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管理職必見! 部下の3人に1人はあなたの指示が理解できないかもしれない事実

あなたは日本語が読めますか? 
正確に理解できますか?

と聞かれても、自分は日本語を話しているし、この記事もちゃんと読めているし、大丈夫だよと思っている人がほとんどだと思います。

ですが、企業の現場の方とお話しているとそうでもない実態が見えてきます。マニュアルを渡しても理解できないをはじめ、メールの内容を取り違えてクレーム対応に追われるなど、いわゆる「誤読」による作業量の増加が現場を圧迫しているという悩みをよく聞きます。

当初、日本人の「文章を正確に理解する力」である読解能力の低下問題は、小・中学生の総合学力の低下に警鐘を鳴らす問題でした。ですが現在では、ビジネスの現場でも企画書や報告書におかしなところがみられるようになり、年齢を問わずビジネスパーソンのあいだでも問題視されるようになってきました。

ということで、今回はこの読解力について考察したいと思います。
ちょっと力が入り過ぎて長文になってしまいましたが、よろしければお付き合いください。


自身の読解力を確認する

さっそく、あなたの「読解力」を確認してみましょう。
以下にある簡単な2つの文章と設問を読んでください。

制限時間は2分です。

では、どうぞ!

*************
Q1.アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
セルロースは(  )と形が違う。

1.アミラーゼ
2.でんぷん
3.グルコース
4.酵素
*************

では、二つ目の問題です。

*************
Q2.以下の2文は同じ意味でしょうか。
・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
*************

ご苦労様でした。
正解は、このnoteの最後に記載しています。


読解力の低下の背景をさぐる

Q1、Q2とも新井紀子著『AI vs.教科書が読めない子どもたち』で紹介されている問題です。

Q1の「アミラーゼ問題」を新井氏が東京大学のゼミ仲間に出したところ、日本人大学院生は全員不正解で、唯一の正解者は中国からの留学生だったそうです。

にわかには信じられない結果ですが、私には何となく思い当たる節があります。ここ数年、私個人の印象ですが「アミラーゼ問題」よりも平易な構造で書かれた「お知らせ」や「説明」を正しく理解できない”おとな”の存在が非常に目につくようになってきました。

また、メールや仕様書、マニュアルの「誤読」による予期しないトラブルや問い合わせが増えて時間が取られる。なにか良い解決方法はあるか。といった相談も頂くようになりました。

では、なぜ日本人の「読解力」は低下しているのでしょうか?

「読解力」低下の背景にある「読み飛ばし癖」

現代のビジネスシーンでは膨大な情報量との格闘と言っても過言ではありません。私たちは日々のメールだけでなく社内ルールやシステムの変更にともない膨大な情報処理に追われています。

また、総務省が2022年に発表したデータによると、2002年のインターネット全体の情報量を10とすると、2020年は6000倍にものぼるとのこと。さらに、わたしたちの接触する1日の情報量は、江戸時代の人々の1年分、平安時代の人々の一生分だとも言われています。

私たちの脳は、このような情報爆発ともいえる状況へ適応するために、文章の内容や意味を正確性よりも、経験則に基づいて目に入るキーワードだけで判断して処理をしてしまう癖がついているのです。

実は、私たちの脳というのは怠け者で、すぐパターンで処理しようとします。この「読み飛ばし癖」ともいえるパターン処理の回路が強化された結果、脳に負荷がかかる「じっくり読む」という行為ができなくなっているのです。

そして、この「読み飛ばし癖」がある人が間違いやすい問題が、Q2です。

新井氏によると、Q2の問題の被験者データは中学生しかありませんが、その正答率は57%だったそうです。TOEICやHSKなどの外国語テストでもあるまいし、日本語ネイティブの中学生で正答率57%はいくらなんでも低すぎると思われるのではないでしょうか?

