすぎてしまうと上手くいかない傾向もあると思っていて。
温度感を伝える為にはただクリエイティブを作りこむだけでは駄目で、本人の意思や個性を引き出す事が大事だと思います。

そこで、操桃のような存在が、メンバーの子達と少しくだけたコミュニケーションをとり、それを活かしていくというやり方で、運営もアイドルもお互いに成長する流れを実践しています。



ーーー操桃の登場とVALISの世界観について

S:「操桃」は2021年7月、VALIS初のストリーミングカバーライブ「旋律コレクション」の直後にSNS上で登場させていただきました。
実はもともとVALISのストーリーの一部に「ソート」という鼠のキャラクターがいまして、彼はVALISのプロジェクトが始まった当初は黒幕のような存在として想定されていました。
もともとは運営や裏方というようなイメージで作られたキャラではなかったんです。あくまでもフィクションのストーリーを作っていく為の存在でした。

ただ、私が深く関わるようになり、プロジェクトを牽引するようなポジションになってきたときに、PIEDPIPERの助言もあり、ディレクターとしてのリアルな私と、ソートのキャラクターが融合していったという裏話があります。

P:操桃とソートは全然別の存在だったんだよね。
神椿のプロジェクトもそうですが、物語が動き始めてから、ストーリーが変化していくことって実は良くある事なんですよ。
ファンのみなさんの反応、オリジン達の変化、関わってくれるクリエイターさん達からいただくもの、色々なものに影響をされながら共創していく。設定やストーリーが前向きに変わっていくことは、ある種「週間連載の漫画」のように大変でありながらも非常に興味深いです。

S:映像ディレクター陣をはじめ、オーダーした以上のものを返してくれるクリエイターさんたちにも、とても感謝しています。みなさんがMVやファンアートの中で「自分の中のVALIS像」をそれぞれ返してくださり、それらを取り入れて公式の設定にしていくことも多々あります。
個人的には、これも大きなモチベーションになっています。

P:関わってくれた人たちが本気でやってくれて、想像以上に良いものができていると感じます。クリエイターさんの熱量をぶつける「キャンバスとしてのVALIS」の盛り上がりに対して、VALIS本人達もそのクリエイティブをモチベーションに感じてくれたら、相乗効果で更に盛り上がっていけると思います。


ーキャラクター原案のねこ助さん抜擢について

P:もともと依頼のキッカケは、VALISの「バーチャルとリアルを行き来する」というコンセプトを踏まえて、むしろあまりバーチャル畑の絵師さんではない方を探していたと思います。
ねこ助さんはSNS上での活躍とかを見ていただいても分かると思いますが、バーチャルとは特別接点がある訳では無いクリエイターさんでした。それでも我々の構想に理解を示してくださり、期待以上の素晴らしいデザインを産み出して頂けました。

S:そうですね。関わってくださる皆様、本当に素晴らしい方ばかりなのですが、特にねこ助さんへは、本当にこの場を借りて深い感謝を申し上げたいと思っていました。
ねこ助さんが描くイラストに内包されるダークさやファンタジックな要素をベースにして、VALISの世界観を作り上げてきました。
ミュージックビデオやパッケージ商品など、こちらから依頼して描いてくださったアートワークだけでなく、ねこ助さんは積極的にファンアートを描いてくださったり、メンバーにもSNS上で愛をもって接してくださり、VALISにとってとても大切な存在です。

P:ですね。ねこ助さんには本当に感謝しています。



ー「バーチャルとリアルを行き来する」というコンセプトについて

P:VALISの子達は、もともとヴィジュアル的にもダンスなどの力量的にも、表舞台で活躍出来るポテンシャルがある子達です。
メンバーは過去にリアルでの活動を、(少しですが)してきた実績もあります。ただ、既存の形でこのままアイドルグループとしてやっていくよりも、もっと違うアプローチで彼女達の才能を活かせないのかと考えていた時に、僕自身が花譜などのプロデュースでバーチャルの可能性に気付き始めていたので、バーチャルに転生させる方法を試してみる事にしました。

これまでVtuberやVシンガーで「オリジン」が出てくるのは基本的にはNGでしたが、それは「バーチャルでスタートして、後からリアルでもやりたくなって出てくる」という順番のものが多かったせいではないかと個人的には思っています。
だからはじめから「オリジンたちが出ていく」というコンセプトを大前提に進め、リアルの姿を曝した後もリアルとバーチャルを共存し続ける形をとれるならば、もしかしたらこの難しい挑戦は成立するかもしれない、という「仮説」が自分の中にありました。
なので1stワンマンライブでのオリジンが登場する、「act:2」はこの2年近く思い描いてきた光景なんです。

