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最愛のマエストロは赤玉土だったと気づいた話ーーーコンサートレポート後編

ええっと、これはさっきアップした同名の記事の後半です。よろしければ、そちらもお付き合いくださいませm(__)m💕💛


さて。20分の休憩の後は、総勢70名のサックス奏者で編成されたオーケストラの登場です。この方々は、すべて須川展也さんの東京藝大でのお弟子さんだそうです。

私の最愛のマエストロは、このオーケストラを指揮するために登場されたわけです。70人じゃあ、アイコンタクトも限界があるでしょうしね。

ただ、私は前半の熱狂が終わった後、いささか気がかりでした。ホールには、前半の素晴らしい演奏で、軽やかで明るく粋な雰囲気が満ちています。
山下一史という指揮者は、人柄はとても気さくでフットワークも軽い方ですが、その演奏ぶりは重心のきわめて低い、人によっては”暑苦しい”とか”うっとおしい”とか言いかねない重厚さを持っています。ドイツロマン派の音楽を心から愛し、得意にもしているマエストロを私は心から愛していますが、さて、須川ファンの方々にとってはどうなのだろう??? 

杞憂でした。

考えてみれば当然のことです。聴けば須川さんは、山下さんを20周年の時も30周年の時も呼んでいるのだそうです。今回はデビュー40周年の記念リサイタルですけれど、そんなにたびたび山下さんを招いているということは、山下さんを愛し信頼していると同時に、山下さんの指揮が必要だということです。山下さんだからこそ、任せられる。そうした全幅の信頼を置いているのでしょうね。

後半オープニングの「ブラヴォー・サックス!」の時こそ、私にはぎこちなさが感じられたのですが(この時は、須川さんはお休みでした)、この後、須川さんがソリストとして参加しながらの演奏では、どんどんヒートアップしてゆくのが手に取るようにわかりました。

山下さんの指示が、オーケストラに確実に伝わってゆくのが私にもわかります。最近では珍しく、山下さんはタクトを持ってらっしゃいましたが(ここ数年、オペラ以外のオーケストラのコンサートで、山下さんが指揮棒を持ってらっしゃるのを観ていないんです)、そのタクトが目立たないほど自然な所作でした(タクトをお持ちだと私が忘れるほどに)。

後半の作品はすべて、日本人作曲家の作品でしたが、中でも私が「おおおーーーー!!」と思ったのは、加藤昌則さんの「マドリード・インスピレーション」。これは、須川さんの解説によれば、スペインの様々な民謡をアレンジした作品だそうです。クラシックでも聴き馴染みのあるメロディがたくさん出てきて、「あ、あれだ!」とか楽しんでいる中で、耳に飛び込んできたリズム。それは「アストゥリアス」の、迫ってくるようなせりあがるような緊迫感を持った、フレーズでした。

十数年前、或るインターネットラジオのクラシック音楽専門チャンネルの番組で聴いてから、大好きな作品なんです。もともとはアルベニスという音楽家の作ったピアノ曲の一楽章なんですが、ここからノーバート・クラフトというギタリストが、「アストゥリアス」だけをギター用にアレンジしたものです。それが大好きなんですね。

これはプロになるほどのギタリストも同じことのようで、ラジオなどで演奏を聴きますが、私はいいと思える演奏に出会ったことがありません。期待して聴くのですが、いつも期待外れです。

それが。須川さんのサックスでの演奏は、私を驚かせ喜ばせたのです。私が、この作品に求める冷たさや暖かさが、見事に表現されていたからです。コンサートでいつか名演を聴きたいと長年願っていたのですが、その願いがやっとかないました。ここは、オーケストラとの共演の作品ながら、須川さんのソロでしたが、山下さんもオーケストラもじっと聴き入っていましたね。望外の喜びでした。

この後本プログラムラストの、狭間美帆さんがガーシュウインの作品のメドレーをしながら作った「『すべてを知っている場所』からの便り~ガーシュウイン・メロディーズ~」で、ホールは最高潮! 山下さんも指揮台のうえで、弾けていらっしゃいます。

ここで終わるかと思ったのに、ありましたよ、アンコールが! 今情報がないので、作品名が分かりませんが、前半にご出演の小柳美奈子さん・井上陽介さんが、再び登場。小柳さんはオカリナのような愛らしい音色の笛で、参加されました。小柳さんの時はそうでもなかったのですが、井上さんが出てこられた辺りから、須川さんもオーケストラの一部の方々も、なんだか糸が切れた凧のように、自由気ままに振舞って演奏されます。その姿に唖然とする中、ふと気づいたのは、指揮台の山下さんが楽譜を観ながら、ちゃんと間合いを測ってらっしゃったことです。おそらくは、須川さんたちの自由で楽しい演奏も楽しみながら、文字通り手綱を締めてらっしゃったのでしょうね。

須川さんが山下さんを絶対に信頼してらっしゃる理由。それは、私が危惧した山下さんの重心の低さが、演奏をなんとかまとめてくれるとよくご存じだからなのでしょう。まさに扇のかなめ。山下一史がいざという時は、必ずなんとかしてくれる。いろいろな経験から、須川さんにはそうした確信があるのでしょうね。だからこそ、ご自分たちは自由に山下さんの手のうえで、遊ぶこともできるのだと。

その役割に、帰宅後、私は想い至りました。

「そうか! 山下さんは、”赤玉土”だ!」

園芸を少しでもご存知の方は、赤玉土という園芸資材をお聴きになったことあると思います。最近では培養土が主流だそうですが、私が相方から植物の魅力を教えられたころは、赤玉土は植え込み材料の主役でした。

ただここで私が申し上げているのは、”山下さんが主役”という意味ではないのです。赤玉土はやはり重めの土で、植物を植えこむとき重心となって、しっかり支えてくれるんですね。

ジャズのプレイヤーは、どんどんご自分の世界に飛んでゆく傾向があって、かつて山下さんも山下洋輔さんとの共演で困ったことがあったとのお話を聴いたこともあります。この時も、その話を思い出していたのですが、山下さんがいうなれば、上がっている凧の糸の先をしっかり握って、肝心なところをコントロールしている。でも凧は、結構自由に飛んでいる。そういうイメージがつかめて、先ほどの言葉になったのでした。ちょっとわかりにくかったかもしれませんが(^^;

ともかく、2か月半ぶりに素晴らしいコンサートが聴けて、本当に生き返りました。同時に、自分がこの2か月半、本当は音楽を求めつつも感性を眠らせて、過ごしていたんだなぁ、と気づきもしました。そして、私を生き返らせてくださるのは、やはり最愛のマエストロであり、信頼している音楽家たちなんだと改めて痛感したのでした。

本当に世界中が、安心して音楽をはじめとした芸術だったり、文化的な時間を楽しめるように、私も心から祈りたいと思います。

ここまで読んでくださったあなたに、心から感謝いたしますm(__)m💕💛
ありがとうございますm(__)m💕💛

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