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5月15日〜18日 第3巻 『麻布ねずみ坂』

5月15日

管理会社にエアコンの故障の件で電話。
型番を聞かれたので、エアコンの下部に書いてあるアルファベットを読み上げていく。うまく聞き取れなかったところがあったらしく、電話口で担当者に聞き返される。
「すみません、最後に言ったアルファベットはTOKYOのTですか、それともPARKINGのPでしょうか?」
「あ、えっと、TOKYOのTです」
そう返事をするとき、僕の脳内に「東京の駐車場」のイメージがぼんやりと浮かぶ。部屋はまだ暑い。

その上、日中は向かいで建物の取り壊し工事が行なわれていてうるさいので、出かけることにした。テクテクライフで「目白駅」と「原宿駅」へチェックインすれば山手線全駅制覇だったので、池袋まで出て山手線に乗る。
原宿駅で降りて、山手線スタンプラリーはクリア。そのまま表参道の方へ上がっていくと、太田記念美術館のポスターが目に入った。なんとなく美術館がその辺にあるな、という認識はあったが、今まで行ったことが無かった。立ち寄ることにする。

太田記念美術館は浮世絵専門の美術館で、「敗者」をテーマにした特集展示が行なわれていた。決闘や合戦を描いた絵が多く、ダイナミックで迫力のある作品が並んでいた。中には切り合いで体が真っ二つに割け、血しぶきを上げている絵もある。これまでは美術館で見かけてもあまり気に留めなかった浮世絵だが、これはめちゃめちゃにカッコいいなぁ。展示内容がひと月ごとくらいで変わるらしいので、定期的に通いたい。

思いもよらず面白いものが観れたのでホクホクした気持ちで、そこからぶらぶらと青山方面へ歩き、乃木坂を経由して六本木へ。蔦屋書店を覗いて、麻布十番駅から電車に乗って帰った。

移動の合間にヴァージニア・ウルフ『ある協会』を読み終える。あらゆる業界で「男性のほうが優れている」とされるのは本当かを探るため、女性たちが潜入調査を行なう「協会」を結成する話。解説によるとウルフは男性優位を主張する論説への怒りを原動力にこの短編を書いたようなのだけど、ビシっと怒りながらユーモアも忘れず、次世代に希望を託していく、という案配になっていていいなぁと思う。ウルフは河出から出ていた世界文学全集の『灯台へ』の巻を積読したまま実家に置いてある。読まねば。

5月16日

起きて、「文フリ行こうかな、やめとこかな」と迷い、その悩みは電車に乗ってからも続いていた。とりあえず本屋に行って、ラジオ英会話の次号分と、話題になってて気になっていた『理不尽な進化』文庫版を購入している時点でもまだ行くか悩んでいて、そういえばラジオ英会話はテキストを買って、放送の録音も続けているが、全然勉強として取り組めていないな、相変わらずだらだらしやがって俺よ、と思っているうちに、気がつくと浜松町にいた。モノレールに乗り換えて、文フリの会場に向かう。

思ったより早く着いた。開場直前のタイミングだったのでいそいそと列に並ぶ。行列は極力人が密にならないよう、壁に沿ってぐねぐねと長く続いていた。入場が始まり、前の人に続いて、壁伝いにまっすぐ、ぐねぐねと歩いた。

とりあえずブースを端から端まで見て、最初にナツノカモさんのところへ。お会いするのは久しぶりだった。『着物を脱いだ渡り鳥』は先日Titleで購入済みだったので、軽くご挨拶と近況報告的な雑談だけする。

「代わりに読む人」のブースでは月報3をもらった。名乗らずにささっと立ち去るのでもいいかなと思ったが、友田さんが気付いてくださったので「Ryotaです」と名乗る。この日記の話とかを少しした。

前日に林家彦三さんが出店することをTwitterで知ったのでそちらにも立ち寄る。何度か落語会を見に行っていてちょっと面識がある落語家さん。友人と共同編集した雑誌の創刊号とのことで、ZINEかと思ったらISBNコードがついていてしっかり商業流通対応だった。「猫橋」という雑誌名がいい。

岸波龍さんのブースでは『読書のおとも』を購入。サブレは買わなかったんだけど、あとで二見さわや歌さんの原稿を読んで「あー、一緒に買っておけばよかった!」といたく後悔した。岸波さんのブースにはちょうど店番入れ替わり前の柿内さんがいたので挨拶して、今回の出店の情報交換をする。とりあえず『着物を脱いだ渡り鳥』をオススメしておいた。柿内さんからはとりあえずわかしょ文庫さんの『ランバダ』は買った方がいいと言われ、僕も気になっていたのでvol.1~3を買っておいた。
『フェミニズム文学ガイド』は短歌についての章があったのが気になり購入。

