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【ネタバレあり】アニメ映画「同級生」絶賛感想文(BLよくわかってない&普段あんまりアニメ見ない男子目線)

 最近「俺たちのBL論」って本を読んで「へー、なるほどなぁ」と感心したり、「それマジ!?」と疑問に思ったりして、身近な人に実際のところを聞いてみようと、BL愛好歴10年越えの知人に声をかけたところ「ちょうどBL入門的な作品がアニメ映画になっているからそれを見よう」という話になった。
 『同級生』というタイトルのBLアニメ映画がある、ということは知っていたのだが、ストーリーなど前情報は無しに鑑賞に挑む。
 見終わってからの僕の感想ツイートがこれだ。

同級生』超良かったですわ。ちょっと泣きましたわ。
同級生』見てる間ずっと口元で手を組んで「はわわ……」みたいな感じになってた
行っておきますが『同級生』は、個人的に今年公開映画ベスト10とかに入れて全然おかしくないぐらいよかったです。

 よかったんですよ、これが。60分くらいの作品なのに大満足。かなり感動したのだ。
 ただ、だからと言って「BLに目覚めた!」的な話ではなくって、物語が良くできていて、演出も巧くて、しかもBLの要素がないと成立しない青春映画として僕は感動したのだなぁと考えている。
 たぶんこの作品の感想を書く人の多くがBLというジャンルが好きな人だと思うので、BLよくわかんない男が見て特にここがスゴい!と思った部分をいくつか書いてみようと思う。

鞄のヒモと噴水

 最初に細かい描写のことについてサクッと書いておく。この映画を見始めて最初に「おおっ」と思ったのは鞄のヒモの描写。
 この映画では通学鞄のヒモが肩からずり落ちるという描写が何度も出てくるんだけど、この鞄のヒモのずり落ちによって、登場人物の心の動きがバチッと表現されているところにいちいち「巧いっ!」と心が反応してしまったわけだ。特に冒頭、一人で合唱の練習をしている佐条を草壁が見つけるシーンの、あのヒモのずれ具合には「あ、これは心動いたな……」と一瞬でわからせてしまうものすごい説得力がありました。
 それから、水を使った描写も繰り返し登場するわけだけど、あれも感情を表現する描写としてしっかりやっているなぁという感じ。雨=涙→悲しみのような描写もあるし、性的なニュアンスでの(感情的に)「濡れる」という表現として使われてる場面もあるし。原作をちょろっと見せてもらってわかったんだけど、決定的な出来事が2度も起こる場所に原作には無かった噴水が設置されてることからも、こういう描写に意識的なんだなというのがよくわかる。
 こういう描写に隅々まで気を配り、考え抜かれてるなぁと感じる作品は見ていて気持ちがいい。

女性の登場人物について

 男子校が舞台の物語だからこそ、僕が注目していたのは「女性の登場人物がどういう風に登場するか」という点だ。明確に台詞がある女性キャラは、佐条の塾の先生、ライブハウスの受付、草壁のバンドのファン、そして佐条の母親だ。
 これらの女性キャラに共通するのは、皆、佐条を追い詰める、あるいは「この高校生活の外にも世界があるし、いつかこの時期は終わる」ということを佐条に突きつける人物だということだ。塾の講師は進路の話をし、母親は模試へと佐条を送り出す。
 ライブハウスの女性たちは佐条が今まで生きてきた世界の外にいる人物だ。そして彼女らとフラットに話すことができる草壁もまた、外の世界の人物かのように描写される。
 ここで佐条と草壁の人物像の違いがはっきりと分かれていく。

外の世界に出ること

 どうやら校外に友人もいないらしい佐条にとっての世界は、学校と塾という限られた場所だけだ。しかも電車に乗れず受験に失敗した過去の経験から、自分の力で外に出る経験をしたことがないまま高校生になってしまった佐条にとって、今いる世界を出ようとすること自体が大きなトラウマになっている。しかし、塾や学校という場所はもちろん、いつか卒業して出ていかなければならない場所だ。結果、佐条は外の世界に出ることへの怯えを抱えながら、しかし常に外に出なければいけないことを突きつけられてしまう。
 一方、草壁は校外に友人もいれば、バンド活動もしており、すでに自力で外に出てしまっている人物だ。だから改めてこれから外に出ること=進路のことを深刻に考えるわけもなく、外の世界を見た上でも一番大好きな佐条へのみ思いを向けることができる。
 この外の世界に出ることについての経験や考え方の違いが、後にあわや破局かという展開を導くことになっていると思う。
 ちなみに草壁は物語を通して何度も佐条を外の世界に連れ出す役割を担っていることも注目すべきだなぁ。しかも、連れ出す距離が段々と長くなっている……。

外の世界でもこの恋愛は成り立つのか

 佐条の「外の世界に出ること」への不安をさらに掻き立てるのが、草壁との恋愛関係だ。
 男子校という限られた空間で成立した同性同士の恋愛は、果たして異性もいる外の世界に出てもちゃんと耐久しうるのか。この不安が、外の世界に出ることのトラウマと直結し、より大きな壁となって佐条の前に立ちはだかる。
 このストーリーテリングは、男子校でのボーイズラブだからこそ成り立つものだと思う。異性カップルではもちろん成り立たないし、共学校の同性カップルにしても「女性もいる中から相手を選んでいる」という関門が学校内でクリア出来てしまうので、こういう物語にはならないはずだ。
 外の世界でもこの恋愛は成り立つのか。そんな不安を佐条が抱えているからこそ、ラストシーンで二人がキスを交わすのがどういう場所なのかにとても大きな意味が生まれている。

と長々と書いてきたけれど、『同級生』では、「この時期がいつか終わってしまうことへの不安」という青春映画的な物語に重要な要素としてボーイズラブが絡んでいるのが本当に良くできているというか、すごいなぁと思ったわけです。
 じゃあこれからBLめっちゃ読むかと聞かれると、うーんどうでしょうというミスターな返答しか出せないけれど、とりあえず他にも読んでみたいなぁ、と思った次第でございました。

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