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『レオナルド・ダ・ヴィンチの師匠』ネーム版公開に寄せて

私がレオナルド・ダ・ヴィンチ作品で最も好きな絵は『聖ヒエロニムス』だ。

痩せ細った老人が荒野で片膝をつき何かを請うような仕草をしている未完の作品である。

濃淡で陰影をつけられた部分もあれば、正確な形だけをとって詳細な描き込みはなされていない部分もあるという、全くの作りかけの絵だ。

しかし、この形で遺されているからこそ彼が制作過程で何を大事に描いていたのかが伝わってくる。

未完成であるがゆえに、彼の思考に入り込むことができ、見る者の頭の中で制作を引継ぎ、完成に至らしめることができる。

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漫画を描くという行為は楽しい。

概念として脳内だけで存在していたものが、絵に描き起こすことで形になり伝わる。

その過程は快感ですらある。

しかし、出来上がったものが、概念を一番いい形で絵に起こせたものかと言われると、正直分からない。

もちろん自分にできるベストは尽くしているのだけれども、世界最高峰の画家にまつわる物語として相応しいかどうか。
であるならば、制作途中の状態を共有して、見ている方の頭の中で想像してもらえたら、それが一番素晴らしいのではないか。

そう考えて、第1話のネーム版を公開することにした。

完成版は完成版で別途公開しており、そちらももちろん楽しんでいただきたいのだが、途中の状態から想像力を働かせて完成させる楽しさとは比べようもない。

その楽しさを本ネームで少しでも味わっていただければ本望である。

一説には、『モナリザ』も未完成作品だという。レオナルド・ダ・ヴィンチが最晩年まで筆を入れ続けたそうだ。

完璧と思われる絵でも徐々に姿を変えた。拙作『レオナルド・ダ・ヴィンチの師匠』も、今後描き続けるうちにどんどん画面が変化していくだろう。

その時までお付き合いいただければ、嬉しく思う。

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