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【作品解説】『ブラックロッド』世界観・ストーリー

あらすじ

オカルト技術が戦場に投入され、世界の在り様が変わるほどの被害をもたらした先の大戦ののち、人類は荒野に点在する巨大積層都市に立て籠もるように生き延びていた。
そして数十年。積層都市のひとつ〈ケイオス・ヘキサ〉では、市政上層部と降魔管理局A∴S∴Cが、神と人類に関わる計画を秘密裏に推し進めつつあった――

第1部「ブラックロッド」
過去にいくつもの都市を墜としたテロリスト〝影男〟ランドーが〈ケイオス・ヘキサ〉市内に侵入した。
捜査に当たる公安局魔導特捜官〝ブラックロッド〟は、妖術技官V9、私立探偵ビリー・龍と共に、都市構造の最下層・封印空間へと向かう。

第2部「ブラッドジャケット」
かつて〈ケイオス・ヘキサ〉を席捲した未曾有の吸血鬼禍、その直前。
心に虚無を抱える屍体蘇生業者アーヴィング・ナイトウォーカーは、隻腕の少女ミラ、そして吸血鬼〈ロング・ファング〉との奇妙な邂逅を果たす。

第3部「ブラインドフォーチュン・ビスケット」
(※「ブライトライツ・ホーリーランド」改題)
公安局の支配を脱し跳梁する最悪の魔術師、G・G・スレイマン。小市民の生活に闖入した奇妙な天使、アルファ。外壁地区の労働者街に沈む最強の機甲羅漢、アレックス・ナム。そして小さな人生を愛する最大の吸血鬼〈ロング・ファング〉。
彼らの運命は都市崩壊の瞬間へと絡み合いながら加速していき、そして――


【MEMO】
「オカルト×サイバーパンク」あるいは「ファンタジー×SF」という世界観――具体的には「電子的に悪魔を召喚する」とか「プログラム言語のように呪術を編む」といったノリは、今でこそまあまあ普遍的なオタク的発想だが、執筆当時(1994年ごろ)はインターネットも携帯電話も一般普及のギリギリ直前で、書いてるフルハシもPC持ってなかったくらいなので(ワープロ専用機で書いてた)、けっこう珍しい目のつけどころだった。

また、
「現代のスマホやPCに、いにしえの呪いや悪霊が絡んでくる」のではなく、
「劇中世界ではオカルトがIT技術をほぼ代替していて、逆に〝コンピュータ〟が異質な技術とされている」のは、
今見ても、ちょっと面白いセッティングだと思う。

「呪文とか言霊とかを慎重に取り扱ってるところに〝電子頭脳〟とかいう高速情報処理をする機械をブチ込むとヤバい」

「そいつは道教の二進法的宇宙観(太極、両儀、四象、八卦――)に関連する技術らしい」

「誓約に縛られる魔神ジンは論理トラップに弱い。逆に坊主は禅問答で論理破壊できるので強い」

などなど――
オカルト関連の法則を基盤にした架空の技術体系を想定し、世界を丸ごと作ろうとしている感じ。
この辺、表現は拙いながらも意欲的な発想で、なかなかいいスジだったと思う。

……とは言え、その後四半世紀の情報技術の発達は呆れるほど急激で、作中の〝未来都市〟でスマホもパソコンも持ってない人々が右往左往するさまは、今となっては時代劇というか、レトロフューチャーのたぐいだなーと。
「過去から枝分かれした架空の未来」「完全な異世界」を構築するつもりが、結局は当時の「今」を書いていたわけで。
むしろ、作品の後ろに透けて見える「執筆当時の時代背景」こそが、現在のこの作品の、一番の特色なのだと思う。

明日にも破綻するかも知れない閉塞した社会。ドカンと世界が終わり、解放される瞬間をどこか望んでいたあのころ。
前世紀末の「狂騒的に鬱屈した空気」を楽しんでいただければ幸いです。


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■ 『ブラックロッド』2023年復刊 ■
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