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犯人シリーズ短編小説「前編:仮面の怪人 VS ***」

【注意事項】

この物語は下記3作のゲームをプレイしていることが前提となります。
ネタバレが含まれますので、全てをプレイした上で先へ進んで下さい。

  • 「いまさら犯人じゃないと言われても」

  • 「半人王伝説殺人事件」

  • 「えっ!俺以外みんな犯人!? ~半人館の殺人~」


↓物語はこの下です。













【前編 : 仮面の怪人 VS ***】


江戸川さんの話をしたい―――
ずっとそう思っていたけど、願いが叶うのは得てして都合の悪いタイミングになるものだ。

???「あなたが、仮面の怪人?」
仮面の怪人「そうです。あなたは⋯⋯」

 と、顔を見ると見覚えがあった。確か⋯⋯、"考えない名探偵"と呼ばれている男だ。身近に"考えない警部"はいるが、まさかその名探偵バージョンみたいな奴がいるとは知らなかったので、印象に残っていた。

仮面の怪人(それに⋯)

 "考えない名探偵"と聞くと、何も考えていないような間抜けで腑抜けた顔の人物を思い浮かべてしまいそうだが、全くそんな顔では無い。眉間に皺を寄せ、常に何か思考を巡らしているように見える。しかめっ面でこちらを睨み、仮面で隠された私の素顔、本質を見透かそうとしているようだ。

仮面の怪人(それに⋯)

 そう。それに、彼は私達にも深く関係する男だから、よく知っているのだ。

仮面の怪人(いや、違うな)

 関係が深いのは一人だけだ。安房吉水(やす ふさよしみず)⋯。私の祖父であり、建築家でもある男だ。この"考えない名探偵"は、"安房吉水"の建築物での事件に何度も巻き込まれていると聞く。大変な事件も多かったようだ。彼のそのしかめっ面には、多くの苦労が滲み出ていた。"考えない名探偵"などと呼ぶのは失礼だと感じられる、そんな顔であった。

仮面の怪人「で、"考えない名探偵"が私に何の用です?」
考えない名探偵「⋯⋯」

 眉間の皺が更に深くなった。やはり、"考えない名探偵"などと呼ぶのは失礼だったようだ。

考えない名探偵「⋯⋯半人館の殺人を解決したのは、あんたか⋯?」
仮面の怪人「⋯⋯そうですね」
考えない名探偵「江戸川二百面相を逮捕したのも、あんたか⋯?」
仮面の怪人「⋯⋯、そうです」
考えない名探偵「⋯⋯ある事件の話だ。嵐の孤島に10人の宿泊客がいた。そのうち、1人が被害者になり、残り9人のうち、1人は名探偵で、あとの8人は犯人だった。どういう状況だろうか?推理してくれ」
仮面の怪人「いったい何の話です?」
考えない名探偵「答えてくれ」
仮面の怪人「うーん、えーっと⋯」

即座に4つの推理が思い浮かんだ。

  1. 犯人王を決めるための事件だった

  2. 喜坂嬉し丸の考えたドッキリ番組だった

  3. 犯人に挟まれた人も犯人なってしまうシステムで犯人が増えてしまった

  4. え、それって、エロい話ですか?

 浮かんだ4つの推理から、正解と考えられる選択肢を一つ選び、それをそのまま答える。

考えない名探偵「⋯⋯次だ。この画像を見て、何か気付く点があるか?」

仮面の怪人「はぁ⋯⋯?」
考えない名探偵「推理してみろ」
仮面の怪人「いや、うーん、そう言われても⋯⋯、えーっと⋯⋯」

 また、4つの推理が思い浮かぶ。

  1. SDGsですよ!!

  2. これは黒タイツの全身を描いた絵の一部分

  3. この"犯人"の文字のフォント、気に入りませんね

  4. え、これって、エロい話ですか?

