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366.存在しない友だちについてのリミックス(とみちゃん/27クラブを脱退する)

2019年3月21日

27歳になった。
昨年は割と激動の年で、26歳になった時点の僕は無職だったし、その後すぐ今の会社への転職が決まって、それまで興味のなかった業界での仕事にひぃひぃ言いながらなんとかついていっている。一方で、主にSNSを介して新たな友人もできたし、その人たちと色々な面白い企画をやったりしながら楽しく過ごすこともできた。
こう振り返ると26歳、充実してたじゃん。よかったよかった。

さて、27歳になってしまったわけだが、ここで懸念がひとつ。「27クラブ」のことだ。
洋楽に詳しい人なら「才能あふれるアーティストは27歳で亡くなることが多い」というジンクスをご存知かもしれない。それらのアーティストを総称して「27クラブ」。代表的なところだとブライアン・ジョーンズやジミ・ヘンドリクス、ジャニス・ジョプリン、最近だと俳優のアントン・イェルチンも27クラブの会員だ。あと、「ライアン・ゴズリングがシリアルを食べてくれない動画」を作ってた人も。

僕も27歳だ。しかも信頼できる先輩から「君には才能のきらめきを感じる。何の才能かはよくわかんないけど」と言われたことがあるので、おそらく27クラブの入会資格を満たしている。

でも、死ぬのは嫌だなぁ。こわいもん。

とみちゃん

とみちゃんについて真っ先に思い出すのはカバディのことだ。とみちゃんは親戚のおじさんの影響で小学生の頃からカバディをやっていて、中学の時には県で唯一のジュニアチームに入っていた。僕らの同級生はみんな、とみちゃんを通じて「カバディ」というスポーツの存在を知った。友達の間でもとみちゃん指導のもと、カバディが一瞬流行りかけたが、とみちゃん自身があまり友達の中心に立って発言するような性格ではなく、どちらかというと口下手な人だったので、結局カバディブームはブームになる前に終わってしまった。

一度だけ、とみちゃんのカバディの試合を見に行ったことがある。高校2年生の秋だ。とみちゃんと同じ高校に入った田島から誘われて、市の総合体育館へ行った。第一体育館ではバスケットボールの中学生大会が開催されていて、カバディの大会は第二体育館だった。県民大会ということらしく、とみちゃんは大人に混じって試合に出ていた。中学卒業以来のとみちゃんは見た目はそのままで身長だけが伸びていて、なんだか不思議な感じがした。とみちゃんが着けているゼッケンを見てはじめて、トミオカのトミの字がウかんむりではなくワかんむりの「冨」だと知った。
とみちゃんが「カバディカバディカバディカバディ……」と声を上げながら敵陣に攻めこんでいく。とみちゃんのあんな大きな声は初めて聞いた。とみちゃんが敵の一人をタッチした。そのままとみちゃんが自陣に戻ることができれば得点が入る。敵チームの選手がとみちゃんの周囲を囲んで戻らせまいとするが、とみちゃんはその隙間をするりと通り抜けて見事に得点を決めた。

2020年3月20日

眠い目を擦りながら起床。昨日は深夜、変な時間に一度目が覚めてしまったこともあり、体がだるい。
本屋を巡ろうかなぁと思って、とりあえず電車に乗って青山ブックセンターに行く。いとうせいこう・星野概念の「ラブという薬」の続編が先行販売して気になったけど、今日はとりあえず買わず。
そこから六本木へ行ってリニューアルした蔦屋書店を覗く。DVDのレンタルが無くなってて、アパレルとか雑貨とか香水とかのスペースが増えておしゃれ度がグレードアップしていた。
さらに赤坂まで歩いて双子のライオン堂に行ってみようと思ったが、オープンよりかなり前の時間に着いたので今回は断念。四ツ谷、市ヶ谷を回って飯田橋へ。
歩いている間、立川志の春さんが落語を英語で解説するポッドキャストをBGMとして聴く。英語の勉強はまだまだ始められてないが、落語のあらすじが頭に入っているので結構聞き取れる。志の春さんが「殿様」のことをSAMURAI lordと呼んでいた。
地下鉄で池袋に戻る。LOFTで自分への早めの誕生日プレゼントとしてBOOKSELLERS CLOTHING issueのTシャツとトートバッグを買った。

