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FUNDINNOの投資家のリターン アナリストレポート 馬渕 磨理子

2015年に安倍政権のもと産声をあげた、株式投資型クラウドファンディングは制度構築6年目になります。政府の狙いは非上場市場にリスクマネーを供給することで、海外に負けない、ベンチャー・スタートアップを育てることです。

制度構築当初から課題の1つとして、「市場の流動」が挙げられています。つまり、エンジェル投資家に「どれくらいの期間で」「どれくらいのリターン」をもたらすことができるかが、新しい制度が故に定かではなかった点です。当然、ベンチャー企業がアーリー・シード期にエンジェル投資家から資金調達してから新規上場(IPO)までに至るまでの期間は、普通であれば8年・10年といった時間がかかることは想像に難しくないでしょう。

では、その期間に「リスクマネー」と言われるエンジェル投資家の資金は果たして無事なのか。本レポートでは、日本で初めて株式投資型クラウドファンディングからIPO企業が誕生した金融史に残る偉業の具体的な事例と、倒産した企業の事例とその確率についても詳らかにすることが目的です。株式投資型クラウドファンディングという制度とマーケットが一層より良いものに成長していくために、成功事例と失敗事例を記す責任があると考えているからです。

◆存続企業、イグジット、解散・倒産の割合

まずは、FUNDINNOで資金調達した企業のイグジットおよび解散・倒産確率を見ていきましょう。21年6月10日時点で、累計成約件数は172件のうち、存続企業139件(80.8%)、イグジット5件(2.9%)、解散・倒産4件(2.3%)です。

note馬淵さん

(グラフは2021年5月末時点)

年度別では、2017年は累計成約件数が15件のうち、存続企業12件(80%)、イグジット1件(6.7%)、解散・倒産1件(6.7%)です。2018年は累計成約件数が30件のうち、存続企業25件(83.3%)、イグジット2件(6.7%)、解散・倒産1件(3.3%)です。2019年は累計成約件数が27件のうち、存続企業23件(85.0%)、イグジット2件(7.4%)、解散・倒産2件(7.4%)です。2020年は累計成約件数が40件のうち、存続企業40件(100%)、イグジット0件(0%)、解散・倒産0件(0%)です。

【2017年→2018年→2019年→2020】
・存続企業:(80%)→(83.3%)→(85.0%)→(100%)
・イグジット:(6.7%)→(6.7%)→(7.4%)→(0%)
・解散・倒産:(6.7%)→(3.3%)→(7.4%)→(0%)

◆株式投資型クラウドファンディングで資金調達を行った企業から初めてのIPO事例

株式投資型クラウドファンディングで資金調達した企業の中から、初めて上場企業が誕生しました。琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社です。2021年3月に「TOKYO PRO Market」へ上場が承認され、これによって、エンジェル投資家の保有する1株500円の株式が、1.4倍の700円の評価額をつけました。これによって、「株式投資型クラウドファンディングからIPOはできない」は「ウソ」であることが証明されたと言えるでしょう。

◆21年5月末時点で、イグジットは5件

1.株式会社漢方生薬研究所(現:株式会社ハーバルアイ) 1.5倍
FUNDINNO初のEXIT事例としては、1年5カ月で募集株価の1.5倍となり、結果としてFUNDINNOの投資家様に還元されることになりました。 背景として、株式会社漢方生薬研究所と買い手との間に事業シナジーの可能性があったこと、この買い付けをお引き受けすることにより、FUNDINNOを通して株主になっていただいた投資家様にメリットがあったことが挙げられます。 2019年7月にエンジェル投資家の保有する1株500円の株式は、1.5倍の750円で買い付けが行われました。


2.株式会社nommoc 1.5倍
FUNDINNOでは2例目のEXIT事例が発生しており、1年9カ月で募集株価の1.5倍となり、結果としてFUNDINNOの投資家様に還元されることになりました。 背景として、株式会社nommocと買い手との間に事業シナジーの可能性があったこと、この買い付けをお引き受けすることにより、FUNDINNOを通して株主になっていただいた投資家様にメリットがあったことが挙げられます。 2020年4月にエンジェル投資家の保有する1株50円の株式は、1.5倍の75円で買い付けが行われました。

3.O社 1.2倍
FUNDINNOでは3例目のEXIT事例が発生しており、1年3カ月で募集株価の1.2倍となり、結果としてFUNDINNOの投資家様に還元されることになりました。 2020年12月にエンジェル投資家の保有する1株150,000円の株式は、1.2倍の180,000円で買い付けが行われました。

