第1061号『「熱」があるかどうかなのだ』
自慢にもならないが、僕は負けることや、上手くいかないことには慣れている。世の中にはどうにも手に負えないことや、どうやってもかなわない相手が山ほどいる。さらに、人生は公平ではないことも重々承知している。いや、むしろ基本的に不公平なものである。それでも、やりたいことがある。だから、器用でもない僕は痛いおもいをし、身銭を切りながらやってきた。
いま、是が非でもやりたいプロジェクトがある。しかし、そこに至るには幾つもの難関を突破しなければ到達できそうにない。もう駄目かと、ため息混じりでうなだれることも一度や二度ではない。なかなかに苦戦を強いられている状況なのだ。 こんな時、教訓にしているエピソードがある。20世紀初頭、飛行一番乗りを競ったライト兄弟とサミュエル・ラングレーとの物語である。まさしく今日のAI開発競争のごとく、当時飛行機開発は、世界中の発明家や起業家が世界初の動力飛行機を作ろうと、熾烈な競争を続けていた。そのレースの先頭にいたのがラングレーだった。
ラングレーはハーバード大に在籍し、スミソニアン博物館の事務局長であり、米国陸軍省から5万ドルの資金を得ていて、当時の最高の頭脳と人材を確保することができるポジションにいた。まさに、彼は資金と人材にまったく不自由のない環境にいたのだ。一方、ライト兄弟は自分たちが経営する自転車屋から得られる資金しかなかったし、彼らのチームには大学を卒業した人材もいなかった。
しかし、成功したのはライト兄弟だった。では、その成否をわけたものとは何か?
それは、それぞれが持っていた地位や環境ではなく、望んでいたものの違いだったと言われている。つまり、ラングレーは名誉と富を求めていたが、ライト兄弟は動力飛行機によって世界を変え、良くしたいという大義と理想と信念のために働いた。そしてラングレーは、ライト兄弟が成功したと聞くや、チームを解散した。一番乗りの名誉が叶わないと知ったとき、あっさり止めてしまった。方や、ライト兄弟のチームのメンバーは、夢を信じ血と汗と涙を流して働いた。そして、空を飛んだ。
今更ながら、何かを成そうとしたとき、最も大事なことは、自らの内側に「熱」があるかどうかなのだ。どうしたら成功するのかという技術論ではなく、その「熱度」の総量こそが、成功するかどうかを分ける最大の要因だと断言することができる。
ライト兄弟に習うならば、熱を持って諦めずに努力すること。手間も暇もかかる。しかも、報われないことも多々ある。でも、不器用であれ、不公平であれ諦めない。結果は終わるまでわからない、だから諦めない。なにが起こるかわからないのではなく、諦めないから、なにかが起こるのだ。9回、二死ツーストライクから逆転のドラマはままあるから。