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禍話リライト「みゆき」

 Oさんは、当時付き合っていた彼氏と、友人カップルと一緒に、とある廃校に遊びに行ったのだという。


 友人カップルは校庭を、Oさんたちは校舎内を散策することになった。

 教室の中を巡っていくと、埃が積もった室内に意外と当時のものが残されていた。 
 先生が使う大きな三角定規やら、生徒の机の中には教科書まで入っている。2人で「なんでこんなに物が残ってるんだろうね」と言い合いながら歩き回った。

 Oさんは、こういったところの探索が好きな性格だった。ごそごそとあちこちの机を漁っていると、ある机に1冊のノートがあった。
 
「なんかノートあったよ」
と彼氏に声をかけて、2人で見てみることにしたという。
 
 表紙には、名字は忘れてしまったそうだが “○○みゆき” という名前が書いてあった。
 どうやら社会のノートだったらしく、開くと最初のページには「大化の改新」という見出しがある。
 その下に大化の改新の人物関係図がまとめてあった。「蘇我馬子」や「蘇我蝦夷」、「中大兄皇子」などの人名が「親子」とか「対立」といった矢印で結ばれている。
 めくると、次のページもまた大化の改新について書かれていた。

「え、なんで? まとめ直したのかな?」
「いやでも日付は違うよ」

 その次をめくっても、また大化の改新のページだ。

「ええー……、おかしいよこれ」
 Oさんは思わずバァーと全部のページをめくった。字で埋まっているのはノートの半分くらいまでだったが、すべて大化の改新のことが書かれている。
 最後の方のページになると、人名どうしを結ぶはずの矢印が無茶苦茶に引かれ、グルングルンと紙面をのたうち回っていた。

「気持ち悪……。もうやめとこうや……」

 怖がる彼氏に促されて、Oさんはそのノートを置いた。
 改めて見ると、ノートが入っていた机にも “○○みゆき” という名前が書いてある。
 好奇心を捨てきれず、Oさんは他の机の中をもう一度確認してみた。すると違う机に入っていた教科書にも、名前欄に “○○みゆき” と記入されている。

「なんだよこれ……」
「人の物にも自分の名前を書いちゃうとか、そういう癖のある子だったのかもね……」

 なんとも言えぬ気味の悪さを抱えて、Oさんたちは教室を出た。

 Oさんたちは歩きながら、そろそろ校庭を見ている方の2人にも声をかけて帰ろうか、と話していたが、ノートのことはそのカップルには黙っておくことにした。
 というのも、そちらのカップルの女の子の方がものすごい怖がりだったのだ。彼女があまりにも怖がりすぎて校舎に入れず、校庭を探索することにしたほどだったという。
 帰りは当分山道が続くし、むやみに怖がらせるのはやめとこう、という判断だった。

 無事にもう一組のカップルとも合流し、4人は車に乗り込んだ。校庭を探索していた方の彼氏は運転席、女の子は助手席、Oさんたちは後部座席、という配置だったそうだ。

 校庭を見てまわっただけでも、女の子の方は十分だったらしい。
「ほんとこわかったぁ……」
などと車内でも半泣きで騒いでいた。
 
 しばらく走り、車が信号待ちをしていると、助手席にいるその女の子がふと静かになった。視線を向けると、窓ガラスの結露で曇っている部分に何か書いているようだ。
 
 Oさんが(落書き?)と思ってよく見てみると、彼女は指で “○○みゆき” という名前を書いている。

 この子はノートの名前のことは知らないはずだ。
 驚いて「なに書いてんの?」と聞くと、
彼女は手でキュキュッとその名前を消しながら「なにが?」と返してきた。
 
 その様子に背筋が寒くなったOさんは、それからそのカップルには会わないようにした、という。


 


著作権フリーの怖い話をするツイキャス、「禍話」さんの過去放送話から、加筆・再構成して文章化させていただきました。一部表現を改めた箇所があります。ご容赦ください。

まがらじ 第一回 より「みゆき」

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