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2024年のコンサート初めは、どうもざわざわする感じだった

こちらでは、すでにあれこれ書いているので、今更ご挨拶というのも変な感じですが・・・・。

ともあれ、今年もコンサートレポートも含めて、あれこれ書き散らす予定です。お時間ある時、お気が向いたとき、お付き合いいただければ、幸いに存じますm(__)m💕💛


さて・・・・・。すでに何度か触れていますが、先週の土曜日の午後、千葉県の市川市にある市川市文化会館で、山下一史&千葉交響楽団のニューイヤーコンサートに参加してきました。

山下さんが、千葉響の音楽監督に就任されて、今年で8年目。私のように、通っているファンにとっては、すでに年中行事となった感もあるニューイヤーコンサートです。チケットも、完売御礼とはならなかったにせよ、おそらく9割は売れていたろうと思われる盛況ぶりでした。

元日に北陸で大震災が起こり、翌日には羽田での事故。どうしても気分が沈みがちな年明けですが、ロビーでもホール内でも、静かだけれど和やかな空気が流れていました。

そうして時満ちて、始まったコンサート。

今年のオープニングに、山下さんは、ワルツ王・ヨハン・シュトラウス二世の出世作、喜歌劇「こうもり」の序曲を選ばれました。明るいし、華やかだし、新年を寿ぐコンサートの幕開けにぴったりです。

そのはずなんですが・・・・・(>_<)

私の耳には、演奏が華々しく聴こえてきません。音も心なしか、くすんで聴こえてきます。

初めて聴く曲ではないんです。これまでに何度も聴いているんです。その時には、ワクワクさせてくれたのです。ですが、演奏を聴いていても、身体が全然反応しないんですね。

コンサートが始まって、万雷の拍手の中登場された山下さんの様子に、何処かお疲れが感じられて、案じていたのですが、私のそういう印象通りだった、と申し上げたら言いすぎでしょうか。

プロであればあるほど、一つ一つのコンサートを大事にするものでしょう。いかに慣れ親しんでいる千葉県での演奏会とは申せ、惰性で指揮をされる方ではないはずです。

ふと、数年前の君津でのコンサートを思い出しました。あの時、君津市をはじめとした房総地域は、相次ぐ大型台風の襲来で、甚大な被災をしていました。
その秋に、君津市でコンサートがあったんですね。私も行きましたが、ブルーシートに覆われた屋根屋根を道中の車窓から観て、言葉をなくし、打ちのめされたものでした。
それは、山下さんも同様だったようです。ともかく、ガチガチの緊張ぶりでした。客席からその背中を観て、あんなに身体の線が固いマエストロを初めて観ました。そうした山下さんが指揮した、バーンスタインの「キャンディード」序曲は、やはり、明るさも華やかさも今一つの、勢いの削がれた演奏だったんです。
この作品も、本来ならとても楽しくて煌びやかで、聴く者の心を浮き立たせる魅力を持っています。オープニングには最適なんですね。けれども、あまりの被災地の状況に動揺したその気持ちが、ストレートにオーケストラに伝わったのでしょう。楽団員の方々にしても、他人事じゃないんですしね。

今一つ乗り切れない様子の「こうもり」序曲を聴きながら、君津の時を思い出して、「ああ、お気持ちとしては、同じなのかもなぁ・・・・」と、考えていました。

山下さんは、元日に起きた大震災の被災地・石川県にはなかなかご縁があるんですね。ヨーロッパでの修行を終えて、帰国後のキャリアをスタートさせてくれたのが、「オーケストラアンサンブル金沢」。石川県にあるプロのオーケストラです。ここは、13年前の東日本大震災の時、被災して活動停止を余儀なくなされた仙台フィルハーモニー管弦楽団に、真っ先に支援の手を差し伸べてくれたのだそうです。ホールが使用不能になってしまった仙台フィルに、共演という形で、演奏機会を作ってくれたのだそうです。

こうしたことを、「こうもり」の演奏後に、新年のご挨拶ののちに聴き手に語って下さいました。その表情には悲痛さの影も見えました。私自身、いろいろ知っていることもありましたし、仙台フィルは最愛のオーケストラでもあるので、うなずきながら涙ぐんでしまいました。今回のコンサートマスターの神谷未穂さんは、13年前仙台で山下さんともども被災もされていますから、神妙な面持ちで、山下さんの話を聴いてらっしゃいましたね。

