見出し画像

「FUNDINNO MARKETをなぜ作ったのか?」未上場株を”買う”、”売る”を実現させたかった僕の物語〈日本クラウドキャピタル・柴原祐喜〉


個人投資家間で未上場株をネットで売買できるオンラインプラットフォーム「FUNDINNO MARKET(以下、ファンディーノマーケット)」が2021年12月8日より開始されました。

これまで投資家は未上場株をネットで購入し、保有することはできても、売ることはできませんでしたが、ファンディーノマーケットによって売買の両方が可能となります。

なぜファンディーノマーケットは誕生したのでしょうか。

株式会社日本クラウドキャピタル代表取締役CEOの柴原祐喜にサービス誕生までの経緯、ファンディーノマーケットの設立によって我が国の株式市場に訪れる大きな変化についてのインタビュー内容をご紹介します。

◆「ユニコーン企業がなぜ生まれないか?」への答え

「ファンディーノマーケットの構想は日本クラウドキャピタルの設立当初からありました」

日本クラウドキャピタル(以下、JCC)の設立は2015年。

カリフォルニア大学卒業後、明治大学大学院グローバルビジネス研究科で共同創業者の大浦学氏と出会った柴原氏はWEB制作会社を起業。

その後、JCCを設立するにあたって、当時から柴原氏は現在のサービスの立ち上げを構想していたと話します。

その背景には日本よりも株式投資型クラウドファンディングが定着していたアメリカの存在があったといいます。

「アメリカではオバマ政権時代の2012年に株式投資型クラウドファンディングに関する法整備が進み、資金調達の手法が多様化されていました。その結果、アメリカではおよそ10兆円もの資金がベンチャー企業に集まっています。一方、日本はまだおよそ0.4兆円ほどしかありません。この調達額の違いが、そのままユニコーン企業を生み出すポテンシャルの差につながっているのです」

日本は未上場株の売却だけでなく、株式投資型クラウドファンディング全般においてアメリカやイギリスに遅れを取っているといいます。

日本で株式投資型クラウドファンディングの法整備がされ、取引が可能となったのはアメリカよりも3年遅い2015年。

つまり、それ以前は未上場の株式を取引するプラットフォーム自体を提供することも日本ではできませんでした。

この日本の法整備の遅れは柴原さん自身の選択にも影響を与えることになりました。

「アメリカのようなサービスを日本でも作りたいと思いましたが、事業化を検討し始めた2013年ころは法律的に不可能な状態でした。そのため日本での展開を諦め、アメリカで起業の準備を進めていたんです」

そんな矢先ーー。

金商法を改正となり、日本でも株式投資型クラウドファンディング取引が可能になるという話が入ったのです。

「もともと株式投資型クラウドファンディングを準備をしていた我々が国内一番手で参入できるのはないかと、これはチャンスではないかと考えました」

しかし、一番手で参入できる可能性があるとは言え、方針展開にはリスクもあり、さまざまなコストも発生します。

この時、柴原さんが日本での展開を決意したのはもう一点の理由がありました。

「日本から世界規模で活躍するニコーン企業を生み出したいという思いをずっと持っていました。これは大学院時代に遡ります。当時の研究テーマは未上場企業の価値算出。日本とアメリカとではベンチャー企業への出資額に大きな差があることは痛感していました。この現状に対し、株式投資型クラウドファンディングがひとつの回答となり得るのではないかと思ったのです」

JCCの現在の理念は「フェアに挑戦できる未来を創る」。

まさにこの言葉を体現すべく、柴原氏と大浦氏はJCCを設立したのです。

◆未上場株を「売れる」ことで何が起きるのか

では、未上場株の売買を可能とするファンディーノマーケットは今後のベンチャー市場にどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。

「これまでは購入した未上場企業の株式は保有以外に選択肢はなく循環がありませんでした。いわば、バイアウトかIPOというイクジットがなければ”持っているだけ”。これに対し、未上場株を売れるようになることで循環が生まれます」

