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リングフィットアドベンチャー&フィットボクシング考② 結局どっちがどうなのか

 何かと比較される二作について、「ゲームの造り・プレイ感」あたりについては既にレビューも複数出ているので、ありそうなのに意外と見つからない数値ベースの「運動効率・実績」面を比較&紹介してみます。
 要は「『フィットボクシング』は有酸素運動(ダイエット向き)、『リングフィットアドベンチャー』は筋トレ」ってよく聞くけど実際のとこどうなの、という問いの検証やら何やらをしていきます。

 書いている人間のプレイ実績まわりについては前回記事をご参照ください。簡単に言うと「発売すぐからプレイ開始、両方それなりにやり込んでいる」「どちらのタイトルも等しくお勧めしている」プレイヤーです。

1.プレイ時間・運動時間

 どちらもフィットネスゲームらしく「プレイ時間(ゲーム起動~終了までの時間)」とは別に「実運動時間」を記録してくれますが、仕様に若干の違いがあるため、前提として一応整理します。

『フィットボクシング』
・1プログラム(曲)の開始から終了までの時間を積み上げ
・構え、左右の入れ替えなどのインターバル中も時計は止まらない
・ストレッチも実運動時間に加算(※『フィットボクシング2』から加算されなくなりました)

『リングフィットアドベンチャー』
・プレイヤーが実際に動いている時間を積み上げ
・構え、次の一回に入るまでの体勢回復時は時計が止まる
・ストレッチは実運動時間に含まない

 総じてリングフィットのほうが計測がきちきちしており、本当に動いた分だけ、という記録になります。
 とは言え、フィットボクシングはリズムゲームという形態上そもそものインターバルが少なく、ほぼずっと動いているタイプの運動であるため、そこまで大幅なズレにはなりません。リングフィット式にしたとしてもせいぜい1割減程度、10分の運動が9分になるぐらいの差。

 このあたりを踏まえて、「1時間ゲームを起動した時、実際に運動できる時間は何分か」を考えてみると、こんな感じになるかと思います。ストレッチ時間はリングフィット式に除外、ゲームの進行に関わらない操作(記録閲覧など)は行わないものとします。

『フィットボクシング』
 想定:デイリー+フリー+ストレッチ(運動前/後)
 ⇒45~50分

『リングフィットアドベンチャー』
 想定:アドベンチャー+ストレッチ(運動前/後)
 ⇒25~35分
 想定:カスタム+ストレッチ(運動前/後)
 ⇒30~45分

 リングフィットのブレが大きすぎるんじゃないかお前。実際に大きいので仕方がありません。どの運動(スキル)を使うか、通常コース中心なのかバトルコース中心なのかで大幅に変わってしまいます。
 延々ジョギングだけのカスタムが最大値になろうかと思いますが、大多数の人がアドベンチャーを中心にプレイしているだろうと仮定して以降は上の数字を例に取りたいと思います。

 周知の通りリングフィットのほうがゲーム要素が強く、ゲーム進行のための時間がそこそこ大きくなるがゆえの差ですね。
 ここをさらに踏まえて、次の要素を見ます。

2.消費カロリー

 これに関しても両タイトルとも運動量に応じて記録をしてくれます。が、内部でどういった計算をしているのかはプレイヤーにはわかりません。何かしらの基準値・指数に加え、どちらも少なくともプレイヤーの登録した「体重」は加味されているようです。
 この項目については「ゲーム内計測の実運動時間が1時間の時、消費カロリーはどの程度か」を実際のデータを参考に見てみます。一応ゲーム画面も。ただしあくまでこれを書いている人間の記録なので人によって差が出ます。男性は平均してもう少し高くなると思われます。

『フィットボクシング』
 400~440kcal

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『リングフィットアドベンチャー』
 180~220kcal

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 こんな感じでした。
 片や「過大評価では?(フィットボクシング)」、片や「過小評価じゃ?(リングフィットアドベンチャー)」と言われたりもしている両タイトルですが、自身のあれこれの推移的にも外れていない気がしますし、実際に活動量計などで計測すると概ね正しい、という評価をちらほら目にします。

