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待つということ(後編)ーーーインコとの生活あれこれ その11

<前編のあらすじ>

5月の5日の午後、ひょんなことから、都内のインコ専門店に行くことになった私。以前から気になっていたズアカハネナガインコがセールになっている、という情報をゲットした相方からの提案だった。彼女は、このインコがあまり好きではなかったはずなのに。ともかく出かけて、そのインコさんとご対面。けれど、彼女は人の手が怖くて、私の手に乗ってこない。けれど、こちらに関心があるようなそぶりに希望をもって、お見合いを続行中・・・・。


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周囲のお客さんのざわめきをよそに、私は、ズアカハネナガインコの彼女に時々アプローチを試みながら、そばにいる店員さんといろいろ話していました。

いろんなインコと暮らしている私たちですが、この「アフリカン」というグループは、初めてです。個人的にはヨウムと暮らしたいのですが、お店で出会っても、私にはどの子も冷たいので、すっかりあきらめていました(相方は、時々仲良くできる子に出会えるようですが、迎える気がないんですね)。それだけに”ヨウムの仲間”という響きが、私をとらえてもいたんです。

ヨウムは、大型インコで大体体重が300グラム前後だといいますから、中型インコのズアカハネナガインコと100グラムくらい違います。二回りくらい小さいんですね。ヨウムより愛らしい顔立ちで、深いグリーンの色合いが、私には好みでした。

ただ、前編でも触れたとおり、手乗りインコが過半数の我が家に来て、ずっとかごの鳥、というのは、彼女にとって不幸以外の何者でもない状況です。我が家の中型インコは、みんな人が好きで、1日に何度か外で遊ぶようになっているのです。その中で、彼女だけがかごの中で、ただ外の様子を眺めている。想像するだけで、私には耐えられませんでした。

お店でのお見合いを始めてから、1時間くらいたったでしょうか。担当でついてくれていた店員さんが、別の方のサポートで、私たちのそばを離れました。私の気持ちは、あきらめる方向で、8割がた固まっていました。

店員さんが戻ってきたら、ごめんなさいをして、帰ろう。

そう考えたとき、何故か、彼女の前にあるかごの中にいる同種のインコさんが眼に入りました。いることは知っていたのですが、彼女とのお見合いに夢中で、彼らを忘れていたのでした。それで、彼女のそばを離れて、かごの中のインコたちを観に行きました。お客さんが多いのに、自分たちに声がかからないのを悲しんでいるのか、すねているのか、私への態度も極めて冷淡でした。

「この種族とは、縁がないのかなぁ、やっぱり。”アフリカン”とは、相性悪いんだなぁ、私は・・・・・」

そう落胆のため息をついたとき、視線を感じて振り返ると、止まり木にいる彼女が、じっとこっちを観ていました。彼女が、”アタシじゃ、やっぱりダメですか?”と、問いかけてきている気がしたんです。

その瞬間、私の頭の中に、出会った時は手に乗ることもできなかったのに、いまやすっかり甘えん坊になっている子たちとの思い出がよみがえってきました。

目の前にいるこのインコさんは、そういう子たちよりも若くて、小さい。直前まであきらめようとしていた私の気持ちが、突然変わりました。

「少し時間がかかってもいい。この子なら、きっと、我が家のいい家族になってくれる!」

もう、理屈ではないので、説明のしようがないのですが、直観でそう確信したのですね。しかも、そう思って、彼女の前に腕をそっと出すと、必死で乗ろうとしてくれました。結局できなかったけれど、その1時間余りで、初めて彼女が近寄ろうとしてきた瞬間でした。そのしぐさを観て、「あ、これなら大丈夫♪」と、さらに確信しました。ちょうど、離れていた店員さんが、戻ってこられたので、お迎えすることを伝えて、商談が成立したのでした。

