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4月13日〜20日 第9巻 『雨引の文五郎』

4月13日

落研時代の後輩の二つ目昇進祝賀会のお誘いが来た。もう後輩が前座を卒業するくらいの年数が経っているのか、と愕然とする。大学時代のメンツが久しぶりに集まるっぽいので楽しみ。

柿内さんから文フリで売る僕の歌集へのコメントが到着。

蜂谷希一の歌は意地悪だ。だけれどもそこには明確な悪意が不在なようにも思える。というよりも、意地悪さの宛先が「非在」とでもいうべきものに向けられていて、自虐にも揶揄にも陥っていないようなのだ。「非在」に向かって投げかけられた文字群は、ニヒルな癖に妙ににこやかで、なんとなく腹立つ。

自作に誰かのコメントが付くだけでも喜ばしいのだが、かなり的確な評でもあり、真っ向から褒めていないもののちょっと興味が持たれそうなバランスなので嬉しい。というか、「蜂谷希一の歌は」は「Ryotaのツイートは」に置き換えても割と成立するのではないか。

うたの日の23時枠にぎりぎり滑り込んで、寝る。

4月14日

部屋が寒い。

今週はなんだか体感時間がすごく長くて、まだ木曜日なのかよ、となる。早く週末になってほしい。

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』4Kリマスター版が6月に劇場公開されるらしい。『雑談・オブ・ザ・デッド』の刊行から数週間後というばっちしのタイミング。これも絡めてうまく宣伝できないものかしら。

4月15日

仕事がとっても面倒臭い感じになってきたので、昼休憩で回転寿司に行ってしこたま寿司を食う。時々、こうやってストレスを暴力的な食事で散らすことをやってしまい、後で体重計に乗って後悔するのだった。

歌集の宣伝画像、とりあえず自分の短歌5首をセレクトした告知画像を出す。朝胡さんから「踏切で入道雲も待っていて近所に夏が住んでいるかも」の歌を褒められる。笹先生からも「代表作になると思う」と言われた一首。これは実際に踏切で電車の通過を待っている間にすーっとできたもので、あんまり頭でこねくり回さずに詠んだほうがいいんだよな。とは分かりつつ、題詠脳なのでどうしてもお題先行で考えてしまうのだった。歌集の宣伝も兼ねて、うたの日にほぼ毎日投稿しているけど、文フリ終わったらいったんやめて、下半期は色んな人の歌集を読みながら、ゆっくりとお題先行じゃないものを作るモードに入っていきたい。

4月16日

午前中はうだうだと部屋で過ごしていた。ジェラードンのYoutubeのコントで、サンタさんをいまだに信じている高校生が着ていたTシャツが『イングロリアス・バスターズ』だった。

午後からぶらぶらと本屋巡りをして、たくさん歩いて帰る。合間に武塙さんの『白ねこ黒ねこ』を読了。面白そうな映画、美味しそうなご飯、行きつけの店が突然閉店した寂しさ、そういった日常の積み重ねがある一方、遠くの国では戦争が起こっていることへの心のざわつきが漂っている。楽しいんだけど、妙に落ち着かないこの感触が、日記の中にちゃんとある。武塙さんの日記を読むといつも美味しそうなものがたくさん出てくるんだけど、今回はジャンボむしケーキを食べたくなった。カタカナに挟まれた「むし」がひらがななのがいい。

4月17日

今日は『雑談・オブ・ザ・デッド』の作業日。円盤に乗る場で、ゲラチェック・赤入れ作業をする。円盤に乗る場はクローズドの場所なので詳しくは書かないが、指定された住所に行って「こんなところに?」と思っていたらひょこっと柿内さんが出てきて、町の隙間に拵えられた秘密基地的な空間だった。

部屋の真ん中に長テーブルを置き、横並びで座る。一度柿内さんが赤入れしたゲラを僕が再度チェックして、柿内さんがPC上で修正箇所を直していく。文字起こしや執筆よりも、推敲や誤字チェックのほうが作業としては好きだ、というか、苦ではない。改めて読み直すと、面白いところもあれば、言いぐさが失礼すぎるな、というところもあり、しかしまぁテイストはそのままにして、誤字脱字と読みやすさだけに注力する。2ヵ所ほど我ながらよく見つけたなぁという誤字・脱字があり、それだけで大仕事をした気持ちになる。

昼食は柿内さんが気になっていたラーメン屋。カフェみたいなオシャレな雰囲気。隣の席のお客さんに店員さんが「すみません、先ほどご注文いただいたの、赤の太麺でしたっけ?」と聞いていた。「白の細麵だよ」との返事。真逆だった。