では、この正答率57%の背景に何があるか考えてみましょう。

2012年前後から、文字情報でやり取りするコミュニケーションは、メールからSNSが主流となっています。SNSの中でもX(旧Twitter)もLINEも、基本的に短文もしくはスタンプです。特にスタンプは文章を考える手間も省けて効率的である一方で「考える」という工程が省略されています。

実は、私たちの脳がメールなどの長文情報を正確に理解する際、文章の内容を想像し、背景情報や前後の文脈と結びつけ、自分の経験や知識と関連付けたり、重要なポイントを見つけて他の情報と比較し正確性を確認するなど、脳のさまざまな機能を積極的に使って深く考える「能動的」な処理がされてます。いわゆる「考える」という複雑かつエネルギー効率の悪い工程処理が行わているのです。

一方で、SNSやスタンプ、また動画コンテンツは「受動的」であるといわれ、浅く物を考える「ワーキングメモリー」機能を使います。浅い思考は、刺激に対する反応の反復を繰り返すシンプルな動きばかりになるため、脳の働きに偏りが生じます。そうすると刺激に対する反応に慣れた脳は、「考える力」の筋力が衰えていく、というわけです。

結果、文章の内容や意味を正確性よりも、目に入るキーワードだけで経験則に基づいて判断し処理した方が、「考える力」の筋力をつけるよりも脳の負荷も少ないため「読み飛ばし癖」から抜け出せなくなるのです。

つづいて、この厄介な「読み飛ばし癖」と上手に付き合うために、私たちの脳の特徴をもう少し見てみましょう。

人間の脳は文字を読むためには作られていない

あなたは「PISAショック」という言葉を聞いたことはありますか?

PISAとは、経済協力開発機構(OECD)が行っている学習到達度調査PISA(ピサ)という調査です。これは15歳の中等教育終了段階にある者(日本では高校1年生が対象)に対する国際的な学習到達度調査です。

2000年から始まり、これまで9回 調査結果が報告されています。直近では2022年の調査が報告されました。これまで2003年、2018年と日本の順位が低下したため、特にメディアを中心に「読解力」の順位低下を危惧する論調であふれかえりました。これを「PISAショック」といいます。

その頃、タブレット教育が進むにつれて子供の読解力、つまり「考える力」の低下も危惧されていました。そんなところに2018年のPISAショックが与えたインパクトは大きく、学力の低下の原因として「読書量の低下」がやり玉にあがりました。

結論から申し上げますと、読書量が増えたとしても直線的な読解力の向上にはつながりません。

私たちの祖先である現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生したのは、30~20万年前と言われています。また文字は紀元前4000年前に古代メソポタミアで発明されたと言われています。言いかえれば、私たちの脳は、文字情報の処理を経験し始めてから、わずか6000年しかたっていません。

近年、脳科学の研究が盛んになり、文字情報の脳内処理のメカニズムが解明され、次のことが分かってきました。それは、私たちの脳は文字を読む(インプット)、理解する(整理・格納する)ための専用の部位を持ち合わせておらず、別の目的のために使用してきた脳の部位をリサイクルしながら文字を読んでいる、ということです。

つまり、私たちの脳は文字を読むためには作られていないのです。

ここで「読み飛ばし癖」が強化される背景を思い出してください。

私たちの脳というのは怠け者で、パターン処理を好む効率重視、省エネ体質です。ということは、本来文字を読むために作られていない部位を使って文字を読み、正確に理解するという能動的な思考プロセスは、私たちの脳にとって負荷がかかり、ややもすればエネルギーを大量消費する行為です。

また、先に述べたように私たちは情報爆発の時代に生きており、日々膨大な情報に晒されています。そこで私たちの脳は、お得意技であるパターン学習を駆使して処理速度を上げ、脳にかかる負荷をできるだけ軽減しようと工夫しています。このような特性を活かして、脳が私たちに提供してくれているサービスが「読み飛ばし」なのです。

ちなみに昨年、PISA2022が報告され、日本の子供の学力は上昇し世界トップレベルになったと報告され関係者は胸をなでおろしたようです。


大人の三人にひとりが図書館で指示通りに本が探せない日本

先ほどまでは子供の読解力を取り上げてきましたが、実は、PISA(ピサ)には成人版PIAAC(ピアック)というのがあります。

国際成人力調査(PIAAC)とは

OECD国際成人力調査(PIAAC:ピアック)は、OECD(経済協力開発機構)が中心となって実施する国際比較調査の一つです。この調査は、参加する各国の成人(この調査では16~65歳)が持っている「成人力」について調査し、その力と社会的・経済的成果との関係などを分析します。平成23年(2011年)に第1回調査が実施されました。それから約10年を経て、令和4年度に第2回調査を実施しています。

成人力とは何ですか?