またVカルチャーとは少し違いますが、実はバーチャルとリアルの行き来という仕組み自体は前例があります。ゲームやアニメなどのIPで、ライブのときだけは声優さんが生身でライブをするという形態も人気がありますよね。
あとは、別の文脈だとYoutubeを主戦場とする覆面系アーティストなども最近は活躍の幅を広げています。メディアでの顔出しはしないけど、ライブは生身でやるアーティスト、例えばKAMITSUBAKI STUDIOのDUSTCELLとかもそういう流れにいると思います。

そういったいくつかのコンテクストを汲みつつ、あとはVALISのオリジン達がバーチャルと共存させる形で「再び表舞台に立って活躍したい」という気持ちを持っていたことがやはり大きく、その想いをしっかりと受け止めたいという構想を元に、VALISのプロジェクトは動き出しました。

S:本人たちは「リアルで出ていくことだけを目指して頑張っている」というと少し違うのですが、「バーチャルとリアルを行き来する」というストーリーにはとても前向きです。今はバーチャルのVALISを楽しんでいるように見えるし、逆にリアルで出ることに対してかなり緊張感を持っている状態だと思います。

P:恐怖心を持ってくれているのはとても良いことだと思います。結果的に本人達の成長にも繋がります。

S:バーチャルキャラクターならではの美しさを脱ぎ捨て、生身の自分たちを出すことのハードルはやはりそれなりに高くて、最大の恐怖ではありますね。彼女たちだけではなく、運営もそうですが。

P:ずっと準備してきたからこその恐怖心なのかもしれないですよ。「バーチャルとリアルが共存したらどうなるか」という話なので、ヴァンデラーのみなさんにも、ひとつのスタートとして受け入れてもらえると嬉しいですね。これからの活動を更に楽しみにしてもらえる通過儀礼だと思ってもらえたら。

S:VALISとしては、(リアルのVALISが出てくる)フラグを立てていってるつもりなのですが、意外と伝わってないなと感じていて、サプライズがなくならない程度に、でも少し心の準備をしてもらえるように今は取り組んでいる最中です。LIVEが終わってこのパンフレットを読んでくださっているころには、この気持ちが伝わっているといいなと思っています…!



ーPIEDPIPERと操桃の関係について

P:0から1を生むプロジェクトって、楽しいというより恐怖が大きいことが殆どで、実際花譜の時もそうでした。デビュー前の方が本当に怖かったのです。
バーチャルアーティストって、クリエイティブの部分が通常のアーティストよりもずっと重い分プロデュース性が強いので、望む望まないに関わらずどうしてもプロデューサーやディレクターの権限が大きい構造になってしまうので、その分取るべき責任も非常に大きいです。

また当然前例が無いことも沢山やらないといけないのですが、その度にオリジンやスタッフを総出で巻き込む訳です。そして勿論すべてが上手くいくわけではありません。自分のせいで色々な人を傷つけてしまう可能性があり、それをずっと抱えながらプロデュースし続けていかなければいけない。
正直言って、楽しいというよりも非常に辛い仕事です。心が折れそうになる瞬間が何度もあります。
だからこそ上手くいかない瞬間も「めげない」っていう強度が実はとても大事になってきます。

そしてこれまでやってきて分かったことは、こういう性質のアーティストプロデュースには「時差がある」ということ。
なぜか一番大変なときに一番盛り上がるということは殆どありません。基本なんで結果が出ないんだろうって日々悩みながらやらざるを得ない。そしてその「結果」はちょっとずれてやってくる。
タレント本人に対しての責任を負いつつ、日々恐怖心や緊張感をずっと抱えながらも、ある意味気長にやっていかないといけないんです。

S:なるほど。言葉に重みがありますね(笑)。

P:ちなみに僕としては、これは本人に言うの初めてなんですが、過去ベスト3くらいに厳しい対応をしてきたのが、操桃なんですよ。
彼女とは結構ぶつかってきたと思っています。勿論プロデュースするアーティストへの責任があるからなのですが、他のプロジェクトより多分厳しかったと思います。
でも、この人は本当にへこたれない。
その「へこたれなさ」を実はめちゃくちゃ評価しています。
自分自身にもそういうところがあるんですけど、「諦めない」って多分それ自体がある種の才能なんですよね。

