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2023年七ならべ十選

 ぼくが2023年に書いた「七ならべ」から十編を選んでみました。
 「七ならべ」とは一行七音の形式をぼくが勝手にそう呼んでいるものです。
 昨年書いたものをひととおり読み返してみましたが、この十編は書いたときの心情を明確に思い出すことができるものばかりです。






午前零時の
時報の裏で
錆びた線路が
歌い始める
夢はどこまで
続いているか
誰もわからず
軋む枕木
ひとを眠りに
誘うひつじは
役目終えたら
消えてゆくけど
線路の歌が
葬送曲と
知る由もなく
滲む群青
(2023年1月11日)



恋のおわりは
花火のようで
落ちる欠片を
目で追うばかり
醒めた体温
そのままにして
傷つけられた
地図をひろげる
たいせつな腕
そっと仕舞って
春はやさしい
顔をしている
(2023年3月1日)


春が坂道
のぼりはじめた
その襟首が
何色なのか
わからないまま
コートをしまう
坂をのぼって
見える景色は
ひとりで見ても
ふたりで見ても
鈍い痛みは
伴うだろう
(2023年3月15日)



花に生まれて
花として散る
ただそれだけの
奇跡の裏に
花弁を散らす
風の苦しみ

花がきらいな
風などいない
散らす役目は
担いたくない
それが本音で

花が散るのが
運命ならば
散らせる風も
運命だから
その役割を
演じ切るだけ
ようやく風に
なれたのだから
(2023年5月4日)



ひとつ残った
クリームパンが
テーブルの上
西日を浴びる
去る寂しさと
残るつらさと
比較するのは
意味ないけれど
自分の価値が
認められない
そんなつらさが
夕陽に溶ける

クリームパンの
かなしい顔が
鏡に映る
ぼくに似ていて
ぼくは自分を
食べたくなった
(2023年5月23日)



ラムネの瓶が
涙の色で
出来ているのは
星がねがいを
捌ききれずに
漏れ落ちたのが

ビー玉だから
悲しみだけを
集めるクマが
森に隠して
森が泣いてる
星も泣き出し
ぼくも泣くから
誰も知らない
流星が降る
(2023年6月22日)



シロツメクサが
一面に咲く
午後の公園
おしりの下が
ふかふかしてて
泣きそうになる
みつけたくても
みつけられない
やわらかな場所
こんなところに
あると知らずに
たった今まで
無駄に吠えてた
蒼い記憶を
染み込ませたら
道理が枯れた
戦場に行く
(2023年6月27日)


巻き戻せない
カセットテープ
ダッシュボードに
そのままにして
あの過ちの
影のながさを
思い出そうと
夜に彷徨う
レモネード持つ
右手はやがて
あたたかいもの
求めだすから
先回りして
サブスクにない
夏の記憶を
手当たり次第
呼び戻すんだ
(2023年8月6日)



感情なんて
花火のように
消えるものだと
思ってたけど
花火のように
記憶に残る
ものと気づいて
凍える窓に
書いたことばが
まるで真理の
ように嘯く
煌めく街に
戻りたいとは
思わないけど
冷めてしまった
缶コーヒーを
手放すことは
できないだろう
(2023年12月18日)



青い夢から

覚めてしまえば
色とりどりの
孤独な世界
記憶は海で
できているから
その断片が
忘れた頃に
押し寄せてくる
そしてぼんやり
ずぶ濡れている
波がすっかり
消えてしまえば
わたしの中の
あなたも消える
ただ穏やかな
海だけになる
(2023年12月23日)

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