トートバッグがパンパンになったので、撤収。帰りの電車で代わりに読む人の月報3を読む。月報と言いながら、よくよく考えたら毎月発行されているわけでもなく、4者4様のエッセイが集まっていてミニ文芸誌な状態。実験掌編小説っぽいわかしょ文庫さんに始まり、ごきげんに京都の美味しいお店の話をしている北村さんのエッセイがあり、柿内さんの「男はつらいよ」論的テキストに「寅さん観るの再開しなきゃな」という気持ちになり、友田さんの日常のささやかな話(特にビオレu→白水uへの連想の不意打ち!)に大笑いし、なんとまぁ面白いものが一枚の紙にぎゅっと凝縮されていて「月報です」と言い張っているのがすごい。

家に帰って、購入したものを整理し、久々にカモさんに会ったし人にオススメしておいてまったく読んでないのもなぁ、と思って『着物を脱いだ渡り鳥』を読み始めたら、結局最後まで一気に読み切ってしまった。
カモさんと時期は被っていないにしろ同じ落研だったし、この本に出てくる公演のいくつかも見ている上、仮名となっている人物の何人かは「あの人だな」と分かっているなかなか近い間柄ではあるので、書かれているエピソードの解像度が爆上がりしている状態での読書だった。カモさんが取り組んでいる「立体モノガタリ」を実際に見たときに僕は、「まだ落語っぽいな~と感じる要素が多く、この表現だからこそというものが欲しい」と思っていたのだが、この本を読むと、むしろ「落語とは何か」というラインを探るための表現形式の変更だったのかと納得がいった。落語にとりつかれた人が、落語が出来ない状況に陥り、だからこそ違う形で落語について考えるという、ものすごく業の深い話でもあり、それでいて「落語というのはどういう表現なのか」について思考する落語論にもなっている、不思議な文章だ。落語の表現方法については立川吉笑『現在落語論』と共通するトピックでもあり、僕も好きな話題であるので、面白く読んだ。それにしてもこれ、落語もカモさんのこともよく知らない人が読んだらどう感じるのか、全然想像がつかないな。柿内さんに勧めてよかったのかな、とも思うし、勧めてよかったなとも思う。

5月17日

朝、ポイエティークRADIOが更新されていて、文フリで購入したもの紹介で『着物を脱いだ渡り鳥』にも触れられているらしいので聞いた。柿内さんの奥さんは、僕のことを「蟹ピエロさん」と認知しているのだと知る。聴きながら「あー、それも買っときゃよかった」という本が続々。

明日から制作チームも交互出勤だ。僕は明日休みなので、細々とした事項をもう一人のライターさんに引き継ぎした。このペースだと休まなければいけないのに業務量は変わらないというなかなかに厳しいルーティンに入るのでちょっと憂鬱です。

5月18日

平日お休みデー。近所の小学校からは子供の声が聞こえ、向かいの家は取り壊しの音がドカドカ鳴っている。
昼にエアコンの修理点検が来てくれるので、午前中に鬼平3巻『麻布ねずみ坂』を読み終える。『埋蔵金千両』に引き続いて指圧の名人である中村宗仙が登場する。キャラが立っている人物を使い捨てせずにエピソードに仕立ててしまうのは鬼平の面白さだな、と思う。前作では死にかけの老盗を治療してしまう達人という、話を動かすためのキャラっぽかったが、今回はちゃんと人間としての描き込みが成されている。相変わらず女絡みの話題ではあるが……。キャラで言うと、同心の山田市太郎もこれまであくまで平蔵の部下の一人程度の登場の仕方だったが、今回は借金苦に悩み、危うく盗みを働こうとする直前まで思い詰めてしまう。「善人も悪いことをするし、悪人も良いことをする」という鬼平マナーなキャラ造形なのだが、今回は正義の側に踏みとどまった上、終盤には宗仙を襲った浪人を撃退する見せ場まであり、結構わかりやすく胸アツ展開。これをこれまでは名前だけで印象が薄かったキャラでもやってのけられるのは、連作短編シリーズの強みね。

お昼、早々にエアコンの業者さんが状態確認に来てくれた。室外機の冷/暖を切り替える部分の故障らしく、この後見積もり出して修理になるけどおそらく全部交換になるのではということ。思ったよりも早く点検が終わったので、昼寝しようと思ったが寝付けず。ベッドで転がってTwitterを見てたら、本屋イトマイでオカメサブレの取り扱いがあることを知る。これは買わねば。

さっと出かけてイトマイ。来るのは2度目。喫茶利用いけるかなと思ったが、仕事で急に呼び出される可能性を考慮して辞めておく。さすがにサブレだけ買って帰るのもどうなんだと思い、このタイミングで買うならこれだろうということで、『日常的実践のポイエティーク』も購入。模範的読者の振る舞い。

で、サブレをついばみつつ『読書のおとも』を読了。二見さわや歌さんの原稿がすごく良かった。読者でもあり、読書のおともでもある存在が書いたテキスト……。

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