漫才「影」

A「お前、趣味とか最近ハマってるものってある?」

B「趣味か、俺はあんまりないかな」

A「人に言えない趣味でもいいから」

B「そんなもの無いし、あっても人には言えないから」

A「俺は最近鍛えるのにハマってて」

B「おお、体鍛えてるんだ」

A「いや、体じゃなくて影を鍛えてる」

B「影?」

A「そう、自分の影を鍛えてる」

B「それ十分人に言えない趣味だろ」

A「どんどん強くなってきてて、たぶんもうお前じゃ勝てないね」

B「まず戦えないからな」

A「スピードもかなり付いてきてるし、目で追うのがやっとだと思うよ」

B「こっちは既にお前の本体を見失ってるから。そもそも鍛えるって具体的に何してるの?」

A「深夜の公園で殴り合ってる」

B「よく通報されなかったな」

A「あと見た目もちゃんとこだわってるから」

B「見た目?」

A「肩に鳥乗せてでかい帽子かぶったり」

B「なんで海賊的な強さなんだよ。お前がコスプレしてるだけだし」

A「かなり盛れるんだよ」

B「自撮りみたいに言うな」

A「それを影に馴染ませるために朝まで腕組んで立ってるんだよ」

B「お前が社会に馴染めてないわ」

A「鳥の影だけをただ見てる日もあった」

B「罪のない鳥を巻き込むな」

A「まあ見た目はいいとしても、この先売れていく気があるならお前も鍛えておいた方が良いぞ」

B「不審者二人で売れるわけないだろ」

A「俺が言ってるのは売れた後のことだよ」

B「どういうこと?」

A「売れたら四六時中記者やらなんやらに付きまとわれて、生活し辛くなるだろ?」

B「まあね」

A「だからそこでこの最強の影武者を使って…」

B「いやいやいや、影武者ってそういうことじゃないから」

A「え?」

B「影武者っていうのは他人に自分の代わりを演じてもらうことで」

A「別の人間を用意するってことか」

B「そうそう」

A「なんだ、それならそうと早く言ってくれよ」

B「ごめんごめん、体験したことのない誤解だったから」

A「じゃあ今日から影武者の影を鍛えるわ」

B「いやそれも意味ないから、もういいよ」

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