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禍話リライト「青い物置」

 ※注意※
・この話はいわゆる「感染系」です。特に読んだり聞いたりした方の夢に影響を及ぼす恐れがあります。十分ご留意のうえ、お読みください。
・自死に関する表現があります。
・設定上は関西の話ですが、関西弁は分からないのでほぼすべて標準語(関東弁)です。

1 Mさん(20代、男性)の話


 へえ、かぁなっきさんて怖い話集めてるんですか。変わってますね。

 怖い話か……。そうですね、よく分かんないな、って話でもいいならありますよ。


 結構最近……、コロナ流行る直前くらいだったんですけど。

 俺、出身関西なんですけど、高校時代の友達3、4人で、みんな社会人になってから集まったことがあったんですよ。そうそう、プチ同窓会みたいな。

 でもそういうときって、思い出話とかずっと話してると、だんだんそんなに話す内容なくなってくるじゃないですか。二次会とかになってくると。

 近況とか話すにしても、そのときいた連中、元々仲良くてちょこちょこラインとかする間柄だったのもあって、話題が尽きてきたっていうか。

 で、お互い話題をいろいろ出しあってたら、最近スマホ買い替えた、みたいな話になったんですよ。

 そのときに、中の一人──Gっていう奴だったんですけど、
「スマホといえばさ、スマホの説明書ってのは、例えば『ここで電源が入ります』みたいな最低限のことしか書いてなくて、機能が分かんないから使って慣れるしかないよね」
て話しだして。

 まあそれ自体は正直ありふれた話なんで、みんなで「そうだね」とか適当に相槌打ってたんですけど。

 そしたらそのGが、
「俺、この間写真撮ろうと思ったらさ、連続写真になっちゃったんだよ。見てくれよ、これ」
って自分のスマホの画像フォルダーを見せてきたんです。

 見たら、確かにフォルダーにバーって同じ写真が映ってて。
 まあ間違えて連続写真が撮れちゃうのはよくあるんでいいんですけど、その写真が変だったんですよ。

 多分物置みたいなところの中を撮ってるんですけど、その内側が青く塗られている……っていうか、元々違う色だったところに重ねて青く塗り直されている感じで。そういう写真がバーって保存されてたんです。

 もう見た奴全員「なんだこれ?」ってなっちゃって。そもそも、なんでこんなところを撮ってるのかも意味不明じゃないですか。

 そんで誰かが、
「なんだこれ? お前んちの物置かなんかを撮った写真なの?」
って聞いたら、
「いやーこれ、親戚のね……、母方の親戚んちかな」
って答えるんですよ。

 日付見たら結構最近……1週間くらい前だったんです。なんで、俺も
「あー、じゃあ最近親戚の家に旅行に行ったってこと?」
って聞いたんですよ。

 そしたら、Gの奴、
「えっ? あっ、お、おう。旅行に……行った」
なんて変な返事するんです。

 普通、旅行に行ったんなら「ああ、行ったよ」じゃないですか。Gの返事の仕方、変な話「旅行に行った」っていう選択肢が来たから乗った、みたいな感じがしたんです。

 え、よく分かんないリアクションするなあって思ってたら、写真見てた他の奴が、
「え? え、お前これさあ、連続写真はいいんだけどさ、え、これ……」
って言いながら、写真の1枚をみんなに見えるように拡大したんですよ。

 それで俺も初めて気づいたんですけど、その物置の写真、どう見ても人の顔に見えるものが写ってるんです。こう、空中に浮いてる感じの顔が。

 まあなにかしらの光の加減で写ったのかもしれないし、そういう風に見えるっちゃ見えるかな?くらいの写真で。

 見つけた奴もそんな深刻な感じじゃなくて、結構冗談めかして
「うわっ、お前これ……親戚んちの物置、お化け写っちゃってるよ、ほらここ、人の顔……」
なんて言ってたんです。

