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テレ東ドラマシナリオ『月がきれいですね』【1話脚本♯3】

※以下のログラインを元にしました。

○ 桃子の家・桃子の部屋(夜)
  桃子、一人にやにやしている。
桃子「(自分と近藤の一人二役で)『明日も作ってきていいですか?』『……頼む』 きゃーー!」
  桃子、一人盛り上がっている。
桃子「(ぽつりと)告白か……でも、なんていえばいいんだろ……」

○ 高校・2年A組教室(翌日・朝)
  桃子、近藤への手作り弁当の入った袋を提げてやってくる。
  どこからか笑い声が漏れる。
  大井と取り巻きの男子らが、桃子を見て薄笑いを浮かべている。
桃子「……?」
  と、桃子、黒板を見て愕然とする。
  黒板に相合い傘のイタズラ書き。
 『田淵桃子』と『近藤剛』の名前が並んでいる。
大井「おーい田淵。先輩のハムマヨネーズはもう舐めたか?」
男子ら「(馬鹿笑い)ぎゃははは」
桃子「(顔を真っ赤にする)……馬っ鹿じゃないの」
  桃子、黒板消しで落書きを消す。
大井「味はどうだった? 感想きかせろよ」
桃子「(無視)」
  大井、桃子のそばへ寄る。
  大井、弁当の入った袋をちらと見て、
大井「(真顔になる)いいか。先輩は俺の商売道具なんだ。弁当なんか渡してジャマしてみろ。今度はもっとひどいぞ」
桃子「……」

○ 同・校門近く
  登校する生徒ら。
  用務員に扮した天使、ほうきで落ち葉を掃いている。
  天使、空を見上げる。
  どんよりとした曇り空。
天使「順調かと思いきや、どうやら雲行きが怪しくなってきましたよ」

○ 同・3年B組教室前
  桃子、手作り弁当の入った袋を手に、近藤がくるのを待っている。
  窓の外、雨が降り出している。
桃子「(浮かない顔)」
  と近藤、やってくる。
  桃子、無理に笑顔を作る。
桃子「(明るく)先輩! 今日もオムレツにしちゃいましたー!」

○ 同・2年A組教室
  昼休み。
  桃子、咲とさやかと弁当を食べている。
桃子「……(元気がない)」
さやか「(桃子、見て)気にすることないよ。大井のことなんか」
咲「そーそー」
桃子「……うん」
  と、背後にマヨネーズを持った大井。
  大井、そろりと桃子に近づくと、制服にマヨネーズをぶちまける。
大井「(わざとらしく)田淵! 先輩に何か出されてるぞ!」
  取り巻き男子ら、騒ぎ立てる。
男子1「うわっ。ほんとだ。汚ねえ!」
男子2「お前、ここ学校だぞ!」
  桃子、制服についたマヨネーズに気づく。
桃子「?!」
咲「(大井へ)あんた!」
大井「(咲とさやかに)あ? お前らも田淵と同じ目にあいたいか?」
  とマヨネーズで脅す。
桃子「……私なら平気だから」
  桃子、ティッシュを取り出すと、必死でマヨネーズをふきとる。
咲、さやか「……」

○ 同・3年B組教室
  近藤、桃子の作ったオムレツを悠然と食べている。
近藤「(舌鼓をうつ)」

○ 同・女子トイレ
  桃子、マヨネーズをふきとっている。
  が、汚れが落ちきらない。
  ふいに、涙がぽたぽたとこぼれおちる。
桃子「(ぽつりと)なんで……先輩にお弁当たべてほしいだけなのに……」