 また同じように正解となる選択肢を選び、それを答える。答えを聞いた"考えない名探偵"は深く考え込む仕草を見せる。おそらく正解だったのだろう。

考えない名探偵「⋯⋯」
仮面の怪人「いったい何なんです?この質問に何の意味が⋯?」
考えない名探偵「⋯⋯江戸川二百面相とかいう犯人は、どんな奴だった?」
考えない名探偵「え―――」

江戸川さんの話をしたい―――
ずっとそう思っていたけど、願いが叶うのは得てして都合の悪いタイミングになるものだ。

仮面の怪人「⋯⋯そうですね、笑顔の似合う、爽やかな人でしたよ」
考えない名探偵「そうか。俺はあの事件であいつが笑うところを見た記憶は無いな⋯⋯」
仮面の怪人「えっ、あなた江戸川さんのことをご存知なんですか!?」
考えない名探偵「⋯⋯知らないよ。そんなふざけた名前の奴は」

 再び顔を見る。"考えない名探偵"は変わらず眉間に皺を寄せ、さらに血が出るのでは無いかと思うほど歯を食いしばっていた。

仮面の怪人「その顔⋯⋯。ひょっとして、まさかあなたも⋯⋯、私と同じく⋯⋯?」

 "考えない名探偵"は、真剣に見つめる私から目を逸らし、横に置いてあった鏡を見た。そして、そこに映った自分の顔を認識した瞬間、ハッとした表情を浮かべた。

考えない名探偵「そうか⋯⋯、どうしても負けたくない場面というのはこういうことなのか⋯⋯。彼女も、こんな気持ちだったのだろうか⋯⋯」
仮面の怪人「⋯⋯あなた、そのままで大丈夫なんですか?すごく苦しそうな顔をしていますよ」
考えない名探偵「本当は、お前なんかじゃなく、俺が⋯⋯。いや、何でもない。言った所で詮無い話か」

 それだけ告げ、"考えない名探偵"は、私に背を向けた。そのまま入口に向かって行く。どうやら帰るようだ。

考えない名探偵「仮面の怪人、お前には負けない」
仮面の怪人「はぁ、現状見るに私の方が有利かとは思いますが⋯⋯。受けて立ちましょう。それに⋯⋯」
考えない名探偵「⋯⋯?」
仮面の怪人「"半人王決定戦"が、近く開催されるんです。名探偵としての勝負をそこで行いませんか?」
考えない名探偵「"半人"⋯王⋯?」
仮面の怪人「そうです。ヤスという謎のAIが四半期に1回開催している至高の名探偵を決める大会です」
考えない名探偵「⋯⋯勘弁してくれ。俺はもう、半人も安(やす)と言う名前もこりごりなんだ。関わり合いになりたくない」
仮面の怪人「それは残念です。まぁでも、お互い名探偵ですからね、どこかの事件で一緒になることもあるかもしれません。その時まで、名探偵としての勝負はお預けとしましょう」
考えない名探偵「いや、それは無いな。俺とあんたが同じ事件に出くわすことは無い。そんな気がするよ」
仮面の怪人「はぁ、そりゃ何故です?」
考えない名探偵「なんだろうな⋯⋯。何て言うか⋯⋯、"ジャンル"が違う気がするんだよ。名探偵としての"ジャンル"が」
仮面の怪人「どういうことです?」
考えない名探偵「どういうことも何も⋯⋯、そ、そうだな⋯⋯、あんた、そこの鏡を見てみろ。あんたの姿が全てを物語ってるよ」
仮面の怪人「姿?何を言ってるんです?まぁ、とりあえず見てみますが、いつもの自分の顔が映って⋯」











⋯⋯えっ!?