 周りのみんなも「うわ、人の顔だ、人の顔だ」って騒いでたんですけど、G本人は「え? どこ? 全然分かんない、ごめん」って言うんです。

「え、こんなはっきりと……、分かんない?」
て何回か聞いてたら、Gが終いにはイライラし始めて。

「分かんないって……、やめろよ……!」
みたいな感じになっちゃって。

「あ、ああごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど……。ま、気のせいだと思うけどね」
って謝ってスマホ返したんですけど、それでちょっと変な空気になっちゃったんです。

 まあ、その後はまた別のムードメーカーみたいな奴がワーってしゃべってくれて何ともなかったんですけどね。


 で、それからね……。かぁなっきさん、そのGがですね……。

 その同窓会みたいなことがあって、1週間ちょっと……10日くらいかな?経ったときだったんですけど。

 死んだんです。物置で。

 そいつ実家暮らしだったんですけど、そいつの家に物置はなくて。近所の、2、3件隣だったかな……。その家の物置で、あの……首を吊って亡くなってて。

 でも、Gが首吊る理由なんて全くなかったんです。仕事、恋愛、お金関係、全くないから、え、なんでなんで?ってなったんですけど……。

 まあお葬式とかにも行ったんですけどね……。そしたら、憔悴しきったご両親に
「ちょっとこれ……意味分かります?」
って大学ノート渡されて。

 ご両親が言うには、そのノートに、多分Gが亡くなる前に何か書いてたらしいんですよ。広げたまま置いてあったから、遺書というかなんというか……。でもその内容が、ちょっと家族でも分からないんだって言われて。

 そのノート見たんですけど、「○○さん家に似たような形状の空間があったので、そこで妥協します」みたいなことが書いてあって。
 「○○さん」って、その2、3軒隣の、Gが首吊った物置のある家の名前なんですよ。

 あのときGの物置の写真見た連中は、みんな「あれっ? 気持ち悪いな」ってなっちゃって。

 それで、そこで聞くのもなんだったんですけど、聞いてみたんですよ。
「あの、ご親戚の家に最近行かれたなんてことは……?」って。

 そしたらご両親、「えっ?」って感じで。

 「いやほら、母方とか、父方とかの……」って言おうとして気づいたんですけど、そこの家、おじいちゃんおばあちゃんと同居してるんですよね。

 えっと、えっと……?って思いながら聞いたら、近くに親戚の家なんかないらしくて。
 すごく遠く、例えば九州だったら東北くらい離れてるとこにならあるけど、滅多に行かないし行くわけない、みたいなこと言われて。

 じゃああいつ、どこの家の物置で写真撮ったんだろうって。全然分かんないんですよね。



2 Eさん(30代、男性)の話


 かぁなっきさ、この間お前「物置の怖い話あったら教えてくれ」って言ってたじゃん。
 なんか青い物置の連続写真の話してたときにさ、「関連する話がないかな?」って。……言ってたよな?
 そしたらさ、なんか似たような話、俺も聞いたんだよ。


 この話してたの、知り合いのEって奴でさ。そいつが関西の大学通ってたときの話だって言うんだけど。

 そいつももう30代だから、今から10年とかそのくらい前の話なんだけどさ。

 大学にさ、パーラーみたいなのあるじゃん。そう、学生食堂みたいなの。
 Eがそこで昼飯食おうとしたら、先に来てた同じサークルの連中が騒いでたんだって。

「ぎゃー、やめて気持ち悪い!」
って結構盛り上がってて。

 Eは遅れて入って来たから、
「あ、お疲れ様です。どうしたんですか?盛り上がって」
って聞いたら、連中の一人が
「いやあの、こいつが人が死んでる写真を回してくるんだよ!」
て返してくるんだよ。

 こいつって言われてたの、サークル内のご意見番みたいになってる院生の人だったんだけど、ちょっと悪趣味なとこがあったんだって。

 それにしたって、そんな人が死んでる写真なんて……ってEが思ってたら、その院生の人がさ──仮に名前をAさんってしとくけど、
「いや、これはね、あの……俺が撮った写真じゃないんだけど……」
って説明しはじめて。

