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12月16日〜20日 第6巻 『のっそり医者』

12月16日

イレギュラーな依頼のぶん投げと、ぎりぎりの〆切と、うっかり忘れていた事項が悪魔合体して襲い掛かってきて、午前中の仕事はバタバタして大変だった。なんとか収まるところに収まって、もう午後からはぼんやりしている。なんか変な時間帯に爆チュー問題の配信があって、開会式パロディコントで関係者が軒並み不祥事で辞任するところまでネタにしていてよかった。

夜は録画してあった映画の中から『決闘高田の馬場』『とんかつDJアゲ太郎』を流して、ダラダラしていた。『決闘高田の馬場』は阪東妻三郎の歌舞伎的な動きの殺陣が面白い。周囲の歓声の真ん中で叔父の死に涙を流す安兵衛のコントラストが見事。『とんかつDJアゲ太郎』は特にアゲ太郎の父役のブラザートムの好演がよかった。

12月17日

今日は仕事が穏やかなのでゆったりした気分。入船亭小辰さんが真打昇進で扇橋を襲名するとか、バナナマンの過去ライブ映像がNetflixで配信決定とか、「マジで!」といいニュースがたくさんやってきて楽しい。
先代扇橋師匠、僕が上京した頃にはもうほぼ何を言っているのかわからないくらいもにゃもにゃした口跡だったんだけど、それなのにグッと引き付けられて目が離せない「心眼」を末廣亭で目撃したのをよく覚えている。ここ最近の師匠方の死去も相まって、自分が落語観始めた頃とまた勢力図が変わってきている感触。

夜には中井治郎『日本のふしぎな夫婦同姓』を読了。夫婦同姓についての話はあんまり知識がなく、漠然と「名前を変えなきゃいけない精神負担と手続きの煩雑さを考えると、選択的夫婦別姓にした方がいいのでは…」くらいに思っていた程度なので、色々と勉強になった。著者の中井治郎さんは以前「読んでもらった以上、読者に若干の傷を負ってもらうのが社会学の本領みたいなところありますので、無傷では帰さんよ、みたいなのは意識するようにしてます。」とツイートしていたのがとても心に残っていて、結婚や改姓の予定がない僕であっても、例えば「男らしさ」にまつわる言及のところなどで若干の傷を食らったりもして、とても面白く読んだ。

明日はあやのさんの家でクリスマスパーティーなので早めに寝る。外の風の音がものすごいんだけど、天気は大丈夫だろうか。

12月18日

めっちゃ晴れた。

あやのさんのクリスマスパーティーへ向かう。準備作業も頼まれていたので、朝から家を出る。あやのさんの現在の家は初めて行くのだけど、僕の家からかなり距離があるので移動にどれくらい時間がかかるか読めず、余裕を持って家を出たつもりが意外と時間ピッタリをちょっと過ぎるくらいになった。

あやのさんの夫くんが迎えに出てきて、パーティー会場まで案内してくれる。会場はあやのさん夫婦が住むマンションのキッチンルームで、広々としたスペース。あやのさんはまだ自室のキッチンで料理の準備を進めているらしく、夫くんからオートロックキーを託された僕は、先に来ていたメンバーと部屋の準備をしながら、お客さんが到着のたびにエントランスへ迎えに出るという、フロアマネージャー的な役回りになった。今回のメンバーはTwitter経由の知り合いが多く、僕が直接面識ない人もなんとなく名前は見たことあるなぁ、という感じだったので、あやのさん主催のパーティーの割に、僕にとってはホームな雰囲気だった。
準備を進めていると、夫くんたち料理運搬班がやってきて、テーブルにどんどんと並べていく。コストコの巨大ピザのような出来合いのものもあるが(ピザの箱を開くとそのサイズのデカさに歓声が上がる)、基本的にはほとんどの料理をあやのさんが調理していて、そのメニューの豊富さと量の多さに感嘆する。ひとりで作れる量だとはどうしても思えない。ケータリング業者レベルだ。皿に載っているオードブルを眺めて「自分だったらこの一皿作ったら力尽きる」と他の参加者と話す。

いよいよ全ての調理を終えて、へとへとのあやのさんが会場に姿を見せて、予定よりも40分強遅れで乾杯。料理がどれも美味しい。
自己紹介タイムがあって、立て続けに「Ryotaさん経由で…」「安田短歌きっかけで知り合って…」と僕のことが話に出るので、僕は「Ryotaです、みんなの友達です!」と言うだけで済んでしまった。ホームの極み。僕やあやのさんと別文脈で知り合っている柿内さんに、改めて安田短歌について「シン・ゴジラで高橋一生が演じた役が安田っていうんですけど…」というところから説明することになった。
初めて会った参加者の方から「蟹ピエロさんですよね!?」と言われたのも可笑しかった。なんだか異常に顔が広い有名人になった気分だ。

一部フォロワーの中では「Ryotaが近くにいる時にガチャを回すと、欲しいキャラが引ける確率が上がる」という謎のジンクスがあり、パーティーの途中で4人くらいが僕の周りでガチャを引き出す変な時間があった。欲しいキャラが引けなかった柿内さんが「Ryotaさんへの信心が足りなかった…」と言っていて、もはや有名人を通り越して教祖になった気分。

