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ひとつなぎの木の下で(6)

*お金からの開放がテーマの短編小説です。全9回、連日投稿いたします。

6 物の価値を決めるもの
 
 少し前までこの話を切り上げて仮眠でもしようと考えていたのに、私はインタビューの形式が崩れるほど熱が入ってしまっていた。

「それはなんですか?そうなると話が余計にわからなくなりました」

「それは価格です」

「価格!?それがなんの意味があるんでしょうか?」

「価格とはなんだと思いますか?」

「そりゃぁ、物の価値を決める値段のことでしょう。コストや需要や供給のバランスを見てつけられる経済のルールにはなくてはならないものです」

「ではここからはコストは考えないでください」
 
「はい?どういうことですか?経済のルールにはなくてはならないと言ったはずです」

「うーん、そうしたらですね、価格を決めるコストっていうのは需要や供給などの要素もあるでしょうが、わかりやすく製品を作る上で一般的に材料費や人件費、設備費と儲け分などですよね?」

「まぁ、ざっくりそうですね」
 
「では材料費や人件費などの価格はどうやって決めているのですか?」

「それは、材料なら石油などの原材料の価格から計算して…あ、木下さん、その原材料の価格はどうやって決めるのか?って次に絶対、聞きますよね?」

「ハハハ、そうですね」

「原材料は発掘したりする人件費や設備費、採掘国の利益…う…」

「あれ?どうされましたか?」

「い、いや突き詰めていくと堂々巡りでどこの時点で価格が決まるのかがわからなくなってきたんですよ…原材料の価格は掘削する機械やら人件費やらと考えていたんですが、その掘削機械の価格はその機械を作る原材料や開発費?あれ?どの価格が基準になって価格があるんだ??どうやっても価格の基準が見つからないことになってしまいます…ぐぬぬ」

「そうなんですよ。実は突き詰めていくとコストなんて後から付けたもので本来は原価は0なんですよ」

「えーっ!!そんなバカな!絶対そんなことはあり得ないはずだ」

「でも本来は原価0ですよね?石油が地球の地下にある時のコストなど誰にも決めることが出来ないでしょう?地球がいくらか請求してくるわけでもないわけですし。他の原材料についても同じです。産出国などの土地や海にもそもそも価格などないんですよ」

 とんでもないことになった、これが事実ならば本質的には全てのものには値段が付かないじゃないか。いやいや待て待てそんなことはないはずだ、落ち着け田宮、落ち着け。さぁ、声を絞り出せ!
 
「い、い、いや、た、確かにそうかもしれないですけど、、(落ち着け)こ、こ、交換、 あ、そうだ、交換するのにお金がなければ交換できないのだから価格は必要でしょ? (よし、よく耐えた、どうだ木下!)」

「交換ですか、なるほど。交換したいですか?となればお金が必要ですね。交換ツールですから。でも価格は付かないわけですから、んーと、あえて価格を付けるとするとー、じゃあ一律¥100にしましょうか。収入も全ての物やサービスもオール¥100!」

「う、、ぐ、、ちょっとお待ちください、、それは困り、、ま、す」

 自分で自分の首を絞めてるようで異常に苦しい。木下さんは一気にお金をその概念から消してしまおうというのか、我々地球人類が求めてやまないお金の存在理由まで否定しようというのか…喉が渇いてコーヒーを一気に飲み干してしまった。

「はぁ、はぁ、わかりました、わかりましたよ。全部¥100でいいです。はい、いいです。でも木下さん、先ほどのマウントの話はどうなりますか? (これだ!どうだ木下!)封建的な思考の現代人にオール¥100で全てを与えたら、それこそ北◯の拳の世界にあっという間になってしまいますよ」

つづく


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