知識をどの程度持っているかではなく、課題を見つけて考える力や、知識・情報を活用して課題を解決する力など、実社会で生きていく上での総合的な力のことを「成人力」と位置付けています。

「成人力」の調査は、どんな内容ですか?

日常生活での様々な場面で、文章や図などの形で提供された情報を理解し、課題の解決に活用する力を調べます。具体的には、「読解力」「数的思考力」「状況の変化に応じた問題解決能力」の三つの分野についての調査を行います。

文部科学省

2013年に公表されたPIAACの調査報告によると、日本の現役世代の27.7%は、「日本語読解力の習熟度がレベル2以下」という驚きの結果になっています。

このレベルがどの程度なのかというと、例えば「図書館で目録を指示通りに検索し、指定された書名の著者を検索できない可能性が高いレベル」と定義されています。つまり、日本の労働生産年齢に達する大人のうち、約三人にひとりが日本語の内容が理解できない可能性がある、という事です。

この結果は、私が感じている「読解力が低い」と思われる社会人の出現率と面白いように符合しますが、皆さんの実感レベルはどんな感じでしょうか。

PIAACの公式問題も事例が紹介されていますが、15歳の子供が受けるPISAの例題はネットに出ています。クイズのようで面白いと思える問題バリエーションです。「飛ばし読み癖」を自覚している私自身も、実際、幾つかの問題を早合点して間違えてしまいました。

皆さんもぜひ興味があれば「PISA調査(読解力)公開問題例」で検索してご自分の「読解力」をテストしてみてください。

2024年には最新のPIAAC調査結果が発表されるそうです!
日本の大人の読解力は改善しているでしょうか?
乞うご期待です。

大人の読解力をあげる方法

このように「読解力が低い」と思われる社会人の出現は避けては通れない状況になってきています。事実、わたし自身が「読み飛ばし癖」と向き合っています。

ですが、諦める必要はありません。
大人でも読解力を鍛え、向上させることはできます。
最後に、大人の「読解力」を向上する方法をいくつかご紹介しましょう。

まず、語彙を意識的に増やすことです。新しい単語や表現に触れることで、より多様な文章を理解する力が養われます。

次に、読んだ内容を要約する習慣をつけることです。これにより、主要なポイントを把握し、情報を凝縮するスキルが身につきます。

また、音読や線引き読書を行うことで、飛ばし読み癖がついた脳内処理回路を修正し、落ち着いて文章を理解する練習になるといわれています。

さらに、自分の意見とは異なる視点から文章を考えてみることも、読解力を高めるのに役立ちます。実は、PISA2018の報告で日本の子供たちの読解力の弱点として指摘されたのが「自分とは異なる意見を持つ視点からの思考力」です。いわゆる、クリティカルシンキング(批判的思考)です。

批判的思考は「相手を非難する思考」と誤解されることがある。そのため、相手を攻撃する否定的なイメージがもたれている。しかし、批判的思考において大切なことは、第1に、相手の発言に耳を傾け、証拠や論理、感情を的確に解釈すること、第2に、自分の考えに誤りや偏りがないかを振り返ることである。したがって、相手の発言に耳を傾けずに挙げ足を取ることは批判的な思考と正反対のことがらである。

京都大学大学院 楠見孝教授 日本心理学会機関誌『心理学ワールド』寄稿文より

個人的に、日本人がもっとも苦手とする思考法のひとつがクリティカルシンキングではないかと思っています。ですが安心してください。このクリティカルシンキングは訓練によって獲得し、しかも、鍛えられるスキルです。

実は、PISA2022で日本の子供たちの「読解力」の順位が改善したのは、教育現場の先生達がクリティカルシンキング的アプローチを取り入れたからだと言われています。

最後に、SNSなどで短い文章を書くことも、アウトプットの練習として有効です。書く瞑想とも呼ばれるジャーナリングも脳機能の鎮静化に効果的であると同時に読解力を養うとされています。

これらの方法を実践することで、大人でも読解力を向上させることが可能となります。


この記事が、あなたのビジネススキルの向上やお悩み解決のヒント等、何かしらの役立つ一助となれば幸いです。

【「自身の読解力を確認する」の答え】
※Q1(1)デンプン
※Q2 異なる

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