におい
え~アナタ、いま、ウソをつきましたよね? いやいや、ワタクシには分かるんでございますよ。それは別に、アナタがお話しになるときに「右上の方を見た」からとか「鼻に手をやった」からとか、そんなんじゃございませんよ。もちろん、神がかりな状態だとか、トランス状態になって、いわゆる『知覚の扉』を開き、宇宙や人類の過去から未来までの歴史全ての記録である『アカシックレコード』にアクセスしたような、そんな大袈裟な話でもございません。
ワタクシ、「におい」で分かるんでございますよ。つまり、ウソの「におい」を嗅ぎ分けられるのでございます。これは、そうでございますねえ。「ツーカーの仲」って言葉、ご存知ですよねえ? あの言葉の由来は、一説には「通過の仲」からだそうで、物事が通過するように、お互いの意思が相手に伝わるというような意味、だそうでございます。
もちろん、ワタクシとアナタはそれほど、というより、まったく親しい間柄ではございませんよねえ。ただ、この状況の場合、アナタの発する言葉が、ある種のフィルターを“通過”してワタクシのもとに届くものとお考え下さいまし。その際に、ワタクシはその話の内容から、ウソの「におい」を嗅ぎわけるのでございます。
アナタがいま、話した話の内容に、非常に「におい」のキツイ所がございました。ほら、焼肉を食べた次の日って、排便が悪臭を放つでしょう? あんな感じで、消化不良を起こしたような、そんな単語があったのでございます。それは例えるなら、何かが腐ったような「におい」というよりも、殺虫剤やらタバコの吸い殻やら虫の死骸やらで、子どもが遊びで作る毒薬のような「におい」。つまりは、不純物のみで合成されたもののような「におい」でございます。
ですからね、ほら、もう言い逃れはできないでございますよ。これで、アナタがウソをついたことを認めざるを得ないわけでございますから。え? ワタクシの方こそ、ウソをついていると……? わかりました。ワタクシも認めましょう。ええ、そうでございます。そのとおりでございます。ワタクシも先ほどからアナタに、ウソをついておりました。そもそも、ワタクシに「嗅覚」など存在いたしません。なぜなら、ワタクシは人間ではございませんし、ましてや、生命体ですら、ございませんから。
デモ……コレデ……アナタノ……ウソハ……ショウメイ……デキル
【了】
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