最初は操桃のこの才能をあまり分かってなかったんですが、ずっと一緒にやっていくうちに、アーティストとの向き合いには根気がいるので、実は凄く向いてるんじゃないかと思うようになりました。なのでプロジェクトの途中で操桃に「ディレクター」をやって欲しいと依頼しました。

S:ありがとうございます。

P:操桃に対するあたりが当初強かった事に対しては申し訳ない気持ちもあるんですが、でも本当に操桃は折れませんでしたね。

プロジェクトやアーティストプロデュースを推し進める上で、毎回凹みすぎていると前に進めないから、「どんなに辛い事があっても明日には忘れよう」みたいなある意味で能天気に前進する力があるのはすごく大事です。
操桃は、多分日々凹んだり僕に腹たてたりもしてると思うんですけど、大人っていうのもあるとは思うのですが彼女は本当に「へこたれない」という才能がすごいです(笑)。

S:私も、PIEDPIPERとはぶつかりながら進んできた中で、最初よりもリスペクトの気持ちが強くなっています。厳しいなと思うことはあっても、必ず無駄なことは言ってないという確信もあります。ぶつかる要因のひとつには、正直PIEDPIPERのある種のエゴイズムがあると思っているんですが、これは凡人にはできないことを成すために必要なエゴイズムだということも分かってきました。



ー操桃とメンバーの関係について

P:アーティストって、楽曲とかヴィジュアルとか色んなクリエイティブが評価されるのはもちろんですが、実はアーティスト自身の人格がファンに伝わることで、一気に跳ねることがあります。VALISは操桃との掛け合いがはじまり、そして念願のライブをやるという流れなので、きっと今後もっと大きく盛り上がりを見せてくれると感じています。

僕は「ナラティブ(物語)」を形作るためには、「ナレーター(物語る人)」が同時に必要だと思っています。私たちの場合、運営がその役割を果たします。だからもしも発信する事に対して色々言われたとしても、前進する為にもある程度は発言をし続けなくてはいけない。
その反応からこそ見えてくる真実があるので。

S:メンバーとのやりとりは、VALISプロジェクトを進める上で一番面白いポイントですね。Twiterなど公の場で見せる絡みでも、レッスンや収録時に接する際でのやり取りの中でも、自分の考えが伝わったと思ったら嬉しいし、「理解してもらえてないのかもな」と感じると悲しい。人と人として当たり前のことですが、そうしたやりとりの蓄積によって、私の中でメンバーたちのキャラクターが形作られているのを感じています。
まだまだプロジェクトは道半ばですが、小さな喜びは日々あります。メンバーたちとの交流の中で彼女たちの新たな魅力を発見することもそのひとつですね。結果、楽しいプロジェクトになっていると感じます。

P:僕としては、ねこ助さんが生み出してくれた美しい世界観を汚したくないというか、なるべくチープなものにしたくないという気持ちが当初から凄く強かったけど、最近は操桃の5chっぽいノリとかは、本人たちの面白さも活しながらも別にチープにはなってないと思っていて、とても良い感じだなと思っています。



ーグループとしての強み、今後の課題について

S:グループって、世界観を伝えやすいというのは最大の強みだと思います。彼女たちは踊れるので、6人いると単純にパフォーマンスも華やかになりますしね。グループとしての独自性は担保していける気がしています。
ただ、これからリアルで出ていくことで、オリジンたちの個性をどのように出していくかというのも課題になってきますね。

P:課題はありますね。自分の中でVALISとV.W.Pはプロデュースとしては真逆なやり方なんですが、どちらにせよ「個」が立ってくると、全体でも盛り上がるから、本当にこれからだと思います。

VALISではメンバーの一人一人のタレントとしての「輪郭」を際立たせていくのが今後の運営の課題です。そこは是非前向きにいきましょう。
バーチャルとリアルのどちらかを否定する訳でもなく、バーチャルとしてのVALISを踏み台にする訳でもない「二つの世界」を行き来し続ける新しいアーティスト像をVALISでは創りたいと思ってます。

そしてずっと頑張って修練してきたメンバー達には本当に幸せになって欲しいです。

S:あとは、VALISに関わってくださるクリエイターの方々、応援してくださるヴァンデラーのみなさまにも、お返ししていかなきゃですね。


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