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355.140字掌編小説 その4
手を取る
会う人会う人右利きなので、左利きの僕はすんなり握手ができない。僕と相手が向かい合い、僕が左手を、相手が右手を出す。手の甲も掌も同じ向きになってしまい、上手く握れなくて、気まずい。
それが嫌だと話したら、君は「向かい合うからいけないんだよ」と言う。僕の隣に並ぶ。右手で、僕の左手を握る。
冬の報告
お父さんが冬眠から目覚めたら、話したいことがたくさんある。お母さん直伝のビーフシチューの味を完全に再現できたこと、インフルエンザにかかって辛かったこと、今年は東京にも雪が降ったこと。
お父さんはビーフシチューを食べたことがないし、インフルエンザのこともよく知らないし、雪なんて見たことないと思うけど、それでも。
沖を歩く
「海って沖に行けば行くほど深くなるものだけど、もしかしたら、たまたま沖までずっと浅いままのところがあって、歩いて渡ることができて、ぐんぐん僕たちは歩いて、カモメとっすれ違ったりしながら、そのまま、向こうの国まで辿り着けるかもしれないよね」
「そうだね、もしも僕らが人間ならね」
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