見出し画像

オリオン座は幸運の恵み

星や星座に興味がなくても「オリオン座」を知らない人はほとんどいないでしょう。4つの星で作られた四角形の中に三つの星が横並びしている形はとても印象に残ります。ヒシャクの形をした「北斗七星」(「北斗七星」は星座の名前ではなく「おおぐま座」の一部です)やアルファベットのダブリューの形をした「カシオペヤ座」もよく知られていますが、オリオン座ほど印象的な星座はないと思います。

オリオン座がそれほど印象に残るのは、その独特な形だけではなく、もう一つ理由があるように思います。それは一等星が二つも含まれているからです。ちなみに、北斗七星(おおぐま座)にもカシオペヤ座にも一等星は含まれていません。さらに、この二つの一等星の色の対比がすばらしいのです。四角形の上辺の左側に輝いている一等星を「ベテルギウス」と言い、赤っぽい色をしています。下辺の右にある一等星「リゲル」は青白く輝いています。あまり星を見慣れていない人でも、その色のちがいには気づくと思います。

さて、オリオン座の四角形を作る四つの星と横並びの三つ星、合わせて七つの星と地球との距離はどれくらいだと思いますか。ここから先の説明では「あの星」や「この星」などと言っていてもややこしいので、次の写真を見てください。星の横に「α、β、γ・・・」とギリシャ文字が書かれています。これは「バイエル符号(バイエル記号)」と呼ばれ、星座の中の明るい星から順に「α、β、γ・・・」と付けていきます。「明るい星から順に」と書きましたが、例外もあるので一応注意してください。実はオリオン座はその例外でもあるのです。α星のベテルギウスよりもβ星のリゲルの方が明るいのです。

画像1

七つの星と地球との距離に話を戻します。わたしの持っている『天文年鑑』(2019年版、誠文堂新光社)で調べてみると、七つの星々と地球との距離は次のようになります。なお「光年」とは光が1年間に進む距離のことです。「年」が使われていますが時間のことではなく距離を表わす単位です。

地球からの距離(光年)
α(アルファ)星(ベテルギウス):770光年
β(ベータ)星(リゲル):430光年
γ(ガンマ)星:240光年
δ(デルタ)星:920光年
ε(イプシロン)星:1300光年
ζ(ゼータ)星:820光年
κ(カッパ)星:720光年

これを見ると、それぞれの星と地球との距離のちがいに驚かされます。たまたま地球から見たオリオン座の方向に七つの星がこの明るさで輝いていたからこそ、わたしたちはいま、このようなオリオン座の姿形を目にすることができるのです。平面的(天球に貼り付いたような見方)ではなく、立体的に考えて、地球から何百光年も離れた場所から七つの星を見たとすると、いま見ているオリオン座とはまったく異なる星の並びを目にするはずです。

また、「この明るさ」と書きましたが、星の明るさが地球との距離に比例しているわけではもちろんありません。本当はすごく明るい星であっても、遠いところにあるから暗く見えている場合もあるし、逆の場合もあります。人の個性のことを「十人十色」と言ったりしますが、星の個性(明るさ、大きさ、重さ、などなど)は「十人十色」どころではありません。そして、人間と同じように、星にも「生と死」つまり一生があります。

さらに星は広い宇宙の中でじっとしているわけではなく、少しずつ少しずつ動いています。遠い遠い未来には、オリオン座の形がいまとはちがってしまう可能性があるということです。星の明るさも変わってしまうかもしれません。今年(2020年)の2月頃、一等星のベテルギウスが二等星並みに暗くなり、天文学者やアマチュア天文家の間で大きな話題となりました。以前からベテルギウスは「超新星爆発」(簡単に言うと「星の死」のこと)を起こすのではないかと言われていたので、今回の減光はその予兆ではないかと騒がれました。現時点では「超新星爆発」の兆候とは考えてられていないようですが・・・。ベテルギウスは遠からず(星の一生から見た時間尺度で)死を迎える老いた星であるのは確かです。

いずれにしても、わたしたちがいまの姿形をしたオリオン座を見られるのは、偶然が重なったお陰、ひょっとしたら相当な幸運によるものなのかもしれません。一日一日が慌ただしく過ぎ去っていきますが、ふと星空を見上げると、星の光とともに、さまざまな幸運が降り注いでいるように感じます。わたしは特定の宗教を信仰しているわけではありませんが(だからといって宗教を否定するつもりもありませんし、自分なりの信仰心は持っています)、神からの恵みのようにも感じられてきます。

写真は今年2020年3月25日の19時半頃に撮りました。右端のひときわ明るく輝いている星は金星(「宵の明星」)です。夜空の星のほとんどは太陽と同じく自ら光を出して輝いている「恒星」です。金星、火星など(地球も含めて)太陽の周りを回っている星は「惑星」と呼ばれ、太陽の光を反射して輝いています。また、○で囲った星の集まり(星団)は「プレアデス」と呼ばれています。和名は「昴(すばる)」。谷村新司さんが歌ったあの『昴』です。古くは『枕草子』にも出てくる有名な星々です。プレアデスは生まれたばかりの星の集団、すなわち赤ちゃん星の集まりと考えられています。さらにもう一つ、左端に輝いている星は「シリウス」で、太陽を除いて全天で最も明るい恒星です。

今日(2020年8月7日)は金曜日なので、金星のことを書こうと思っていました。ところが、この写真を見ているうちにオリオン座がテーマになってしまいました。でも、写真には金星も写っているので自分的にはよしとします。金星はローマ神話では「ヴィーナス」、ギリシャ神話では「アフロディーテ」と呼ばれ、愛と美を司る女神です。「オリオン座」、「プレアデス」、「金星」、「シリウス」(言い換えれば、星の色の対比、老いた星と幼い星たち、愛と美の女神、全天一の輝星)を1枚の写真に収められたことも幸運でした。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

ご厚意(サポート)を頂ければ大変嬉しく思います。
★「サポート」とは「投げ銭」スタイルのことです★


宜しければサポートをお願い致します。ご厚意は本を購入する資金とさせて頂きます。これからも皆様に驚き、楽しさ、安らぎを与えられる記事を書きたいと思っています。