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『旧市町村日誌』26 新潟県の旅路 文・写真 仁科勝介(かつお)

10/14(土)晴れ
 
村上市を10時過ぎに出発。地元の方のご実家に2泊3日お世話になった。居心地が良く、まだ居てもいいよと仰ってくださるので、ほんとうはもう少し滞在してもいいですか、と言いたくなってしまう。でも、急がず休まず怠らず、進むことだ。
 
旅先で家庭の中に混ぜていただくと、自分の家庭には無いものやことに触れる。1日のサイクル、食事の仕方も違う。憧れるときもある。それを、前回の旅のときは実家と比較して、親に対してないものねだりの気持ちを持ってしまった。でも、それは違うのだ。億単位の人類がいて、たったのひとつも同じ家族はないのだから。それを心得た上で、違う家庭に出会うと、自分もこうありたい、と自然に思えることが増えていく。
 
西日がススキや森を橙色に染め上げる。でも、明日は雨模様らしい。徹底して、天気は毎日違う表情を見せる。この澄んだ秋空がずっと続けばいいのに。

 
10/15(日)雨
 
昨日は日没まで爽やかに晴れたけれど、朝には路面が濡れている。空はやはり変幻自在。
 
夕方までカフェに籠り、夕食を探し求めて外に出ると、冷たい風が顔にぶつかってきた。冷たくても、外の空気を吸うと体は喜んでいる。

 
10/16(月)雨、晴れ、雨
 
空の様子を見て、1日全体のルートを変える。吉と出ても凶と出ても旅は続くのだから、ぜんぶ正解だと思えばいい。
 
あと2週間で閉店するショッピングモール、ベルシティ新津のカフェで、ナポリタンを食べたあと、店主とお話しした。39年間続いたこのカフェも、ショッピングモールの閉店に合わせて店を畳むと。「39年間続きましたから」寂しさと納得、誇りの瞳が輝く。

 
10/17(火)おおむね晴れ
 
朝、空気を吸うことが気持ちいい。逆光が山の稜線を照らし、薄白く発光して輝いている。
 
カブに乗りながら毎日いろんなことを考える。今日は井戸と日の丸のことを考えていた。海外にまだ一度しか行ったことがないので、日本中を巡っていても、日本という井戸の中を泳いでいる感覚がある。やはり自分は井底の蛙だと。でも、井戸には深さがあって、どれだけの深さか見た目ではわからないよな、と思った。すると、井戸が立体物に感じられて、日の丸も立体物なら、球体の太陽じゃないか、って。

 
10/18(水)堂々と晴れ
 
新潟市内を巡る旅だった。まだ街の全体像は掴めていない。でも、もともとは小さなまちが独立して数多く存在していた名残を今日も感じられた。
 
歴史博物館みなとぴあの展示を見て、新潟の中心地の歴史に触れる。いろーーんなことがあったまちだなあと思う。喜怒哀楽と育ったようなまち。
 
旧小澤家住宅で、華道である池坊の女性が二人、いけばなを生けているシーンに出会う。好意的に話しかけてくださり、いけばなについて教えてくださった。
 
花を生けるとき、説明的ではいけない。理屈ではない良さが滲みでている姿を、自然とつくりあげられるように。草木の命の出生を表現する生花(しょうか)のスタイルは、本数の少ない花をすっと縦のラインで生ける。足し算ですか、引き算ですかと尋ねると、引き算だと。「足すのは簡単ですよね。でも、引くことは見えていないとできないですから……」写真と似ている。

 
10/19(木)晴れと曇り
 
新潟市内の旅が続く。西区の西端にはラムサール条約に登録された佐潟が、雄大な角田山を背景に佇んでいた。白根の大凧合戦は、ほんとうに面白い。資料館で映像を見て、職員さんから話を聞いた。川の両岸から凧を揚げて、互いに凧を絡ませ合い、地上や水面に落ちてから引っ張り合う。川を挟んでの綱引きになり、相手の綱をちぎったら勝ち。凧揚げと綱引きの混合競技は大凧合戦の名が、ふさわしい。

 
10/20(金)午後から雨
 
週末にかけて天気が崩れる。東北や西日本の山間部では積雪もあるという。そうした予報が出ると、まだ10月なのにと騒がしくなるけれど、これだけで天気全体の流れは掴めない。まだ長期予報は暖冬のままだ。たとえば来年、台風が本土にやってきたら「また台風がきた!」と思ってしまいやすい。でも、今年は一度しか本土に上陸していない。インパクトのつよい情報は、自分がわかったフリをするのに心地良い。自分たちが物事をケロりと忘れてしまうことを、忘れさせる。もちろん耳が痛いけれど。




仁科勝介(かつお)
1996年生まれ、岡山県倉敷市出身。広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年4月から旧市町村一周の旅に出る。


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