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同族の教育力にはかなわないですな。

17羽のオカメさんたちのうち、1羽だけ体重が測れない子が我が家にはいます。5~6年前、我が家に里子としてきたトムトムです。

このトムトムは、我が家に来た時、パートナーがいました。まちこと名付けたのでしたが、彼女は数年前の夜、急死してしまいました。2羽で一緒にやってきて、環境の激変にも耐えてきたのです。トムトムが彼女の後を追うのではないか、と、私は案じていました。

彼らは、手乗りさんではなかったので、一日中かごの中で暮らしていました。しばらくは同居していましたが、どうもまちこの体調が思わしくないので、別居させていました。かごは隣り合わせで並べてあったので、それほど寂しくはなかったようです。

けれど、まちこがいなくなって、さすがに探して鳴くようになっていました。ただ、それも数日のことだったので、安堵していました。まちこが大ぶりなグラマーさんだったのに反して、トムトムは筋肉質ですらりとしています。どちらも、全身が少しイエローがかった白。オカメインコの種類としては「白オカメ」あるいは「ルチノー」として、人気もあります。

独りになって、食欲も旺盛なので安心していたのですが、昨年、彼の眼に異変が起きました。眼球が白くなっているんです。つまり、白内障を発症していたんですね。

2羽をお世話してくれた、馴染みのお店の御主人によれば、彼らが我が家に来た時、推定で5~6歳。そこから現在まで仮に5年たっていたとしても、10歳ですから、白内障を発症する年齢ではないはずなんです。鳥の世界でも白内障は老化現象の一つですし、オカメさんは長寿ですからね。

ただ、我が家に来るまでの以前の飼い主さんの世話の仕方次第では、彼の身体の老化が進んでいたのかもしれません。タンパク質や野菜、ミネラル分などを充分にもらっていなかったら、こうした障害も出るのかもしれません。

実際、我が家に来た時、まちこもトムトムも、落ち武者のような風情でした。羽に艶もなくて、全体にボロボロの印象でした。我が家のオカメさん用のご飯を夢中で食べている姿に、胸が詰まったものでした。

もちろん、体質もありますし、この白オカメはノーマルのオカメさんから色素が抜けているので、眼の色素も抜けています。なので、白内障の発症率は、ノーマルの子たちより高いのは事実ですけれどね(我が家でも、白内障を発症しているのは、すべて白い子たちですので)。

それはともかく、トムトムは今年になって、両眼白内障になったようです。視えなくなって、一時パニックになったようです。自分の状況がわからなかったのでしょう。私だって、そうなるだろうと思います。

世話のたびに名前を呼んで声をかけました。「トムトム、野菜だよ」「トムトム、お水だよ」という風に。彼の記憶にあるはずのものが必ず、彼が覚えている場所にあるようにしました。そうすることで、彼は落ち着きを取り戻し、穏やかに暮らせるようになりました。

ここで、ようやく冒頭のほうで申し上げた「体重測定ができないオカメさんのトムトム」につながるわけです。

我が家のオカメさんで、手乗りではない子はほかにも何羽もいます。ただ、彼らはいずれもまだ目が見えていますし、子どものころは手乗りだった、という経歴の持ち主がほとんどですから、私がかごから出して、彼らを手で抱えても、嫌がることはあっても、ショックを受けたりはしません。

けれど、トムトムの場合、人の手で触られること自体が恐怖なわけです。野鳥などでもそうですが、人の手はやはり、自分たちを捕まえる怖いものです(殺される、と、親から教わっているんでしょうね)。トムトムとまちこは、前の飼い主の元で、繁殖もさせられていたようですから、人の手は、自分たちの育てた子供たちを取り上げてしまうものでもあったことでしょう。