君津の時同様、今回もまた、指揮者とオーケストラが気持ちを共有しての演奏だったのでしょう。

けれども。君津の時もそうでしたが、山下&千葉響、この後、見事に気持ちを切り替えました。山下さんご自身、ご自分のつらい気持ちを語った後、こうおっしゃいました。

「いろいろありますけれども。これからのコンサートの時間だけは、音楽の楽しさにお気持ちをゆだねてください!」

この宣言後、迷いを吹っ切ったように、シュトラウスファミリーの作品を中心にしたプログラムを楽しく展開されて行ったのでした。

最近では、あちこちのオーケストラのニューイヤーコンサート観てると(あ、広告で。まず行きませんので。最愛のマエストロ、千葉にいるし)、いろんな趣向が凝らされています。けれども、山下さんは古風です。ウィーンフィルのニューイヤーコンサートの形、つまりこのシュトラウスファミリーの作品が中心になるという形式を、守ってらっしゃるんですね。

私自身は、ワルツ王とそのファミリーの作品には全然詳しくなかったのですが、さすがに8年も通えば、馴染みも出てきます。ただ、基本的に年に1回しか聴けないので、なかなか記憶に残らんのですがね(^^;プログラムも、勿論、毎年変わりますから。

ただね。この新年最初のコンサートを聴きに行く人たちには、楽しみがあるんですわ。この時は3部制なんですけれど、この第3部のアンコールをひそかに待っていたりするんですね。いやまぁ、私自身そうなんですが!(^^)!

大体、この時はアンコール含めて10数曲演奏されます。アンコールのパートで、ほぼ3曲。このラインナップが、ここ数年固定化されつつあるんですな。もう山下さんもオーケストラも、そろそろくたびれてきてもいるし(山下さんは、MCもお務めですので)、お遊びの要素が入ってます。コロナ騒動の前は、それこそいろんな趣向もあったんですが、ここ数年は、千葉ロッテマリーンズの応援歌の演奏があって、球団のマスコットキャラクターとチアガールの方がお二人登場するんですね。

私はマリーンズのファンじゃないですが、この時だけは、エールを贈る意味で楽しく手拍子しています。何しろ、この時、山下さんが早変わりして、”変なおじさん”になるんですね。それまでの礼服の上着から、マリーンズのユニホームの上着を着て、野球帽までかぶって、指揮される。
初めてその姿を観た時、客席から「ええ?!」という声が上がりました。その客席に向かってこぶしを突き上げ、「なんでもやりますよ!」と高らかに宣言なさったのにも、わたしゃ腰抜かしましたけれどね。

そういうマエストロのサービス精神にも敬意をこめて、マリーンズファンでない私も、この時だけは、手拍子でエールを贈っています。
ここで盛り上がって、その勢いで、御存じ「ラデツキー行進曲」で最高潮に楽しんで、終幕です。この「ラデツキー行進曲」の一体感の楽しさを味わうと、病みつきになるんですなぁ。

終演後「今年が、今までで最高(のニューイヤー)だったわ!」との声も、聴かれました。個人的には「そうかぁ??」だったりもするのですが、山下さんの人間性や、山下&千葉響のコンビネーションの良さを味わわれたのかもしれません。

私としては、「こうもり」のまえに被災地への献奏があったり、終演後の募金活動などもしてよかったんじゃないかな、とか、思うこともあるのです。ただ、今後のコンサートの中で、山下さんもいろいろ考えてらっしゃるのかもしれませんから、見守っていきたいとは思います。

開演前は、小春日和だったのですが、終演後会場を出たら、なんとみぞれ! これは次第に雪に変わって、折からの強い北風に煽られて、最寄り駅を出てからは吹雪になりました。帰宅途中で買い物もしたので、手がふさがっていた私は、雪まみれで帰宅したことです。

そんななかで、ふと思い出した「万葉集」の最後に置かれている、大伴家持の歌。そこに込められている願いが、かなうように切望しています。

新しき年の始めの初春の今日降る雪のいや重(しけ)吉事(よごと)

皆様にとっても、良きことの多き2024年でありますように。

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