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6月10日~14日 第20巻 『寺尾の治兵衛』

6月10日

朝はベッドでだらだらしながらU-NEXTでヨーロッパ企画の舞台『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』を立て続けに観た。昨日に帰って壊れる前のエアコンのリモコンを取りに戻るブルースに比べれば、現在に加えて三つの時間軸が絡むワンスモアは複雑度がかなり高く、つじつま合わせの右往左往のタイムスパンもスケールアップしている。それにしても柴田の人生がワンスモアではタイムマシンの影響受けすぎて、若干不憫でもある。

昼前に、再配達依頼していた群像7月号が到着。いよいよ後半に突入した。「「論」の遠近法」特集があるので、なかなか読みごたえがありそう。

昼から夕方は南森町さんの演劇を観る企画で、ままごと『わが星』の映像を久々に観た。90分の間で伸び縮みする星の一生。観るのは二度目だけどしっかり感動してしまって、やはり当時の演劇界における堂々たるマスターピースだな、と思う。次回はイッセー尾形の動画と、神田伯山の動画を見ることに決まり、伯山先生の講談のどれを観るかは僕がセレクトすることになった。あれこれ見直さねば。

6月11日

前日深夜は真山さんのスペースを聴いていたので、朝のうちはだらだらして午後から渋谷へ出かける。渋谷らくごの14時回で、古典・新作、江戸・上方が入り乱れてバラエティー豊か。旅先でのエピソードまくらから、スタンダードに楽しい勧之助師匠の「熊の皮」に続き、吉笑さんの「八五郎」は古典落語の世界=マルチバースとしての解釈や、一見ハプニングのように見せていた引っ掛かりどころをメタに回収するなど、仕掛けが面白いトリッキーなネタ。これは先に、勧之助師匠がきっちり古典のを聴かせてくれているからこその振り幅として機能していて、いい流れ。上方からの佐ん吉師匠は「くやみ」で、これは上方のネタだなぁ、江戸でやっている人っているのかしら。お葬式でお悔やみを言っているはずが、自分の店を宣伝したり、妻とののろけを繰り広げるなど、どんどん脱線していく参列者たちが愉快。トリのブラック師匠は、山田洋次原案の「まむし」。エロを巡るばかばかしさと、今にもマムシに噛まれるかもしれないというスリリングさのギャップが可笑しく、ラストの切れ味もいい。これは確かにやれる場所を選ぶけれども、もっとやるような人がいてもいいネタな気がする。

そのまま歩いて代官山方面。途中、『日曜日の夜ぐらいは…』に登場したカフェの前を通過した。現実とドラマの地続き感。代官山蔦屋書店を一巡りしてから家路につく。溜まっていた日記を書いたり『だが、情熱はある』を観たりしてから就寝。

6月12日

仕事作業をしつつ、次の演劇を観る会に向けて、伯山先生のYouTubeで講談の動画をあれこれと観る。「首無し事件」がミステリーコメディとしてとても面白い。だけど、やはり再生回数が多くて気迫も入っている「中村仲蔵」が最初に観るにはいいかもしれないな。

6月13日

わかしょさんの新しい連載について、「わかしょ版ビデオドローム」と先日ツイートしたのだけど、まさにそのビデオドロームの4K版が近々劇場公開されるらしい。謎のシンクロニシティ。

帰宅後、『日曜の夜ぐらいは…』最新回を観た。椿鬼奴のサブエピソードや、最低おじさんズの一角を担っていた橋本じゅんのいい面が見えたりしみじみもするが、なんともショックだったのは、ずっと謎めいていた「ケンタの家族が崩壊したきっかけ」が実は物語の序盤で提示されていたこと。しかも、観ている視聴者や、周りの仲間にとってそれは「ケンタの突っ走りがちで迂闊な人柄を表す面白いエピソード」でもあった。姿すら現していないケンタの母親と、我々との断絶がそこにあり、「そんなことを気にするなんて!」というのでもなく、ただひしひしと自分たちが軽んじていた何かによって決定的に心に傷を追う人も居得るのだ、ということだけが、ごろっと横たわっている。

それからJCOMオンデマンドで配信されていた『緊急取調室』のスペシャルを観たら、知らない間にキントリに野間口徹が参加していた。

6月14日

仕事に向かう電車で鬼平を読む。密偵・五郎蔵は、口合人の治兵衛と再会する。口合人とは、フリーの盗人を賊の一味に紹介し、その周旋料をもらう務めをしている者で、盗み自体はやらないものだ。ところが、口合人からの引退を考えている治兵衛は、最後に自分の仕切りによる大きな盗みを企んでおり、五郎蔵にも協力してほしいと持ちかけてきた。報告を受けた平蔵は、五郎蔵の子分のふりをして治兵衛と接触する……という話。盗みの目的の一つが「嫁入りを控える娘にお金を用意したい」であり、人柄もよい治兵衛は好人物であり、普段は頼りになる五郎蔵も騙していることに後ろめたさを感じている。加えて、盗みのターゲットになっている店には平蔵と互角に近い剣術の使い手がいることが分かり、そのあたりが物語のカギになるのかと思いきや、唐突に巻き起こった凶行により、物語自体が大きな肩透かしを食らう。その梯子をはずされてスカッと空いた隙間に、あっけなくしかし意図せず善人としてこの世を去った治兵衛の不在による寂しさが流れこんでいる。これで20巻は読了。あと4冊。

仕事後、今日は武塙さんと柿内さんと飲むことになっていて、お店は武塙さんおすすめの酒場。ちょっと時間読みを間違ったのもあって、予定より数分遅れて到着すると、カウンター席に並んだ二人がもう赤星を開けている。三人で映画やドラマの話、文フリの話や文章・日記の話などあちこちに話が飛びつつ、しかし誰かしらがしゃべっていて止まることなく、盛り上がって3時間あっという間。とても楽しい集まりだった。途中、柿内さんが武塙さんの文章について話す場面があり、柿内さんが結構褒めていたのだけど武塙さんのリアクションは何だかむずがゆそうな感じで、全然褒められている人っぽくなくて面白かった。よくよく考えれば、面と向かって自分の文章について分析的に語られたときのリアクションとしては武塙さんのような感じが自然なのやも。武塙さんと柿内さんがどんどん酒を飲むのに対して、僕のレモンサワーが全然減らないので、ふたりとも驚いていた。僕は大体飲み会では、最初の一杯・二杯くらいでアルコールはやめてその後はソフトドリンク、酒を飲まない代わりにその分、食べ物をよく食べるタイプ。たこぶつが美味しかった。柿内さんから「前に飲んだとき、Ryotaさんはシラフだと軽快に喋るのに、アルコールが入るにつれて口数が減っていった」と言われて、それはホントそうだなー、と思った。僕のシラフは酔って陽気になる人と渡り合えるくらいのトーンと口数なんだけど、アルコールが入るとフワフワして口数が減る。

駅で解散し、帰宅後、風呂に入ってすぐ就寝。明日も普通に仕事があるなんて信じられない。

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