○ 桃子の家・外観(翌日・早朝)
  鳥のさえずりが聞こえる。
  
○ 同・階段前
  優子、2階を見上げる。
優子「(大声で)桃子ー! 起きないとお弁当間に合わないよ!」
  が、返事がない。
優子「(訝しがる)……」

○ 同・桃子の部屋
  桃子、ベッドで目を開けたまま布団に被さっている。
桃子「……」
  起き上がる気配はない。

○ 高校・2年A組教室
  授業中。  
  窓際の席。桃子の姿はない。
  咲とさやか、心配そうに桃子の席を見る。
  大井、桃子の席をちらと見て、
大井「(にやり)」
  と、教室のドアが開く。
  一同の視線の先に桃子。
桃子「(教師へ)遅刻してすみませんっ」
  桃子、教室へ入ってくる。
  桃子の手に、いつものように近藤への手作り弁当が入った手提げ袋。
  桃子、毅然とした態度で席に着く。
  そして手提げ袋を机の脇にかける。
桃子「(咲とさやかへ、にこり)」
咲、さやか「(微笑む)」
大井「(唇を噛む)」
     ×     ×     × 
  10分休憩の時間。
  桃子、おろおろと教室内を見回している。
  咲、さやか、桃子の異変に気づく。
咲「桃?」
桃子「……ないの」
さやか「え」
桃子「……先輩に渡すお弁当」
咲「うそでしょ?」
桃子「どうしよう。早く渡さないとお昼休みになっちゃう……」
さやか「ちゃんと探したの?」
桃子「(自分の机を見て)ここにかけといたのに……」
  咲、ピンときて、大井のいる方を睨みつける。
  大井、白々しくそっぽを向く。
咲「アイツ……」
  桃子も察し、大井のもとへいく。
桃子「返して」
大井「ん?」
桃子「先輩に渡すお弁当……今すぐ返して!」 
大井「おいおい何のことだ?」
  桃子、かっとなって大井ににじりよる。
  大井、すかさず桃子の体を跳ね飛ばす。
  桃子、床に転んでしまう。
大井「(桃子を見下ろして)田淵。これはあくまで仮の話だけど。仮にだよ? 俺が弁当を盗んだとすれば、そんなものはどっかのゴミ箱に捨てちまうだろうな」
桃子「そんな……」
大井「(にやり)」

○ 同・3年B組教室
  昼休み。
  生徒ら、弁当を食べている。
  近藤、何をするでもなく、じっと机に座っている。
近藤「……」
  近藤、おもむろに立つ。

○ 同・2年A組教室前
  近藤、やってくる。
  教室のドア付近にいる女子へ、
近藤「(ぼそり)……田淵はいるか?」
  女子、桃子を指さす。
  近藤、教室へ入っていく。
  近藤、桃子の前に立つ。
近藤「……田淵」
  桃子、声に気づいて顔をあげる。
  泣いていたようだ。桃子、とっさに涙を拭う。
桃子「はい……」
近藤「弁当を受け取ってない」
桃子「(笑顔を作る)……あ、ごめんなさい……今日は寝坊しちゃって……」
近藤「……そうか」
  と近藤、去る。
  見ていた咲とさやか、後を追う。
咲「(近藤へ)ちょっと! いくら何でも鈍感すぎやしませんか?!」
近藤「……(わからない)」

○ 同・職員室
  教師ら、昼食をとっている。
  近藤、入ってくる。
  入るなり近くのゴミ箱を漁り始める。
教師1「(驚く)何してる」
     ×     ×     ×
  フラッシュバック。
  廊下。
  近藤、咲とさやかに叱られている。
咲「先輩にお弁当を作ってるせいで桃はクラスで嫌がらせにあってる」
さやか「それでも桃がお弁当を作り続けるのは、桃はずっと先輩ことが……」
     ×     ×     ×
近藤「……」

○ 同・1階昇降口前
  用務員に扮した天使、ゴミ箱をのぞき込んでいる。  
天使「(顔をしかめる)しかし、ひどいことをするもんですね」
  天使、顔をあげる。
  撮影カメラを手招きする。
  撮影カメラ、天使の前にくる。
天使「見てください。ひどいですよ」
  撮影カメラ、ゴミ箱の中をアップで撮る。
  ゴミの中に弁当箱。
天使「中身は無事なんでしょうかね。だとしても、これを食べるのはちょっと……」
  と、近藤、やってくる。
天使「あ、きました」
  撮影カメラ、慌てて元の位置に戻る。
  天使、モップ掃除をしはじめる。
  近藤、うろうろする。
  が、肝心のゴミ箱に気づかず素通りする。
天使「(わざとらしく独り言)あれ、なんだこれ? ゴミ箱に弁当箱? ま、いいか」
近藤「(気づく)」
  近藤、ゴミ箱をのぞく。
  近藤、埃やゴミで汚れた弁当箱を拾い上げる。
近藤「(弁当箱を見て)……」

○ 同・2年A組教室
  桃子、うつむいている。
  教壇で男子らが話している。
男子1「先輩、今頃はコンビニでランチパック選びの最中か」
男子2「今日こそメンチカツだ」
  大井、教卓に飛び乗る。
大井「(上機嫌で)今日から賭けの再開だ! 今日の先輩のランチパックはさァなんだ! 張ったり! 張ったりー!」
  と、ドアががらりと開く。
大井「(見る)」
  弁当箱を持った近藤が立っている。
            (♯4へ続く)

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