コント「カミングアウト」

A「なあ、ちょっとお前に大事な話があるんだけど」

B「え?どうしたそんな真剣な顔して」

A「もう気付いてるかもしれないけど、自分の口から伝えたくてさ」

B「ほう、なんかちょっと怖いな」

A「できればこれを知った後も、今まで通り、変わらずに接してほしい」

B「おう、分かった」

A「実は俺……」

B「……」

A「……」

B「……」

A「前髪切り過ぎちゃったんだよね!」

B「……は?」

A「いつもと違う美容室行ったら、ザクっといかれちゃって」

B「いやそんなことかよ!無駄に怖がらせるなって!」

A「気にしてないの?」

B「男は男の前髪なんて1秒も見てないから」

A「よかったー!引かれたらどうしようかと思ってたわ!」

B「心底どうでもいいわ」

A「なんだよー、緊張して損したわ」

B「完全にこっちのセリフだから」

A「よかったー、じゃあこれからも変わらず接してくれるんだな?」

B「……いや、それは無理」

A「え?」

B「ちょっときついわ」

A「なんで?」

B「だってお前、カミングアウトしてきたじゃん」

A「でも前髪は気にしてないって…」

B「お前はさ」

A「うん」

B「自分が前髪を切り過ぎたことが、俺にとっても重要なことだと思ったから、あんな真剣な顔で伝えてきたわけだろ?」

A「……」

B「自分の前髪の長さが変わったことが、他人にとっても一大事だと思ったんだよな?」

A「いや…」

B「その感覚が無理だわ、きついわ」

A「別にそういうつもりじゃ…」

B「そういうつもりじゃなかったのにそうなったってことは、お前自体がそもそもそういう奴だってことだよ」

A「……」

B「お前は今日、自分は己の頭髪の僅かな変化が他人にも重大な影響を与えているはずだ、きっとそのはずだ、という感覚で生きている人間であると俺にカミングアウトしてきたんだよ」

A「いやそんなこと…」

B「それがきついな」

A「うーん…」

B「せめて女の子とかが言ってるならわかるけどね」

A「いや、でも今の時代男も見た目に気を使ったり…」

B「違うよ?」

A「え?」

B「男でも美容とか髪型とかそういう物にこだわるのが好き、っていうこと自体は個人の趣味だから全く否定してないよ?」

A「……」

B「ただその感覚を同じ熱量で他人も共有しているはずだと思い込んでるのが嫌だ。とにかくお前は今回…」

A「ああもう分かった分かった!」

B「何だよ、話はまだ…」

A「もう分かったって!俺が悪かったよ!」

B「うーん、本当に悪いと思ってる?」

A「思ってるよ!」

B「まあ分かってくれたならいいんだけどさ」

A「はいはい!」

B「じゃあ俺はそろそろバイトの時間だから行くわ」

A「勝手にしろ!」

B「(歩いて離れる)」

A「何なんだよあいつ…」

B「(端で正面を向く)(ガラスを鏡代わりにして前髪をいじる動き)」

A「さすがに怒りすぎだろ…」

B「(いじりながら)クソッ、やっぱ薄くなってきてるな…」



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