4.F社 1.3倍
FUNDINNOでは4例目のEXIT事例が発生しており、2年11カ月で募集株価の1.3倍となり、結果としてFUNDINNOの投資家様に還元されることになりました。 2020年12月にエンジェル投資家の保有する1株500円の株式は、1.3倍の650円で買い付けが行われました。

5.琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 1.4倍
2021年3月には、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社が株式会社東京証券取引所「TOKYO PRO Market」へ上場が承認されました。株式投資型クラウドファンディングで資金調達を行った企業で初めての新規株式公開事例となりました。2021年3月にエンジェル投資家の保有する1株500円の株式は、1.4倍の700円の評価額をつけました。但し投資家の皆様は、ロックアップ期間があるため、2021年5月末時点では投資回収に至っておりません。


◆21年5月末時点で、倒産・解散は4件

1.ブレスサービス
東京地方裁判所への自己破産申し立て(2019年1月22日)
FUNDINNOにおける第11号案件として2017年11月30日に、資金調達額3,525万円で成約した株式会社ブレスサービスが、2019年1月22日に東京地方裁判所への自己破産申し立てを行いました。2018年8月にFUNDINNOにおける第47号案件としての2回目の募集をはじめ、他の資金調達も試みましたが、いずれも実現にいたらず、計画していた売上高を達成することが困難となり、資金が枯渇するに至りました。2019年4月26日の債権者集会において、破産手続きは異時廃止(債権者への配当ができないため破産手続きを終了させるというもの)となり、株式会社ブレスサービスは消滅することとなりました。

2.ユニボット株式会社
FUNDINNOにおける第42号案件として2018年9月19日に6,552万円資金調達を実施したユニボット株式会社が、2020年2月21日に東京地方裁判所に破産手続き開始の申立てを行いました。FUNDINNOでの資金調達完了後に、2018年11月に日本政策金融公庫から4000万円の融資を受け、2019年6月から8月の間に個人及び企業から約7600万円の出資を受けましたが、その後の資金調達がうまくいかずに資金が枯渇するに至りました。

3.株式会社MU
FUNDINNOにおける第92号案件として2019年11月1日に2,240万円資金調達を実施した株式会社MUが、2020年10月9日に株主総会を開催し、会社解散及び清算人の選任決議が可決承認されました。新型コロナウィルスの影響を受け国内外の受注がほとんどキャンセルとなり、資金が枯渇し事業継続を断念したとのことです。なお、会社が解散した場合、残余財産がほぼ残らない可能性が高いという事で、解散決議を行うまえに、代表取締役が自己資金で400万円を用意し、FUNDINNO調達時点の約6分の1の株価で株式の譲渡を希望する株主に対して株式の買取を実施されました。

4.株式会社SameSky
FUNDINNOにおける第63号案件として2019年3月23日に1,630万円資金調達を実施した株式会社SameSkyが、2021年3月2日に事業撤退を表明、2021年5月12日法人破産の申し立てを、弁護士を通じて行いました。カフェのコーヒーなどが月額定額制で楽しめるサブスクリプション型のサービス『CAFEPASS(カフェパス)』を提供していたが、コロナの影響により利用者が伸びず、また、キャッシュレス決済業者の台頭により加盟店も増やすことができない状況となりました。その為、事業転換とM&Aの交渉を続けていましたが、交渉がまとまらず法人破産を選択するに至りました。

◆途中経過の案件

1.株式会社建設テックラボ
FUNDINNOにおける第53号案件として2018年11月27日に2,670万円資金調達を実施した株式会社建設テックラボは、2019年3月に建設PADのβ版を無料リリース。2019年6月頃より、追加資金調達に動き始めておりましたが、資金調達がうまくいかずに資金が枯渇するに至りました。2020年に株主総会を開催し、事業譲渡及び清算人の選任決議が可決承認され、2021年4月時点において、清算結了の準備を進めています。

◆まとめ

英国は株式投資型クラウドファンディングの市場が先行しています。英国でシェア1位のCrowdcubeにおいて、2011~2019年の存続企業(80%)、イグジット(6%)、解散・倒産(14%)と報告しています。リスクマネーである以上、ある程度の解散・倒産確率が確認できます。一方で、IPOを果たした企業に投資していたエンジェル投資家は500%の投資収益率を実現する事例も出てきています。日本における株式投資型クラウドファンディングも市場が拡大する中で、ある程度の割合でイグジット、解散・倒産割合が出現すると見られます。FUNDINNOでは引き続き、「案件の厳正な審査」と「資金調達後の企業の成長のサポート」を行っていきます。イグジット、倒産・解散の事例につきましては適宜情報公開を行っていきます。


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