「俺の友達がさ、ある廃墟に行ったんだよ、廃墟散策が趣味で。で、何もない一軒の家だったんだけど、なんか物置が気になるなって思って開けたらね、人が首吊って死んでたんだって。
 それをそいつが写真に撮っちゃって。俺も焼き増ししてもらったんだけど」

 なんてことを言って写真を見せてるんだってさ。

「え? ダメでしょ、それは警察とかに……」
って言ってたら、Eにもその写真が回されてきて見たらしいんだけど。

 その写真ってのがさ、内側全体が青く塗られてる物置の中で、人が首吊ってうなだれてるってやつだったんだけど、その人の顔がちょっと見えて、それでEには分かったらしいんだ。

 そこに写ってた人、Aさんの友達の人だったんだよ。

 その大学には来たことないから他の人は知らなかったんだけど、Eは一緒に麻雀とかしたことがあって知ってて。要はAさんの悪ふざけに乗っかるような感じの人だったんだって。


 だからEが
「あ、なんだ。もう、これAさんの友達の方じゃないですか。ちょっとそういう冗談とかやめてくださいよー」
なんて言ったら、周りが「え、なにそうなの?」ってなって。

 悪ふざけだってバレたから、Aさんバツの悪そうな顔してさ。

 それでみんなが結構怒っちゃったらしいんだよ。
「なんだ冗談だったのかよ」
「もうやめてくださいよマジで……」ってさ。

 まあそれはしょうがないと思うけど、なんでかAさんも怒っちゃって。
「よしんば気づいたとして、なんでお前は言うんだ」みたいな。ずいぶん理不尽だよな。
 Eも「えー、怒られるの俺~?」ってなって。

 でもAさん結構しつこくて、その後昼休みとか授業とかも終わって、サークルの活動してるときにも言ってくるんだって、「お前言うかな普通?」って感じに。

 で、あんまり絡んでくるから、Eも反論したんだよ。
「いや悪趣味過ぎるでしょ、あり得ないでしょ。人が死んでるところ再現するとか……。よく友達の方も死体役とかやってくれましたね」

「いや、なんか正直言うとあいつが結構主導でやってたから……別にいいと思って……」

「いやいや女の子とかにウソでもあんなもの見せちゃダメですよ、趣味が悪すぎますよ。」

 なんて言ってたら、他の連中も部室に入ってきて。

「もう、Aさん昼間はびっくりしましたよ。1年の女の子とか、『あんな気持ちの悪い先輩がいる部屋なんか行きたくない』て言って今日来てませんからね」

「え~」

「そりゃそうでしょ。あんた、小学生のとき好きな子の背中にカエルとか入れて、一生嫌われるタイプだったでしょ」

 Aさん、一応先輩なんだけど、結構そこはみんな言って。反省してもらおうと思ったらしいんだけど。


 で、そこでEがなにげなく思ってたことを聞いてみたんだよ。

「ちなみに、あれどこで撮ったんですか? ほんとに廃墟?」って。

 そしたらね、Aさん、
「いや、廃墟じゃないんだよね。俺の友達──その首吊ってる奴の、お姉さんが嫁いだ先の家なんだけど。」って言い始めて。


「そいつの姉さんの嫁ぎ先、地方のすごいお金持ちで、使ってないでっかい物置があって。なぜかそこを年一回くらい青いペンキで塗るっていう、よく分かんない風習があるらしいんだ。
 そこが画的に面白いから行こうって言われて、そいつと行ったんだよ。
 家の人に写真撮っていいか聞いたら、
『どうぞ、私たちは母屋の方にいますんで』
って言われたからその物置撮ったんだけど、ただ撮っててもあんま面白くなくて。
 なんかないかなって2人で考えて、その友達が『首吊り風の冗談写真撮ってみよう』って言うから、俺も乗ったんだよ」

