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もうひとつの資金調達手段「グリーンシート」とは何だったのか?

多くの未上場企業が資金調達手段として株式投資型クラウドファンディングを活用する昨今。

この令和時代より前に、もうひとつ未上場企業の資金調達手段があったことをご存知でしょうか。
それが「グリーンシート」です。

グリーンシートは日本証券業協会が1997年に設けた制度で、2018年に廃止されるまでに200を超える企業がこの制度を活用して資金調達を実施していました。
まさに、株式投資型クラウドファンディング以前に存在した”平成の未上場企業の資金調達手段”と言ってもよい存在です。
このグリーンシート、すでにその制度が終了したこともあり、現在出回っている情報は多くありません。
中には、この制度が終了したことを持って”黒歴史”と評する声もあるほどです。

しかし、その評価は本当に正しいのでしょうか。
いったい、グリーンシートとは何だったのでしょうか?
そして、未上場企業の資金調達の課題を、株式投資型クラウドファンディングは克服しているのでしょうかーー。
今回、その謎を解き明かすべく、我々は貴重な証言を得ることに成功しました。

グリーンシートを活用して東京証券取引所市場第一部に上場を達成した企業があります。
それが鹿児島県出水市に本社を置く株式会社マルマエ(以下同社)です。

半導体製造装置部品・FPD製造装置の真空パーツメーカーとして1965年に創業された同社。2006年に上場を果たしました。
今回話を聞いたのは、同社代表取締役社長の前田俊一氏。

グリーンシートを使った資金調達の経緯、そして株式投資型クラウドファンディングに対する所感について話を伺いました。

〈株式会社マルマエ前田俊一社長インタビュー〉

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◆「危険な成長になってしまっている」

ーーマルマエ様がグリーンシートで資金調達をすることになった経緯を教えてください。

前田様:創業して数年間は毎年業績が倍に成長することが続いていました。私どもは製造業ですので、拡大した需要に応えるために、その分だけ人を雇用して設備も充実させる必要があります。この時に「危険な成長になってしまっている」と思ったことがそもそものきっかけです。

ーー「危険な成長」とは?

前田様:設備投資や人材の確保のために借入に頼る形になっていたのです。利益は積み上げているものの、それだけでは成長のスピードに間に合わない。企業としては非常に足元が弱い状態でしたね。

ーーその状態から脱却するためにグリーンシートの活用を決めたということですね。

前田様:はい。グリーンシートに登録をしたのが2004年です。当時はイラク戦争やITバブルの崩壊もあり、それまでは順調だった業績がはじめて横ばいになりました。厳しい時期を経験したことも決定打になりました。

ーーなるほど。時代背景も大きかった訳ですね。

前田様:はい。時は小泉政権です。資本力を高めるために何か良い手がないかと考えていたときに見つけたのがグリーンシートでした。

ーーグリーンシートの存在を知って、活用することに決めた理由は?

前田様:当時の事業規模として身の丈に合っていたということがあります。グリーンシートに登録する直前期の売り上げが4億3000万円、営業利益が8000万円、従業員数は20人から30人くらいでした。上場をする規模にはまだいかないものの資金を調達したい、そういった需要にマッチしていました。

ーー具体的にいくらを?

前田様:約1億円です。他の企業を見ても一部の例外を除くとグリーンシートは1億円前後の資金調達が主でした。

ーー株式投資型クラウドファンディングよりも大きい額ですね。

前田様:結果、私たちが公開した時の株価が11万4000円で、2年後の2006年、マザーズに上場を発表する直前には株価が45.6万円と約4倍に上昇しました。つまり、グリーンシートでの資金調達で上場までの道筋を作ることができました。

◆グリーンシートと株式投資型クラウドファンディング。最大の違いは?

ーー上場に大きく貢献したグリーンシートですが、現在は廃止されています。制度として定着しなかった理由はなぜだと思いますか?

前田様:結果的にグリーンシートを活用して成長した企業が少なかったということはあるのではないかと思います。

ーー少なかった?

前田様:はい。これはグリーンシート銘柄のそれぞれの業種の市場規模、また会社自体のリソース不足などさまざまな要因があります。成功事例が少ないと投資家も集まりにくい。その結果として企業と投資家の双方でこの制度が先細りになっていったと思います。

ーー株式投資型クラウドファンディングも、イグジットした企業が生まれるとニュースで取り上げられるという意味では似ているかもしれません。

前田様:そうかもしれません。

ーー株式投資型クラウドファンディングは、将来的な成長が期待されるベンチャー企業が投資を募るというケースが多いです。グリーンシートを活用する企業にはどういった傾向がありましたか?