言うまでもなく、ファンディーノマーケットの誕生による投資家側のメリットは、保有していた未上場株に収益が生まれる可能性があることです。

さらに、発行者側(企業側)にとっては、より純度の高い”ファン投資家”とのつながりが生まれるのではないかと柴原氏は予測します。

「2017年5月にFUNDINNOをローンチして約4年半でわかったことがあります。FUNDINNOの投資家さまは、イクジットそのものが目的ではなく、その企業を応援したいというファン目線で投資していただくケースが少なくなかったのです。これは、未上場株を売ることができるようになっても変わらないでしょう。つまり、売買によってより純度の高い、その企業のピュアなファンの投資家が増えるのです。投資家さまがクライアントや協業先を紹介するケースが珍しくありません。これは企業の協力者が増えるという意味で大きなメリットだと思います」

◆アイドルの「ファンクラブ」のような投資家コミュニティが生まれる

また、ピュアなファンとつながること以外にも発行者側にはメリットがあるといいます。

「例えば、スポーツチームやアイドルグループはファンクラブ制度を用いて、年会費を払ったファンにチケット割引などの優待をしています。こういったサービスをファンクラブではなく、ファン株主に対して展開できるようになり、ファン株主がいることで、企業は安定した事業展開が可能となります」

では、ファンクラブよりもファン株主の方が優れている点はどういった点なのでしょうか。

「ファンクラブの場合は退会によってファンの人数(=収益)が減ります。しかし、ファン株主の場合は株を別の人に売却するため、人数が減らないということがあるでしょう。たとえば、地域の鉄道会社や飲食関連など、ファンのつきやすい事業はすべてファンディーノマーケットと相性がよいと考えています」

現状では上場株でしか得られないことの多い株主優待が、ファンディーノマーケットによって地域ビジネスを手掛ける中小の未上場企業でも可能となるのです。

むろん、未上場株の売却が可能となり、新たな可能性が生まれることによって市場自体の拡大の期待も高まります。

日本証券協会によると、2019年の非上場株式の達成額は日本の1兆2684億円に対し、アメリカは96兆3900億円。アメリカは日本の約76倍となっています。

アメリカの市場の大きさは未上場株式の発行・流通の両輪によるというのが日本証券協会の分析。

これまで、日本では未上場株の売却はできないため片輪の状態でしたが、ファンディーノマーケットの誕生で「買う」と「売る」の両輪がそろった形となります。

投資に興味を持ち、投資する人の数が増えることによって未上場株の取引がより活発になっていくことが期待されることは間違いありません。

◆では、なぜなかった?未上場株のネット売買

ここまでの説明を聞くと、客観的にはメリットを感じるケースも少なくない未上場株の取引ですが、ではなぜ今まで日本ではこういったサービスはなかったのでしょうか。

この件についても柴原氏は見解を示します。

「かつて日本にもグリーンシートという制度があり、未上場株を売買できる場がありました。そのため、日本には未上場株取引の場が『なかった』ということではなく、『なくなってしまった』という捉え方が適切かと思います」

グリーンシートは日本証券業協会が1997年にスタートしたものの、2004年以降は銘柄の減少が続き、2018年に廃止された制度です。

廃止されたグリーンシート、これからスタートするファンディーノマーケット、このふたつの違いを柴原さんはこのように考えています。

「グリーンシートの時代はまだIT分野は今ほど完成されていませんでした。売買のシステムをオンラインで整備することが困難で、また運営者・投資家ともに参入するための敷居が非常に高かったのではないかと思います。今後、未上場株取引はITの活用という点において、グリーンシート時代よりも普及することが期待されます」

◆課題は「情報公開」

ITインフラによって、かつての障壁を乗り越えられる期待を示しつつ、柴原氏は現状における課題についても指摘します。

「未上場株は上場株と違い、情報があまり公開されていないことが多いのが現状の課題です。情報が少ない中で投資家は株を売買の判断をしなければなりません。将来的には信頼に足る情報を提供する体制をつくりたいと考えています」

柴原氏によると、事業計画書の公開などによって過去に立てた計画と実際の経営状態の相違を売買の際、投資家が参考にできる場を現在準備しているとのこと。

「こうした非上場企業の情報にアクセスできるシステムは2、3年以内には完成させたいと思っています。非上場株の売買が浸透すれば、ビジネスの形も変わってきます。今後の展開にぜひ期待してください」

日本から、もっとユニコーン企業を生み出したい。

かつて、アメリカ西海岸で文字通り”ケタ違い”のスタートアップの資金調達額の違いを学んだ青年は、ファンディーノマーケットの誕生によってその”ケタ”の違いを埋めるべく奔走しています。

日本で世界規模で活躍するベンチャー企業がより多く誕生する未来は、そう遠くないのかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?