「えっ? ちょっと待ってください。あの、どういうタイミングでそういう冗談を思い付くんですか、その友達? お姉さんの嫁ぎ先でそんなことします?普通。」

 Eたちが思わず突っ込んだらさ、Aさんもだんだん冷静になってきて。

「言われてみればそうだな……。変なテンションで撮っちゃったけど。そいつが全部こうやってこう、ってやってたから撮っちゃったんだけど、確かに変だね……」

「いや、最初から変でしょうが。なんですかそれ」

「そうね、ちょっと変だな、今度会ったら聞いてみようかな」

 そういうことになって、その日はそれで終わりになったんだけど。




 それから1週間くらいして、またサークルのみんなで集まる機会があったんだって。でも行ったらAさんがどんよりしてて。

 聞いたら、「あの、物置の話なんだけどさ……」って切り出してきたんだってさ。

 Eたちはさ、この前結構Aさんに怒っちゃったから、それを気に病んでるのかな、って思ったんだよ。

 だから
「あーあの首吊り写真の話? いやもういいですよ。Aさんがアホだってみんな知ってるから」
って言ってあげたんだけど、Aさんは
「いや、そういうことじゃなくて、」
ってなんか話しだして。


「俺も言われて気づいたってのも変な話なんだけど、確かに自分の姉の嫁ぎ先でそんなこと提案する奴っておかしいよな……って。そもそも、あの物置、なんのために青く塗ってんのかも分かんないし。
 だからそいつに聞いたんだよ。
『あの物置、なんで使ってないのに青く塗ってんの?』って。
 そしたらさ、そいつ、普段すぐ返事する奴なのに、全然返事してくれなくて。
 部屋ん中で俺と一対一なのに、ずーっと黙ってるんだよ。
 それで5分くらいしたらボソッと、
『まあ、あそこ実際に侵入者が死んでんだけどね』
って言われて……」

「えっ? 物置で侵入者が死んでる……?ってどういうことっすか?」

「そいつの姉さんが嫁ぐ何年も前にさ。その物置、当時からあんまり使われてなくて、年一回くらいしか使わないものだけ入れてたらしいんだけど。
 その……そこに、全然その家と縁も所縁もない余所者が、確か正月とかの人の出入りが多い時期に侵入して……。
 首を吊ったんだって。
 それで結構事件になったらしいんだけど、まあ自殺ってことで処理されて」

「100パーやばいじゃないですか。それ知ってて、そんなとこで首吊りの真似するやつ普通いないでしょ……。
 え? その余所者ってなんなんですか?」

「それがさ、これから気持ち悪いことになるんだけど。
 俺も『なんだよ? 正月に侵入してきて首吊って死ぬって……。なんなんだよそいつ』って聞いたらさ。
 おかしい話なんだけどさ。
 俺の友達、『その家と縁も所縁もない奴が入ってきて死んだ』って言ってたのにさ。
 そいつのことを “コウノイケさん” って呼ぶんだよ。」


 Eはもうその段階で、Aさんがなんでそんなに気持ち悪がってんのか分かっちゃって。ほら、Aさん以外だとEだけその友達の人のこと知ってるからさ。

「えっ? マジっすか?」
とか言っちゃったらしいんだけど、Aさんは全然そんなの耳に入ってなくてしゃべり続けてて。


「さん付けっておかしいだろ。縁も所縁もない、外部からの侵入者だったら名前なんか分からないだろうに、そいつ
『“コウノイケさん” って人が首を吊ってた』
って言うんだよ。

 俺も一対一でどうしていいか分からなくてさ……。とっさに
『え? さっき余所者だって言ってたよな? 警察の人が調べて、“コウノイケ” って名前が分かったってことなの?』
って聞いてみたんだけど。

『なんか、その家に外から嫁いできた女性のことを忘れられなかった昔の恋人らしいんだ、“コウノイケさん” って人。
 恋人って言ってもどこまでの関係だったのか分かんないんだけど、学生時代のちょっとした付き合いだったのかもしれないし。
 とにかく、そういう恋愛のこじれで “コウノイケさん” っていう人が首吊って死んじゃったんだよね』

 ってなんでか俺の質問には全然答えてくれないんだけど、やたら “コウノイケさん” のことだけは詳しいんだよ。

 俺ももう一回、
『お前さ、なんでお前の姉さんが嫁いだ先の話なのに詳しいの? “コウノイケさん” ってディテールまでさ』
て聞いたんだけど、なんかモゴモゴごまかされて結局教えてくれなくて……」