前田様:その点は異なるかもしれません。グリーンシートではいわゆるベンチャー企業は少なかったですね。既に事業がある程度軌道に乗っている中小企業がメインでした。

ーーベンチャー企業の定義の一つとして、「革新的な商品を提供し、非連続的な成長を生む企業」というものがあります。その意味で、確かに異なりますね。

前田様:そうですね。

◆上場前に得られたメリット

ーーまた、株式投資型クラウドファンディングの場合、企業のビジョンや社長の人柄に魅力を見出した「応援」の観点も強いです。グリーンシートの場合は異なりますか?

前田様:違うのかもしれません。グリーンシートは投資をする年代として、60代、70代の引退をした人が多かったという印象です。こういった方の投資目的は、もちろん全てではないでしょうが応援よりも資産運用の側面が強かったのではないでしょうか。

ーー企業・投資家共にクラウドファンディングとは若干異なっていたということですね。

前田様:そうですね。

ーーその上で上場をしなくても投資によって資金を調達できる点は共通しています。この点で得られたメリットはありましたか。

前田様:投資家視点の考えを学べたことです。投資家の視点は経営者の視点とは違うこともあります。もちろん投資家視点には経営者視点にはないプラスのものがあり、それを早めに学べたことが大きいですね。

ーー企業の成長の早めの段階で投資家とつながることで、上場後の経営のノウハウを学べたということですね。

前田様:そうですね。どういった説明をすれば株主さんに納得してもらえるのかということは実際に投資をしてくれる人がいないと経験ができません。上場前にまだ数として多くない株主さんに対して経験を積めたことは上場後にも非常に役立ちました。

◆上場するために必要な社長の資質とは

ーー株式投資型クラウドファンディングで資金を調達する企業の中には「いずれは上場」という目標を持っている企業もあります。前田様が上場するまでに特に重要だと思う点はありますか。

前田様:一番は覚悟です。あとは一通りの道筋がわかっているCFOさえいれば手続きレベルではどうにかできるのではないかと思います。

ーー「覚悟」とは具体的に言うとどういったことになるでしょうか。

前田様:資本政策が進むと後には戻ることができません。投資家や第三者からの視線が集中してそれがずっと続くことになるので、その心構えをトップは持たなければいけませんね。

ーー前田様が覚悟を決めたきっかけは何かあったのでしょうか。

前田様:私の場合は、創業時は一人で仕事をしていました。当初から苦労をしないで生活ができるくらいの収入はあったのですが、人を雇用して規模を大きくする方向に舵を切ることにしました。覚悟を決めたのがいつかと言えば、一部上場した時でも、グリーンシートを活用した時でもなく、一人だけの事業ではなくなった時でしょうか。

ーー前田様のお話はグリーンシートという点はもちろん、社長が持つべきビジョン、会社を大きくするために必要なことについても非常に学ぶべき点が多いです。

前田様:ありがとうございます。今回のお話を頂いて株式投資型クラウドファンディングをとても魅力的な仕組みだと思いました。私もおもしろそうな企業があれば投資をしてみたいと思います。

ーーグリーンシートで資金調達した経験を踏まえて、株式投資型クラウドファンディングに今後どういった点が期待できるでしょうか。

前田様:現状においても、スタートアップ企業の資本を拡充できる点、個人投資家の方に魅力的な投資機会を提供できる点はとても素晴らしいと思います。今後はスタートアップの企業だけでなく、グリーンシートを活用した時の私たちのような企業、スタートアップ以外の企業にも範囲を拡大していければもっと役立つサービスになるのではないかと思います。

企業・投資家双方にとってより魅力的なサービスを提供できるようになることを期待しています。

会社名:株式会社マルマエ
設 立:昭和63年10月
資本金:12億4115万円
代表取締役社長:前田 俊一
事業内容:
精密機械・精密機器の設計・製造・加工
精密機械部品の設計および製作
産業及び医療機械器具の設計、製造、販売
ソフトウエアの開発、販売
製缶工事、配管工事、運送業務、不動産の賃貸
URL:https://www.marumae.com/

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