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#現代詩

中原中也と僕

「愛するものが死んだ時には、  自殺しなけあなりません。 愛するものが死んだ時には、  それより他に、方法がない。」 中原中也はそう言って その後茶店へゆきました 茶店で彼は会ったのです 中原中也に会ったのです 灰色の瞳で言ったそうです 「死んじゃいかんよ。彼女の為にも」 彼は思いとどまりました 彼はロープを捨てました 病院で彼は目を覚まし 彼女のお墓へ行きました すまなかったと謝って お花を供えて手を合わし 彼女のお墓に水をかけ 線香と煙草を燻らせました

おくすり

美味しいご飯はお薬です 香しい香りはお薬です 綺麗な音楽はお薬です 体の調子はどうですか 夜はよく眠れていますか ご飯はきちんと食べれていますか 生きるというのは大変ですね こんなに多くのコストがかかる そんなに価値がありますか そこまで価値がありますか 私はそうは思わないのですが 周りの人は価値があると 生きてて欲しいというのです 死なないでほしいというのです だからお薬が必要です 美味しいご飯と芳しい香りと綺麗な音楽 それからいくらかの錠剤を それらがないと生き

グラウディング

布団の上でストレッチをするとき私は自分の体が大地と繋がるような気がするのだ。 雨に濡られて私の老廃物が布団へ染み床へ染み下の階を通って地面へと溶けていく。 そのとき私は地面と一体化している。 植物のように根をはりエネルギーを交換している。 私は受け取ったエネルギーを即座に循環させる。 体は植物なのだ。 地から栄養をもらい葉でエネルギーを作り雨露を流して眠る。 その循環を忘れると私達の体はただの棒きれになる。 今日も私はストレッチをしては大地を感じる。 いつか土に還るため

詩にたい

言葉で溺れ詩にたい。抽象度を上げすりガラス1枚挟んだような、曖昧な視点からどう具体的に表現するか。その視点だけ持っていたい。現実なんか直視しないで乱視を混じえたぼやけた世界を捉えて紡いで嘯いていたい。現実なんか直視しないで。ガラス挟んでぼやけたくらいがちょうどいいのさ私にとって

生の音

ゴロゴロと鳴るお腹の音を 他人のように聞いていた 生きたいという私の声 私はそれを無視したい 体と心は別物だ 私は停止を願うのに 体は再生を求めている 仰向けになった部屋にひとり 無防備に毛布にくるまって 胎内で眠る赤ちゃんのように こんこんと眠り続けたい 誰にも起こされず誰にも産まされず 孤独に死と生を感じていたい 向こうで鐘の音のような風が吹く 温かい冷風が流れては 街の体温をめちゃめちゃにする 荒れた世界と止まった時計

生きる

剥き出しのナイフひとつで 世界へ立ち向き合うのだ 私達はただ個で孤で唯一 見えるものは自分の世界だ 神すら敵すら自分のもの それは有刺鉄線で守られた まるで柔らかな鳥の巣のよう そこに御座すは天使か悪魔か どちらにもなれる卵がひとつ 子犬の舐めるミルクの匂い 仔猫の鳴き合う甘高い響き 囀る雀のじゃれあいと 羽音煩い蠅の飛び合い 世界はどんどん広がってゆく Z軸を超え軸を増やし 私が歩むスピードより速く 勝手にその裾を広げてゆく 天使か 悪魔か 神か 敵か 私が出会う者

雪が降る頃

舞い散る枯れ葉が白い雪に変わる頃 お元気ですか 風邪など引かれていませんか 粉雪が牡丹雪に変わるのを見てふと あなたのことを思い出しました 積もりそうにない粒子状の氷は 溶けるより早く多くくっついて 冷たい土台を作ります その上に大きく柔らかな わたあめのような雪が積もり 朝には地面や屋根を真っ白に染め上げていました ワイパーが上がった車や 駐車場の隅に寄せられた雪山や 雪の重さで下を向いた木の葉や ざりざりという雪と氷の混じった足音が 冬はこういうものだったと思い知らせるよ

ウェアラブルデバイス

こちらの体調のしんどさなどお構いなく ウェアラブルデバイスは定期的に運動を促してくる 余計なお世話だ 私は無駄に飲み込んでしまう空気と 無意識に食いしばってしまう奥歯と 頭の奥から響いてくる鈍痛と それらをどうにかしてやりすごそうと 一生懸命なのだ 運動してこれらがなくなるなら喜んでするが 生憎マシになったことはない 運動は体にいいというそれは間違ってないだろうが 少なくとも今すべきことではない この高性能の腕時計だって 今私がすべきことを正しく指示できるわけもなく 私自身そ

そして、息をする

忙しい日々は呼吸することを忘れてしまいそうになるほどだ 息抜きというがその時間さえ満足に酸素を吸えてない そして夜になって息苦しくなって そこでようやく息を吸う お腹が 胸が 膨らむ 呼吸をしている 明日は息をしよう いつもそう思って いつも忘れている

冬の寒さ

気づけば冬になっていた 水道の水が冷たくなり 唇が乾燥しカサカサになり 体に力がこもって肩こりになり それでも僕は冬に気づいていなかった 鼻水が出て咳が出て 頭痛がしてやっと気づいた 寒さは僕を覆っていた 毛布を被っても寒さはその下に入り込んで 僕の体を冷やそうとする 冷たくなっていく僕の体 死んだらこの冷たさよりもずっと 冷たくなるんだろうか 試しに毛布を剥いでみた 一度気づいてしまうと不思議なもので 僕の体は寒さに震えた

冬の不思議

ほうと息を吐けば白く染まり 自分が生きていることを自覚させられる 己の体温で温まった空気 外気に晒されればすぐに冷えて透明になる けれど私の体は どれだけ冷えても透明にならない 宙に溶けて消えていかない 白い雪の上に続く足跡 私が歩いてきた証 冬は不思議だ 自分の生を実感させられる

年の瀬

スーパーはもうクリスマスを通り越して正月気分で シャンメリーと鏡餅が並んで売っている 今年ももうすぐ終わるのだ 終わりは新たなはじまりでしかない 私たちはいつも何かを終わらせている ずっとその繰り返し その繰り返しもいつか終わる 私たちは終わりに向かって ずっと歩き続けている

吐息

吐く息は白いのに 吸う息はどうして白くないのだろう それは吐く息に その人の体温が含まれているからだ 吐く息の白さはその人のあたたかさ 吐く息の白さはその人が生きている証 かじかむ手にはーっと吹きかければ その手には生きたあたたかさが伝わって 少しだけ熱を取り戻す それは生の循環

退屈

退屈な時間ができるとつい考えてしまうんだ この足が宙へ躍り出たときの体の軽さや 吊られたときの重力の重さ あの水を飲み干したときののど越しの良さや その刃の切れ味の鋭さ 僕はそれを夢想してはいつも 目を覚ますように退屈な時間から抜ける 退屈は僕を殺すんだ