 Aさんの話はそれで一通り終わったんだけど、部室内全員シーンってなっちゃってさ。

 でもEが特に「うわ……マジか……」って顔してたみたいで。

 他の奴が
「いや、お前だけめっちゃ沈んでるけど、なんだよ? 確かに怖い話だったけどさ」
って聞いてきたらしいんだよ。


 それでEもみんなに言ったんだけど、Aさんの友達、名字 “コイケ” っていう人だったんだって。

 その名前知ってたの、その場だとAさんとEだけだったらしいんだけど。

 2人とも、その人がとっさに自分の名字の “コイケ” をちょっとだけ変えて、“コウノイケ” って適当に言ったのかなって考えちゃって、すごい気持ち悪くなっちゃって。

 サークルのみんなにもそれ言ったら、
「いやいや、もう訳分かんなすぎて気持ち悪いし、もうこの話やめましょうよ」
ってことになったんだって。


 そしたらね。それから1週間くらい後だって言うんだけど。

 その “コイケさん” ──Aさんの友達の、あのふざけて首吊りの写真撮った人。

 物置で、首を吊って亡くなったんだって。

 別にあの写真撮った青い物置のところじゃなくて、全然違う、大学近くのグラウンドにあった、ちょっと大きめの用具入れでやったらしいんだけど。

 そこ、入り口の鍵がバカになってるの知ってる人は知ってて。

 そこに侵入して、近くのホームセンターで買ったペンキで中を適当に青く塗ってて。まあ正直、塗るって言うかペンキぶちまける感じだったらしいんだけど。


 それ以来、ちょっとその物置の話はサークルでタブーになったらしくて。
 Aさんもショックで院をやめちゃって。


 で、ここまででももう十分嫌な話なんだけど。

 サークルもそういうことがあったんで、ちょっと一時期人の出入りもまばらになっちゃって。解散までは行かなかったらしいんだけど。
 だから名前をちょっと変えて、部室も別のところにして、心機一転、ってしようとしたんだって。

 で、部員でその部室の片付けしてたらさ、当時の部長の女の子が「うわっ、なにこれ」って何か出してきて。

 「えっ?」って見てみたらさ。

 写真屋さんがサービスで付けてくれる、ペラペラのアルバムあるじゃん。あれにサークルの思い出とかまとめてたらしいんだけど、途中で飽きちゃって真ん中らへんからスカスカになってて。


 その一番最後のページに、その物置の写真が入ってたんだって。あの、冗談で首吊りの真似してる写真が。


 部長はAさんの話とかちゃんと知ってたから、「うわっ、これ、これ……」ってなっちゃって。

 結局、本当はダメなんだけど、その場で灰皿かなんかに乗せて焼いたんだって。



 まあ、部室とか変えたのがよかったのか、そのサークル自体は今も継続しているらしいんだけどね。自分たちが悪いことしたわけでもないし。

 でさ、まあこれはあくまで噂なんだけど、そのパーラーでAさんって人が見せてきた写真。どうも1枚だけじゃなかったらしくて。

 Eの話でも、Aさんが「焼き増しした」って言ってたし、どうも何枚かあるみたいなんだよね。

 で、その写真が、本当に人が死んでるところの写真だって言う触れ込みで、オカルト関係のすごく狭い界隈の中で流通してたらしいんだよ、今はどうか知らないけど。怖い話好きっていうよりも、不謹慎マニアって感じの人たちの中でさ。

 流通の過程で、元の写真をさらに携帯で撮ったりするから、どんどん画質が荒くなって余計に気持ち悪くなったりして。


 それで、真偽は分かんないけどね、その写真見るとさ。

 なんか、したく・・・なるらしいんだよ。場所を突き止めて行きたくなったりするらしいんだよ。


 だからお前もさ、ツイキャスだっけ?よく分かんないけど、そういうのでこの話するんだったら、ちゃんと色々設定とか固有名詞とか変えてからにしろよ。

 ──絶対突き止められないように。


3 Yさん(40代、男性)の話


 あ、もしもし? かぁなっきか?