帰りに買ったベーコンを厚めに切って炒め、マスタード付けて食べながらレモンサワーをちびちび飲む。
今日はこの後、のんびり過ごして早めに寝ようかなぁと思っていたら、家のドアを誰かがドンドンと叩いた。え、誰。帰宅した後、鍵を閉め忘れていて、ドアが開けられる。
玄関のほうに出ると男が三人立っていて、そのうちの一人に腹を蹴られる。痛くて蹲った僕は、その三人によって家の外へと引きずり出される。男のうちの一人が言う。
「無事に脱退できると思ったら、大間違いだ」
なんだ、この状況? 誰だよこいつら……脱退って? あ、 27クラブのことか。いや、でもそれって単なるジンクスであって「 27クラブ」っていう団体が実在するわけではないだろ? いや、もしかして僕が知らないだけで 27クラブは実在したのだろうか、秘密結社的な? それで27歳最後の日を迎えた僕を襲撃しに来たのとでもいうのか、え、マジか。思考がぐるぐると回ってばかりで、体がすくんで身動きが取れない。ダメだ、もしかして僕は 27クラブを脱退できないのだろうか、ここで、死ぬ……? あー、そういえば100日後に死ぬワニって結局どうなったんだ。

その間も暴力は振るわれていて本当にこれはヤバいんだけど、どうしようどうしようと気が焦るばかりで身動きができない。なんだか、過去のことを思い出したりもし始めていて、これって走馬灯かよ……と思っていると、ふと、高校時代の友達との会話を思い出す。

「そういえばさぁ、カバディって、どういう意味なん?」
「んー?」
「カバディって言葉の意味」
「あー、カバディって別に、意味とか無いねん」
「えっ!そうなん!?」
「そうやで、意味とか無いねん。意味とか考えたらあかんねんで。カバディってどういう意味なんやろって考えてしもたら、途端に体が動かんくなる。考えへんから動けるねん」

いや、こんな会話、実際にはしていない。だって、会話の相手は、とみちゃんは、僕が創作した物語の中の、「存在しない友だち」なのだ。カバディという言葉に意味がないというのも、物語を書くにあたって「カバディ 意味」とググった時に知ったことだ。でも、僕はとみちゃんの言葉を思い出す。意味を考えないから、動ける。
カバディカバディ、と呟いてみる。言葉の意味を考えず、「怖い」とか「痛い」とかの思考を止めて、ただ、音を発することに専念する。専念している、ということすら意識せず、ただ唱える。カバディカバディカバディカバディカバディ!
僕の声に驚いて、男たちの暴力が一瞬止まる。その隙に僕は立ち上がって、その場からダッシュで逃げ出した。体が動く。男たちが後から走って追いかけてくるが、僕は止まらない。考えるな。僕は息を切らさずカバディカバディ唱え続けて、他にも意味を考えずにただ音だけを口ずさめるものがあるなと無意識下に思い出して、例えばそれは過去に作った存在しないバンドの歌だったり、大学時代に覚えた落語の一節だったりするのだけど、要するにこれまでの人生で口ずさんできたもの、意味なんて考えずとも体に染みついている音を次から次へと発しながら、走って逃げる。男たちはまだ追いかけてくる。でも、0時を過ぎて28歳になってしまえば、追手も諦めてくれるはずだ。それまで僕は、この27年間で覚えてきた全ての音を口ずさみながら、走り抜こう。3月21日へと逃げ込もう。

もうすぐ、28歳の誕生日だ。

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