会場の利用終了時間が近づいてきて、みんなで黙々と料理を食べながら片付けを進める。酒瓶をラッパ飲みするもりたが「アメリカ映画に出てくる、恋も仕事も上手くいかず飲んだくれているヒロイン(人生の再生へ向かっていく直前)」みたいでよかった。

小さなクリスマスツリーを囲んで一本締めをして解散。僕はあやのさん夫婦の家に上がってちょっとした二次会へ。夫くんの友達、柿内さん、もりたカップルという顔ぶれで、飲みながらまったり喋る。あやの家の猫ちゃんは、柿内さんのリュックサックが気に入ったらしく、何度も上に乗っかっていた。

夕方ごろにあやの家を出て、駅前にまだ残っていたかりあしなさん・じゃがしまさんに合流。3人で焼き鳥食べて飲んで、最近の刀剣乱舞の話とかを聞く。

長いこと電車に乗って帰宅。スマホの電池がとっくに無くなっていたので気付かなかったが、僕から帰宅報告がない上に連絡も取れなかったから、あやのさんやもりたからだいぶ心配されていたらしい。申し訳ない。
こんなに色んな人とワイワイするのは久しぶりで本当に楽しかった。あやのさんより託された余り物のコストコピザ2切れを食べてから、寝る。

12月19日

昨日の酔いが残っていたので、昼まではぼんやりとしていた。

昼過ぎから早稲田の奉仕園へ「カモのコテン」を見に行く。ナツノカモさんの新作落語のあらすじが書かれたボードが11種展示されていて、気になった噺の音源をその場で購入できる企画。展示スタイルによる落語の予告編集といったイメージで、うまく聞きたくさせるためにどう要約するのか、どう煽るのかの案配が絶妙だな、と思った。ふと近づいてきた人がいたので振り向くと、カモさんがおにぎりをかじりながら立っていて笑ってしまった。「知り合いだから、おにぎりいいかなと思って」と言っていたけど、たとえ知り合いでも急に現れた人がおにぎりを食べながら立っていたらそれは面白いよ。久々に会った先輩とも雑談。一番売れている噺はイリュージョン要素満載の「散らかり屋」だという。一番どんな噺なのか意味が分からないものが売れているのは面白い現象だな。「ノットロードムービー」「ラストシネマ」という、映画ネタっぽい2作の音源を購入。ダウンロードリンクが書いてあるカードをもらえるんだけど、デザインがとても可愛い。

展示を見に来ていた山本さんと合流してお茶。定期的にLINE飲みはしているけど、実際に会って話すのは久々かもしれない。山本さんは会うたびに毎回面白いエピソードが増えていてすごい。最近の近況やお笑いの話などをする。

帰宅後、M-1決勝戦。トップバッターのモグライダー、大暴れのランジャタイの二組の時点でもう笑い疲れるレベルで、そこからも楽しくていい大会。ハライチ岩井の敗退コメントのさわやかさにちょっと泣く。オズワルド、インディアンスとも一本目が素晴らしく、インディアンスのラスト、お化けに対して名乗るくだりの見事さに思わずひとりでスタンディングオベーションした。錦鯉の優勝も納得で、審査員席にもらい泣きしている面々がいたり、ちょっとものすごくアツい大会だったなぁ、とほくほくした気持ちになる。M-1の「夢とロマンの詰まった大会」イメージが更に補強されてしまって恐ろしささえある。

12月20日

仕事はかなり暇だったので、ぼんやりしていたら終わった。
立川志らく師匠がランジャタイに想いを馳せるツイートをしていてよかった。談志の「イリュージョン」の文脈を踏まえると志らく師匠がランジャタイのネタが好きなのはそうだろうなぁという気持ちになるのだが、イリュージョン文脈を抑えてない人からすると、「志らく師匠は笑いのセンスが若い」とか「他の審査員に対して逆張りしている」とかそういう見え方になるのが興味深い。

帰って鬼平の『のっそり医者』。前回の『盗賊人相書』からの続き。前話で賊の目撃者となった身寄りのない少女が、新たに町医者・宗順の元で奉公を始めるが、この医者にはとある過去があって…という話。今は市井に馴染んで平穏に暮らしている人に、後ろ暗い過去があるというのも前話とリンクしている。短気によって人を殺した男は、その後悔から人命を献身的に救う医者になった。一方、彼に父を殺された男は敵討ちの旅の果てに、人を切ってばかりの悪党となってしまう。一応この二者の立場の落差もあって、宗順は無事に助かるものの、めでたしとは安直に言えないビターな余韻が漂っている。
敵討ちが為されないまま長期間が経った結果、悪の道に落ちるというのは『暗剣白梅香』の金子とも共通している。鬼平を読んでいる限りでは、敵を討たねば帰参できず、武士として・男として承認されないという価値観っぽいのだけど、これは実際の歴史ではどうだったのかちょっと気になる。時間がある時に調べてみたい。

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