 ……いやいや、『なんだよ夜中の2時に』って、お前なら別に起きてるだろ。いいからちょっと聞けよ。

 お前、今日変な青い物置の話してきただろ。よく分かんない、コイケやらコウノイケやら出てくる話。多分、その話のせいなんだけどさ。

 俺、気持ち悪い話聞いたなって思いながらさっきまで寝てたんだけどさ。そしたらなんか夢見たんだよ。


 夢の中でさ、俺は田舎のでっかい家にいて、そこですごい盛大な宴会してて。

 俺は客として呼ばれてる側だったんだよ。客として出る方だから食べ放題だなって喜んでたら、その宴会、割合俺の好きなものばっかり出てくるんだよ。
 刺身とか肉とか、野菜も俺が好きなのばっかりでさ。

 「やったー」って思って食べようとしたんだけど、よく見たら俺以外の客、みんなテンションが低くてさ。俺に「よく食えるね」みたいなことを言ってくるわけ。

 だから俺も、隣の人に
「すみません、呼ばれて来ただけで何にも分からず……。これ食べちゃダメなんですか?」
って聞いたんだけど、
「きみは若いから、ヨモツヘグイって言葉を知らないと思うけど、」
って返されるんだよ。

 俺、夢の中だったからヨモツヘグイって単語にピンと来なくて。

「ヨモツヘグイってなんすか……? まあ食べちゃダメなんですね。でもなんでみんな沈んでるんですか?」
ってまた聞いたらさ。

「せっかくのお祝い事なんだけど、みんな美味しくご飯を食べたいとこなんだけど、
──物置で人が死んでるから、そうでもなくなってるんだよね」

 その瞬間にパッとお前の話思い出して。「うわっ」って思って、視線をちょっと遠くに遣ったらさ、向こうの席に座ってる奴が見えたんだけど。

 そこに座ってたの、俺が小学校のときに死んじゃった同級生でさ。そいつは普通に出されたもの食ってるんだよ。

 それでバッて目が覚めて。で、お前に電話したんだよ。


 ……え? 『お前の気のせい』だって?
 『他の奴にも話してるけど、そんなことになったのお前だけ』?

 いや違うんだよかぁなっき。お前さ、話ん中でコイケやらコウノイケやら言ってただろ。

 俺、そんときに別の名前が思い浮かんだんだよ、その名前の変換パターン。例えるならノムラとノノムラみたいな。

 浮かんだけどまあいいやって思って忘れててさ。
 寝ようとしたら寝る直前にもその名前の変換パターンが思い浮かんだんだけど、そのまま寝たらそんな夢見たんだよ。


 コイケだコウノイケだっていうのも、どうせお前が適当に変えた名前なんだろ? だから大丈夫だって思ってたんだろ?

 でも、そんなのどうでもよく・・・・・・なってるんだろうな。お前のしてた別の話じゃないけどさ。

 じゃあな、それだけだから。もうこんな話してくんなよ。これ以上なんかあったら友達付き合いもやめるからな。



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著作権フリーの怖い話をするツイキャス、「禍話」さんの過去放送話から、加筆・再構成して文章化させていただきました。表現を改めた箇所があります。ご容赦ください。

文章中の名前はすべて仮名です。
各話の話者や、「禍話」の語り手・かぁなっきさんのご友人の情報などもすべて捏造です。

出典:シン・禍話 第三十八夜 (加藤君退出後は閲覧注意かも) より、「青い物置」 (1:21:20ごろから)

※本編ではこの後に、ご友人の多井さん、かぁなっきさんが見た夢についても語られます。

※ ↓ かぁなっきさんによるこの話の補足です。

この放送回で弊リライト「遺骸の儀式」について言及していただき、大変光栄です。
これからも禍話リライターの末席として、禍の拡散の一助となれるよう、微力ながら精進して参ります。


▼「禍話」さんのツイキャス 過去の放送回はこちら
https://twitcasting.tv/magabanasi/show/
(登録などは不要で聞くことができます)

▼過去配信分のタイトル等をまとめてくださっているページ
 禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi/