見出し画像

テレ東ドラマシナリオ『月がきれいですね』【1話脚本♯4】

※以下のログラインを元にしました。

○ 高校・2年A組教室
  近藤、入ってくる。
  その手に、捨てられた弁当箱。
  教卓に乗っている大井、
大井「(近藤を見下ろし)誰かと思えば近藤先輩じゃないですか」
近藤「……」
  桃子、近藤に気づく。
大井「ランチパック、コンビニで買ってきたんでしょう。まだ見せないでくださいね。オッズ決めなきゃいけないんで」
  近藤、突然、印籠よろしく四角い弁当箱をかざす。
桃子「……?」
近藤「誰だ? この日本一美しい四角形をあんなところに捨てたのは」
桃「(はっとする)」
     ×     ×     ×
  フラッシュバック。
  3年B組教室前。桃子と近藤。
桃子「その、先輩はどうしてランチパックを……」
近藤「あの洗練されたデザインは、日本一美しい四角形だ」
     ×     ×     ×
桃子「……」
大井「(吹き出す)ちょっと何いってるかわかんないです」
  近藤、大井に近づく。
近藤「……お前か」
  大井、教卓から飛び降りる。
大井「(豹変し)あ? やんのか、こらァ」
  男子ら、ぞろぞろやってきて、近藤を取り囲む。
桃子「(不安になる)」
近藤「……」
男子2「(近藤へ)おい。メンチカツ切ってんじゃねえぞ、こら」
男子1「なめてんじゃねえぞボケっ」
近藤「……望むところだ」
  男子ら、近藤に殴りかかる。
  近藤、ひらひらとかわす。
  近藤、反撃する。
男子3「ぐっ(倒れる)」
  男子ら、近藤一人にぼこぼこにやられる。てんで相手にならない。
  床に倒れる男子1、2、3、4。
近藤「(大井を見る)」
大井「こいつ……」
  大井、近藤に殴りかかる。
  近藤、カウンターで大井を力いっぱい蹴り飛ばす。
大井「(吹っ飛ぶ)ぐぺぇーーーー!!」
  大井、床に倒れたまま悶絶する。
  静まり返る教室内。
  近藤、のそのそ桃子へ近づく。
  桃子、呆然としている。
近藤「……田淵」
桃子「は、はい……」
近藤「これ(弁当箱)、もらっていくぞ」
桃子「……」
  近藤、弁当箱を手に悠然と去っていく。

○ 同・3年B組教室
  近藤、むしゃむしゃ弁当を食べている。

○ 同・2年A組教室(放課後)
  桃子、決意に満ちた顔をしている。
  咲とさやかへ、
桃子「私、先輩に告白する」
咲、さやか「(うんうん)」
桃子「(弱気になる)でも……何て伝えたらいいかわからないよ……」
咲「とにかく桃の想いをぶつけるの!」
さやか「そうだ! 頑張れ、桃!」
桃子「(不安)」

○ 同・屋上
  天使、タバコをぷかぷかふかしている。
  撮影カメラに気づく。
  天使、タバコを消す。
  携帯灰皿を取り出し、吸い殻を捨てる。
天使「(撮影カメラマンへ)どうですか? 告白の準備は整いましたか?」
  撮影カメラ、頷く。
天使「ふむふむ。校舎裏に呼び出したと」
  撮影カメラ、頷く。
天使「(ほっとする)一時はどうなることかと思いましたが、ここまで待った甲斐がありました。それにしても、ランチパックの話、少しクドくないですか?」
  撮影カメラ、困る。
天使「(撮影カメラを見て)さて。何はともあれ、いよいよ告白タイムです」

○ 同・校舎裏
  桃子、緊張で体が震えている。
  少し離れたところ、校舎の死角に咲とさやかの姿。
  反対側の校舎の死角には天使の姿。
  と、近藤、やってくる。
桃子「(さらに緊張)」   
  桃子と近藤、向かい合う。
近藤「……何か用か?」
桃子「……」
咲、さやか「(頑張れ)」
桃子「その……先輩に伝えたいことがあって……」
近藤「……何だ?」
桃子「私、ずっと前から先輩のことが……何というか、先輩を見てると胸が苦しくなるというか……先輩にお弁当を作るのが楽しくて……嬉しくて……私、先輩のことが……」
近藤「……?」
桃子「ずっと前から……」
天使「(もどかしい)好きでした」
桃子「私、ずっと前から……」
近藤「……」
桃子「先輩のことが……」
  桃子、俯いてしまう。
天使「(もどかしい)好きでした。いっちゃっていいですよ、好きって」
撮影カメラ「(ダメです)」
  桃子、何もいえない。
  『すき』が消えた世界で、どうしても言葉が出ない。
  桃子、すっかり黙り込んでしまう。
近藤「……田淵」
桃子「……?」
近藤「よくわからないが、つまり、これからも弁当をくれるということか。日本一美しい四角形を」
  桃子、やけっぱちになる。
桃子「そ、そうなんです! これから毎日、ずーっと、ずーっと!! 先輩にお弁当を!! 私は……私は世界一おいしい四角形を作りたいっ!!!」
近藤「……頼む」
桃子「じ、じゃあ、私と付き合ってください」
近藤「(あっさり)ああ」
  桃子、嬉しさでへたれこむ。

○ 同・校門
  桃子と近藤、並んで帰っていく。
  満足げに見送る天使。
天使「さてとーー」

○ 同・校舎裏
  天使、先ほど桃子が告白した場所に立っている。
天使「では、できたてほやほやの『すき』を採取するとしますかね」
  天使、ポケットから魔法の瓶を取り出す。
  瓶へ念力を込める。
天使「ふんっ!」
  辺りの空気が揺らめき、瓶の中に『すき』(言霊)が吸い込まれていく。
  ピンク色の液体がみるみる瓶の中にたまっていく。
天使「(瓶を眺めて)これでよしと」
  天使、瓶にラベルを貼り付ける。
天使「(撮影カメラマンへ)マジックペン持ってますか?」
  撮影カメラマンの手が伸びて、天使にマジックペンを渡す。
天使「どうも」
  天使、マジックペンでラベルに以下の文字を書く。
  『おいしい四角形を作りたい』
天使「(改めて瓶を眺める)うーん。ずいぶんユニークな『すき』が採れました。やっぱり少しクドすぎませんかね、ランチパック」
  撮影カメラ、困る。
天使「一仕事終えたことですし、一杯やりませんか。トリキいきましょう、トリキ」
  頷く撮影カメラ。
  天使、撮影カメラを引き連れてその場から去る。
            (1話終わり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?