留置場の日常~その3~
普段おとなしい銅線を窃盗した倉庫盗み常習の50代元やくざが、夜中、窓を見つけたまま正座していたのである。23時頃の巡回だったので、あまりにも驚き、「ひー」という声も出てしまった。
「大丈夫か?寝れないのか?」
と問い、
「少し寝れなくて。嫁のこと考えていました。」
とあったが、寝るとのことでおやすみと交わしたのである。
倉庫盗み常習の50代元やくざは、58歳。左ひじから左胸まで、和彫りががっつり入り、右目上には刀傷である。20年前に6年刑務所に入った経験があるが、刑期を終えて、14年経っているので、今回は初犯扱いである。親族の治療費が不足して、勤務先の倉庫から銅線を窃盗し売却したとのことである。
元やくざは模範囚のようにおとなしく、礼儀もあり、問題を起こすような人物でもなく、周りからもオヤジ!と呼ばれている。
20代の頃は、あるエリアの最大暴力団の構成員であった事も後程知った。
とはいえ、被害弁済額もどうやら多く、共犯者もいたらしく、接見禁止で不安になっている。
出所後約14年、妻ともうけ、真っ直ぐに生きてきた元やくざ。親族を助けねばと追い込まれて罪を犯したらしい。60歳以降の社会復帰は確かに日本の現在ではなかなか厳しいように思う。家族のサポートが絶対必要である。元やくざは20日留置の中で、他エピソードもあったのでそれはまた改めて。
夜の巡回も順調にこなし、仮眠も順番に取り、誠司も朝を迎えるのである。朝は6時半からスムーズに行けば、9時過ぎに業務終了となる。
留置者の朝は、人によるが、早い人は早い。21時過ぎには寝ているのでだから。5時には目覚める人がなんと多いことか。
そして5時過ぎから、
「お茶ください」
「チリ紙ください」
と日にもよるが大唱和となる。幾分か今日はお茶の依頼が多かった。
掃除、洗面、朝食、髭剃りを順に対応していく。
髭剃り時に、元やくざに、
「そのあとよく眠れたのか?」
と聞いた。
「おかげ様でよく眠れました」
と笑顔で言ってくれたが、両目の下は大きなクマがばっちり残っていた。
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