3.1時間プレイあたり消費カロリー

 以上から自ずと導き出される「1時間ゲームを起動させた時、消費カロリーはどの程度か」をまとめます。面倒なのでブレは間を取ります。

『フィットボクシング』
 330kcal/1h

『リングフィットアドベンチャー』
 100kcal/1h

 ここでへー3倍かーそこそこ差があるなーと終わらせてしまわずに、もう一歩踏み込んで見ていきます。リングフィットは本当に良くできているのでこんなことも豆知識としてしっかり授けてくれてました。

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 これご存じでした? 私はフィットボクシングのプレイ開始後もしばらく知りませんでした。基礎代謝とは何か、自分の基礎代謝はどのぐらいで、一日の消費カロリーがどのぐらいで、一日どのぐらいカロリーを摂取してるのか。そのあたりも昨年6月からの2か月間、「あすけん」で食事の記録を付けてみてようやく把握しました。
 齢ン歳とっくに社会人、運動を始めてしみじみ思いました。「痩せたいなぁなんて簡単に言いながら、人体について、太る原理/痩せる原理について、あまりにも知らんことが多すぎる」。

 そういえば良く知らんなあと思った方は私と一緒に反省しながらこちらの画像をご覧ください。

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 2020年8月1日現在のプレイ記録ですが、最近始めた方には「は?」と感じられるデータかも。実はつい先日アドベンチャー2周目をクリアして3周目に入ったところです。実プレイ時間は200時間弱。消費カロリーは20,000kcal弱。先ほどの豆知識に照らせば体脂肪量にして2.7kg。

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 一方フィットボクシングの記録がこちら。実プレイ時間は約300時間。消費カロリー100,000kcal強、体脂肪量にすると14kgぐらいでしょうか。先に出した比率的に当然のことながら、リングフィットの200時間に合わせると体脂肪量9.2kgぐらいの消費。相当の差だということがはっきり見えます。

 単純な話、リングフィットは〝カロリー消費の面だけ見ると〟せいぜいウォーキングと同程度の効果しか出ません。また総じて運動の負荷が高く、長時間やり続けるには根気がいるので、実運動時間20~30分程度で切り上げている方が多いと思われます。
 「週5日、30分のリングフィットで痩せる!」を「週5日、30分のウォーキングで痩せる!」と言い換えると、そりゃひと月ふた月で目に見える数字の変化は出ないよ、ということになるのでは。「リングフィット頑張っても全然痩せない!」の悲しみを回避するためにも、このあたりをしっかり飲み込んだ上でプレイするのが吉かなと思います。

「『フィットボクシング』はダイエット向き、『リングフィットアドベンチャー』は筋トレ」の実際のところをお伝えできましたでしょうか。

追補.それぞれの効能

 でも評判いいし、効果ないってことないでしょ? はい、全くその通りだと思います。しかし前回記事にも書いた通り、人体に効果を及ぼしているのはあくまで結果としての運動で、この二作のキモはその活動をいかにゲーム化して補助するか、というゲーミフィケーション部分にあると考えます。というか世間的にもそうなってます。
 実際、どちらも出来は非常に良く、特にリングフィットのゲーミフィケーションの匠がごとき造りたるや、未来のCSゲーム界のためにGOTY取ってほしかった、というか取らせるべきだったんじゃないのかゲームメディアコノヤロウ、と半分本気で思っているぐらいなのですが、そういうあれこれはまた別の記事で書くこととして……

 以下はあえてそうしたゲーム云々の部分は脇に置いて、ごく単純な実績として「自分はそれぞれこんな効果がありましたよ」という点ついて少しだけ記します。ここからは完全に個人の主観に基づいたものになりますのでご了承ください。
 プレイ時間については上掲の図、数値については前回記事ご参照。

『フィットボクシング』
 とにかく体重(脂肪)が落ちました。これに尽きる。なんだよ結局動けば痩せるんじゃん……と気が抜けるほどはっきり効果が出ました。
 おおよそ全身運動ではありますが、特に効果を感じたのは背中・体側・脇腹。特に背中(広背筋)は普段ほとんど使わないこともあって初期は激烈な筋肉痛に襲われたものの、特に筋肉ついた感はありません。肉は取れましたが肥える過程で最後に付いた脂肪だからかも。脇腹から腰にかけては確実に締まりズボンが数本ガバガバになりました。筋肉はつきません。
 よく「肩こり解消」の効果が挙げられますが、私は凝りが酷すぎたせいかあまり効きを感じられず。