この子が、何故ここまで神経質なのか、店員さんに聴いてみました。彼女が言うには、お店に来たのは1年前。もちろん、赤ちゃんだったので、その時は、人懐っこい子だった。けれど、コロナ騒動のせいで、お店の休業もあり、人と接触する時間が予定より少なくなってしまった。もともと少し怖がりさんなのだろうけれど、そういう状況がそれを助長してしまったようだ、とのこと。

我が家には、お客さんはまず来ませんし(これは、コロナ騒動の前からそうです。インコたちの世話のこともあり、人と会う時は、外で会うようにしています)、人よりインコの数が多い。それに、お店での生活が苦痛な子、というのは、世話をする人がころころ変わったり、知らない人が突然やって来るのが怖くて、嫌なようです。その点、我が家は、私か相方しか世話をしませんから、彼女のストレスも、かなり軽くなるかもしれません。まぁ、ピポナをはじめとして、甘えん坊で個性豊かなのがいますから、大変かもしれませんけれどね。

というわけで、この子、ハナと名付けたこのインコさんは、我が家の一員になりました。お迎えを決めた日に、連れて帰れなかったので(彼女が我が家に来ることを承知するかどうかわからなかったので、用意ができてなかったのです)、一週間後に、相方に迎えに行ってもらいました。今度は、仕事帰りというついでがある彼女のほうが、都合がよかったからです。

彼女には、お見合い当日の様子を伝えてありましたし、共同で世話をしているのですから、いろんな子を知っています。ですので、どれほどの”じゃじゃ馬”が我が家の子になるのか、内心ワクワクもしていたようです。手のかかる子が、好きなところがあるんですよね。

ところが・・・。いざ、我が家にやってきて、用意の”新居”に入ってもらったら・・・。二人とも拍子抜けしてしまいました。新しい環境にオドオドしている様子はあるものの、「ぽきょっ! ぽきょっ?!」というかわいい声で鳴いて、甘えてくるのですね。暴れることもなく、前からこの家にいるかのような顔をして、ご飯を食べてみたりしています。

「ハナちゃん、あんた、本当に、ハナちゃんなの?」

彼女のお店での暴れようを観ていた私には、同じ子には到底思えませんでした。何しろ、お見合いの時、お迎えを決めた後、かごに店員さんが戻そうとして、やはり悪戦苦闘していたのですから。

「なんか事故があって、別の子よこしたんじゃないの?」

相方がそういうくらい、ハナは、我が家を一目で気にいって、くつろいでいます。

ただ、この子があの時の子だった証拠があります。手には乗れないし、かごから出られないことです。手に乗れなくても、外に出て遊んでくれてかまわないのですが、今度かごに戻る時、手に乗れないのは彼女にとって大騒ぎになるでしょう。また、地震が起こってパニックになった時、手が怖い彼女には、保護しようとする人の手が恐怖の対象になりかねません。

なので、少しずつ、トレーニング中なのです。「なでてぇ~! かまって~!!」という態度はどんどん見せるようになったので、あと半月もすれば、ひょいと手に乗って、甘えてくるようになるでしょう。

実は昨日、相方が休みでハナの世話をしているときに、ピポナが大きな声で、ハナを叱りつけました。そうしたら、どん! と、かごから相方の膝の上に飛び出して、そのままなでてもらって、嬉しそうにしていた、ということがありました。どうやら、お姉さんのピポナさん、うじうじしている後輩にハッパをかけた模様です。

そのあと、ピポナの大声がなくても、ハナは相方の膝の上に飛び出したので、もうしばらくすれば、相方のいるときには、外に出られるようになるのでしょう。我が家に来て、10日ほどですが、先輩たちのように、外に出て遊びたくなっているらしいです。ただ、私の手は、どうも怖いらしいのですねぇ。う~ん、何故かなぁ???

そういうわけで、我が家では、ハナが、手に乗って、外で遊べるようになるのを楽しみに待っているというわけです。今回は、それほど待つ必要もなさそうですが、でも、私は、う~ん、やっぱりそれなりに待つことになるかもしれませんね。まぁ、彼女に嫌われているわけではなさそうですから、気長にその日を待つことにいたしましょう♬

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