それだけに、私は彼の健康状態を知るためにも体重を測りたいのは山々だったのですが、危険が大きすぎるので、あきらめていたのです。

ところが、です。

先月下旬、オカメ軍団の一斉体重測定をした時のことです。トムトムが、かごの戸口まで来て、何かしら訴えているんですね。最近こそ、こちらへの警戒心も緩んできたようですが、それでも、そんなことをしたことはなかったんです。その姿は、「僕も、体重測定、したい!」と言っているようにしか見えませんでした。

「トムトム、体重、測りたいの?」
「ぴきゃ!」
「あんた、測れるの?」
「ぴきゃっ!!」

半信半疑でした。でも、当人がやる気になっているのですから、試しても悪くはないでしょう。それで、かごの上の部分を外して、中にある止まり木とか食器や水入れなどをすべて取り去りました。そうして、トムトムだけのかごの中に、体重計を差し入れたんです(体重計は、キッチンスケールです)。

実は、この方法で体重を測る長老が我が家にはいます。それは、我が家の最年長の28歳ののん。手乗りではないのですが、こちらの言葉への反応が素晴らしい子で、「のんちゃん(あるいは、長老)! 体重教えて!」と頼むと、得意そうな顔をして、体重計に乗ってみせるのです。

のんが何故できるようになったのか、覚えていません。ただ、出会った時から、愛想のいい子だったし、28年我が家にいて、体重を測る手乗りたちを観て、学習したのでしょう。

ですが、トムトムはいささか事情が違います。そもそも、何故彼が急にやる気になったのかが、私にはわかりませんでした。
そうして、待つこと10分ほどでしょうか。そろそろ私があきらめかけた矢先に、ひょいと彼は、体重計に乗って見せたのです。ちゃんと、数字が見えるように乗って見せたのでした。

もう、びっくりです。本当に、測れたよ!!! 

「トムトム、すごいね!!! ありがとう。93グラムだね!」

彼を手放しでほめちぎりました。トムトムも、かなりうれしそうです。

彼の世話が終わった後、彼とかごを並べるようになった、我が家生まれのえみるの番になりました。彼は、のんの孫です。なんだか、えみるが得意そうなので、ハタと気づきました。

「えみちゃん(彼のことを、私たちはそう呼んでいます)、あんた、トムトムに、体重測るように言ってくれたの?」

そういうと、彼は「わかったの?」というようなうれしそうな顔をしました。トムトムだけが体重を測らないことを不思議に思ったようです。そうして、どういうやり方かまでは私にもわからないのですが、失明したトムトムに体重の測り方を教えたらしいのです。のんのやり方を観ているえみるですから、”ああすれば、こいつも測れるはずだ”とわかったようなのです。

失明しているので、床に降りるのが怖いトムトムは、体重計の確認に時間はかかるのですが、やる気がある時は、間違いなく体重測定ができるようになったのですね。体重を測ると褒められるので、なんだか、自信もついてきたようです。

えみるは、子どものころから、世話好きな子でした。神経質な一面もあるのですが、優しい子で、面倒見も良いのです。その彼が、何故トムトムの世話を焼く気になったのか、私にはわかりません。それでも、彼が本来の世話好きを発揮してくれたおかげで、トムトムの健康状態ははっきりしてきましたし、トムトム自身も地に足が付いた雰囲気になってきたのは事実です。

こういう時、つくづく思います。私がどんなに彼らを愛して、理解しているつもりでも、同族同士の教育力には到底かなわないなぁ、と。私の力だけでは、トムトムの体重測定は到底実現しなかったでしょう。

いろんな場面で、こうした彼らの持つ力に、私は何度も助けられてきました。そういう経験を重ねるたびに、折々耳にする”人間の英知”なんて、ちっぽけで傲慢な物言いだと痛感するのです。同じ星に暮らすものとして、謙虚でありたいと、肝に銘じる私です。

今日は日中穏やかでした。気持ちの良い日和、何時まで続くでしょうか。
寒暖差が大きい日々です、皆様、くれぐれもご自愛くださいませm(__)m💕💛

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