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「言葉」という言葉

■スタート
苦手だった。
自己紹介や自画像といったたぐいの、自分がお題となる課題が。昔から。

小学生のときに自画像を描く授業があり、全員の作品が教室に貼り出された。自分をかっこよく描いた?ある男子の作品を見て、ませた女子が「ジャニーズにでもなったつもりなの」と陰口を言っていて、その発想に驚いた。
そのことを今でも覚えているということは、それくらい自分にとって印象的な出来事であり、そんな小さな時から、「自分の作ったものが周りにどう思われるか」を気にして、場合によって変な調整をしていたのかもしれない。
 
企画メシ1回目の事前課題は「自分の広告」。
「自分の」広告だから、何の隠れ蓑も保険もなく、自分から逃げられない。きたか、自分のお題…。でも、これまで周りを気にして半端にこなしてきたもやもやを払拭することができる、良い機会だった。課題は難しくて楽しくて難しくて、でも自由に何かをつくれることは贅沢な時間だった。
 
自分の内面、好きなもの、伝えたいこと、色々考える。
自分の名前を紙に書いてみる。
そういえば職場に、同僚みんなの名前を英訳して遊んでいる先輩がいたな。私の名前は寛子だからrelax childか。随分ぬくぬくしてるな。
寛の字を考える。「寛ぐ」ことはもちろん好きだ。「寛容」になることは永遠のテーマ。
自分の名前について落書きしながらあれこれ考えていたら、ふと気になった。
そもそも何で私はこの名前なんだろう。
 
話は逸れるが父は数字好きで、私が5時37分に生まれたからという理由で語呂合わせでミナコと名付けようとしたらしい。しかし、祖父が有無も言わさず「寛子」に決めてしまったそうだ。祖父はその後も、両親の意見を完全無視して、弟や妹の名前も一人で全部決めてしまった。
「自分の広告」を考えながら、気付いたら私は、今まで深く考えもしなかった自分の名前を前よりずっと好きになっていた。大切にしたくなっていた。
亡くなった祖父に、どうしてこの名前を付けてくれたのか聞いておけばよかった、そして、名前を付けてくれてありがとうってちゃんと言えばよかったな。
人に名前を付けるって物凄いことだと思う。そのことに、恥ずかしながら今気づいた。
 
■推し3選、4選、5選…
もう一つの課題「推し3選を決めて感想を書く」。基準がないと本当に決められない!と思ったので、「伝わったか」「私が思う広告か」「単純に好きか」という観点から考えた。それでもなかなか3つまで絞れなかった。最終的に凄く迷った時、(自分を棚に上げて)「好みとしてはあっちも好きなんだけど、でもなぜかこっちを無視できない!」という、正体がわからない何かがあった。自分の心に共鳴するものがあって、刺さったのだ。自分に伝わったものの正体を考えることが「伝わるとはどういうことか」を知るヒントになった。
 
■講義が終わってから
第1回の講義が終わってZOOMの接続を切った直後、ぶわーっと思い出した。どこかに置いてきた、たくさんの「やってみたい」を。
人事部門にいた時、職員募集のポスターを作ったり、SNSを使って若手職員の記事を載せてPRしようとしたら、顔写真を載せたらこのご時世何があるかわからないからと上司に却下されたこと。その夜眠れないほど悔しかったこと。本当は社内報も作ってみたかったけど言い出せなかったこと。いつの間にか仕方ない、そんなものだと諦めて、考えることすらしなくなっていたこと。

そして自分はこれまで「選ばれなかった」と思えるような土俵に立ってすらこなかったと思っていたけど、自分にもそういう、ちゃんと自分をぶつけて悔しい思いをした経験があったことがなんだか嬉しかった。

※その他影響を受けたことメモ
 ・広告や商品のパッケージを観て、ああこの広告はこれを一番伝えたいんだな、ということを考えるようになった。また、自分が文章を書くときに、自分は何を一番伝えたいんだろうか?と考えるようになった。

・普段聴く音楽の歌詞の意味が前より入ってくるようになった。特に「言葉」というワードに反応するようになった。
サカナクションの「ボイル」という曲は、ひたすら朝まで何十通りも歌詞を考えて、ほしかった言葉を見つけるまでを歌にしたものだそう。まさに講義でも話のあった、潜って潜って無意識を探し出す過程。「諦めきれないんだ言葉を」という歌詞が前より色んなことを感じ取れてお気に入りになった。
 
・映画「ルックバック」を観に行って、予定どおり泣いた。でも、企画メシで課題に取り組んだ分、ちょっとだけ予定より多く泣いた。
藤野は学年で一番漫画を描くのが上手いと思っていた。そこに現れた、自分より絵が上手い京本。お互いがいなかったらここまで成長できなかっただろうな。羨ましいと思った。藤野や京本みたいな仲間がほしいし、自分もいつかは誰かの藤野や京本になりたいと思った。エンドロールを眺めながら、企画メシが思い浮かんだ。
劇中、休み時間も必死に漫画の練習をするようになった藤野に「漫画ばっか描いていたらオタクだと思われるよ。もう中学に上がるし、そろそろやめたら?」と言うクラスメートがいる。昔の私ならそれを言われて動揺したかもしれないけど、今の自分なら、流せるような気がした。

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