考えない名探偵「俺の関わった事件にお前みたいなふざけた格好の奴はいなかったよ!俺は自分の特殊能力で隠された犯人を見つけるのは得意なんだ。だからな、何も隠さず、"私が犯人です"みたいな見た目の犯人がいる事件は専門外なんだよ!犯人であることを隠してくれ!!
お前の扱うような事件に関わることは絶対に無い。関わり合いになりたくもない!ここまでのあんたとの会話で、妙に引っかかる部分があったよな?その原因、つまり今回の犯人はお前だ!だが、俺はそれを指摘する気は毛頭無い!!」
仮面の怪人「ひ、引っかかる部分!?何の話です?私にはさっぱりですが⋯⋯」
考えない名探偵「すまんが、俺は帰らせてもらう。じゃあな」

 そう言って、"考えない名探偵"は、勢いよく扉を開けた。しかし、扉の先には⋯⋯。

警部「おぉ、怪人くん、やはり地下の闘技場⋯、いや今はもう闘技場じゃないのか。とにかくここにいたか!探したぞ!!」

 開けた扉の向こうから警部の声が聞こえた。姿は見えないが、"考えない名探偵"の向こう側にいるのだろう。"考えない警部"の登場だ。

考えない名探偵「っ!?」
警部「おや、怪人くんじゃない?あれ、君、どこかで見た顔のような⋯⋯」
仮面の怪人「警部?どうしたんです?」
警部「そうだ、事件なんだよ!西半人村でとんでもない事件が起きたんだ!急いで向かおう!!」
仮面の怪人「え!?事件!?それはちょっと困ります!」
警部「君が必要なんだよ!困ると言われても困る!」
仮面の怪人「私は今、ここを離れられないのです!」
警部「離れられない!?まさかここでも事件が!?何が起きているのだね!?」
仮面の怪人「いや、事件と言えば事件ではあるのですが⋯⋯、重大事件です⋯⋯」
警部「何だと!?」
考えない名探偵「⋯⋯」

 私の言いたいことに気付いたらしく、"考えない名探偵"が入口の横に移動した。向こう側にいた警部の姿が現れる。そして私と視線があった。

警部「あ⋯⋯」

警部も察してくれたようだ。

仮面の怪人「見ての通りですよ。私は今、トレイ中なんです。今朝から下痢が酷くて⋯⋯。昨日拾い食いした焼き鳥が駄目だったんでしょうか⋯⋯。そんなわけで、今日はずっと便器に座って過ごしてるんです」

そう。見ての通り、私は便器に座って動けないのだ。

仮面の怪人「代えのズボンもパンツも無くなってしまい、仕方なく黒タイツを着ているんです⋯⋯」
警部「そ、そうか⋯⋯。君の家の地下にある半人闘技場の使い道に困り、トイレにリフォームしたんだったな。うむ、これは酷い匂いだ⋯⋯。闘技場全体に広がっている⋯⋯」

 言って警部は顔をしかめ、眉間に皺を寄せている。"考えない名探偵"と同じように。

考えない名探偵「じゃあな」
仮面の怪人「あれ?待って下さい。トイレ勝負の件はどうするんです!?あなたも同じなんですよね?その苦渋に満ちた表情、便意を我慢してるんですよね?だから私に、"お前には負けない"って言ったんじゃないんですか?私にトイレ勝負を挑んだんじゃないんですか?私はあなたの申し出に受けて立つと言ったはずです。やりましょうよ、トイレ勝負!ルールは決めてませんが、今現在便器に座り続けている私の有利は変わらないでしょうからね!」

 事件名は、"探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)"にしよう。

考えない名探偵「⋯⋯いや、そんな勝負挑むわけが無いだろう。じゃあな」

 3度目の"じゃあな"を告げ、考えない名探偵は闘技場型のトイレから出て行った。一緒に警部も出て行き、トイレ型の闘技場には私だけが残される。

仮面の怪人「⋯⋯」

 もう少し江戸川さんの話をしたかったのだが⋯⋯。

江戸川さんの話をしたい―――
ずっとそう思っていたけど、願いが叶うのは得てして都合の悪いタイミングになるものだ。

犯人シリーズ短編小説 「前編 : 仮面の怪人 VS ***」

Fin…


―――「後編:西半人村全滅事件」につづく

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