『リングフィットアドベンチャー』
 前述の通り、おそらく減量には直接的にはほとんど寄与していません。
 効果を実感し始めたのはプレイ開始から3か月ぐらい。目に見えて体型がに変化が表れ、「こんなところに凹凸あったのか……」「これがひょっとして筋肉の線……」という発見が多発。特に腕、肩。そしてしぶとく膨れていた太腿まわり。手首・足首も細くなりました。大胸筋鍛えると脇から腕にかけての線がめちゃくちゃすっきり見える、なんて重要なことなんで誰も教えてくれなかったんだ。
 さらにボクシングでは成果の上がらなかった肩こりが改善。「腕を上げる」動作の有無による差が出たのではないかと思います。
 体力向上についてはもともとさほどひ弱でないこともあり、はっきりとした実感はありません。

 まとめると、

 フィットボクシング
 ⇒とにかく減量したい人向け(筋肉のことは考えないものとする)

 リングフィット:
 ⇒体質/体型を改善したい人向け(体重には目をつぶるものとする)

 といったところです。
 ここまででも「リングフィットは筋トレ」と書いてきましたが、当然ながらジムでのマシントレーニングほどの負荷はかけられず、筋肥大効果は低そうなので、実態としては「シェイプアップ」と捉えたほうが当たりな気がします。

余談.なぜ世のダイエット論は「なぜ」を省くのか

 ここからゲームの話は無関係の、純然たる雑感です。
 上のほうで書いたとおり、自分が運動を始めてから(ついでに懐疑系健康オタクの身内に巻き込まれる形で)ようやく人体や栄養に関する無知に気付いたのですが、もとより世には「本旨の手前で止まるダイエット言説」が転がり過ぎていやしないでしょうか。

「ダイエットするなら有酸素運動しよう」
「運動だけじゃダメ食事制限もしよう」
「野菜から食べて血糖値の上昇を防ごう」
「炭水化物(糖質)は肥満のもと」
「糖質制限はリバウンドのもと」

 全て間違ってはいないはずですが、全て「なんで?」を2回ぐらいくり返さないと原理・根拠に行きつかないはずです。「なるべく楽に効率よく痩せたいなあ」ぐらいの心意気でいる人間には正直なところ「ふーん参考にしよう」ぐらいの説得力でしか響きません。
 易しさ優先で「食事は控えめにして運動しよう!」と言われるより、

「お前の基礎代謝は1,200kcal/日、加えて徒歩や家事などの日常の動作で300kcal/日、合算して1日に1,500kcal消費している。
今日は朝食400kcal、昼食500kcal、夕飯600kcalを摂取した。さらにお前は200kcalのプリンをデザートに食べた。
摂取分1,700kcal-消費1,500kcal=残200kcalがお前の贅肉の養分となる。
これを続けると36日後にお前は7,200kcalの養分=1kgの脂肪を得ている。
逆にデザートを控え、毎日200kcal消費の運動を加えると日計は-200kcalとなり、36日後お前の脂肪は1kg燃え尽きていることだろう」
(注:振り切れた単純化を含みます)

 と言われたほうが、個人的には屁理屈をこねる余地なく「なるほど」と感じられるし、具体的な目標にもつなげやすいです。
 このアンダーカロリー・オーバーカロリーの考え方、物凄くシンプルでわかりやすく、実際見るところを見れば普通に書いてあるのですが、どうも世間的にはなんとなくレベルで飲み込まれ、具体的な数値までは全く浸透していない気がします。「極論、減量(要アンダーカロリー)と筋肉増強(要オーバーカロリー)の1ターンでの両立は絶対に不可能」なんて改めて言われると「えっ!?」と感じる人も多いのではなかろうか。

 メディアでそもそも論を示そうと思うと色々なしがらみに阻まれるのだろうことは理解していますが、こういう状況があるなか食育や健康に関して諸外国を笑ったりできないよなあ、なんて思います。

 この人体・健康知識に関して深く反省したことがあったので、一連のツイートをだらだらと載せて記事をたたみます。ここまでお読み下さりありがとうございました。


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