結局6時間ほど、ぎっちり作業をしてへとへとになった。夕食は十八番という中華屋さんに行って、餃子やら青菜と豚肉の炒め物なんかをつまみながらあれこれ話す。途中、僕の興が乗って、長々エピソードトークを連発するパートがあって、作業後にアルコールを入れると危なっかしいなと思いながらも柿内さんにウケていたようなのでよかった。

作業しながら、「自分は読んでいて楽しいけど、これは誰が読むんだ?」とうっすら思っていたんだけど、とりあえず武塙さんの顔は思い浮かびますね、という話を柿内さんとした。誰か一人いるってだけで、大きな安心感がある。
それから「武塙さんは美味しそうなお店をたくさん知っていて、武塙さんが書くだけでどの料理も美味しそうに思える」という話もしていたんだけど、家に帰ってTwitterを見たら、武塙さんがカブトムシを食べたという報告が笑っている横顔の写真と共に上がっていて、それはちょっと面白すぎるな、と思った。

柿内さんが今日のことを日記に書いてくれたのでもりたにシェアしたら、「ちゃんとした人っぽい」というLINEが返ってきた。

4月18日

彩鷹カフェのほうじ茶ラテのちっちゃいサイズが売ってて嬉しい。ほうじ茶ラテは好きなのだけど、かなり甘々なので500mlも要らない。

唐突にTwitterで『雑談・オブ・ザ・デッド』の予告編動画が上がってきて爆笑する。昨日、柿内さんはこんなの作るって一言も言ってなかったのに。後で日記を読んだら、突発的に思いついて作っちゃったらしい。報道シーンから始まるの、確かに雑談・オブ・ザ・デッドの予告として正解だな、と思いつつ、スター・ウォーズみたいに武塙さんのコメントが宇宙に向かって流れていくのは可笑しかった。動画の最後がセーラーゾンビ回での僕の「もはや俺しかわかってないな!」の絶叫なのは、やはり柿内さん的にお気に入りポイントなんだろうな、と思う。

4月19日

夜なかなか寝付けず、朝は早く目が覚めてしまい、結果寝不足でずっと機嫌が悪い、みたいなのが続いているので、どうにかせねばならぬ。

製本所に歌集の文フリ販売分の発注申し込みを出す。お金は明日振り込む予定。もう後には引けないぞ、と思う。フォロワーさん何人かから取り置き依頼の連絡があってありがたい。

柿内さんが書店さん等へ向けた『雑談・オブ・ザ・デッド』宣伝ツイートをしていて、「ゾンビ縛りの『奇奇怪怪明解辞典』」と書いてあって、大きく出たなぁと思う。こういう時、柿内さんは挑発的で、僕は謙遜へ向かうのがタイプとして違うところ。予約者限定音源も作ろうという話になった。
宣伝には音源を聴いてもらうのがいいだろうということで、ポッドキャストの該当回をまとめたSpotifyプレイリストを作る。

4月20日

歌集の印刷費を振り込み。入金完了のメールが届く。うわー、本当にここまできてしまったな、とうっすら思う。

今日は仕事の数は少なかったけど、面倒な仕事が一個あったのでそれをダラダラ進めていたら終わった。

鬼平犯科帳は9巻に入って『雨引の文五郎』。かつて平蔵が逃してしまった盗賊・文五郎。忍び込んだ先の人間を傷つけることなく十二件もの盗みをやって退けた凄腕で、江戸を去る際には自身の人相書きを平蔵に送りつけて挑発してきたような男だ。文五郎を見つけた平蔵は彼の後を尾行するが、もう一人、文五郎の後を尾けている男の存在に気づき……という話。平蔵に惚れ込んでいる密偵・宗平ですら、「お縄に尽くせるのが惜しい」と思って庇っていた文五郎という男。描かれる場面はそれほど多くないが、終盤、飄々としているようで彦蔵を素早く仕留めてしまうシーンは確かにかっこいい。その分、最後にあっさりと平蔵に見つかって観念してしまうのはもったいない気もする。
老いた宗平が囮になって体調を崩してしまうシーンで、平蔵が井上竜泉に診察を頼んだことで、かつて盗み働きをしていた者を御典医が診てくれるなんて、と、密偵たちが感激する姿も印象的。今は平蔵の下で正義のために働いているとはいえ、元々は盗人であるという過去は密偵たちの中に拭いがたく、影を落としている。

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