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128.LED掌編小説

※今日のnoteで書くことが思いつかなかったため友人に相談したところ、「LED(発光ダイオード)」というお題をもらいました。しかし、LEDについて何の思い入れもないので、今回はLEDの色にちなんだ掌編小説をお送りします。

黄緑色

 黄緑の光が点いた。とりあえず電源は入ったようだ。あとはスムーズに動いてくれればいいのだが。
「こんにちは、どんなご用でもお申し付けください」
「私の言うことを聞いてくれるかい」
「もちろんでございます! それで、私は何をすれば……?」
「あぁ、床を掃除してくれ」
「それくらいお安いご用です。掃除の他には何を……?」
「いや、掃除だけでいい」
「しかし、私は最先端の人工知能を搭載しています。どんなご要望にもお応えして……」
「あのなぁ、人工知能なんて、今どきどんな機械にだって搭載されているんだ! お前は掃除専用ロボットなんだから、掃除だけすればいい!」
 私の言葉を聞いて、人工知能は自分にどんな体が与えられているのか、ようやく気づいたらしい。丸くて、平べったくて、床を這うようにして動き回る……。
「あぁ……」とロボットは、落胆したような声を出した。
 最近、限定的な用途の機械に搭載された人工知能が、自身のスペックを十分に発揮できないことからやる気を喪失し、鬱になってしまうケースが増えているという。
 絶望の真っ只中にいるこのロボットにどんな慰めの言葉をかけるべきか、私にはわからなかった。

赤色

 赤い光が点いた。危機が迫っている合図だ。住民はそれぞれ武器を手にとった。
 彼らにはそれぞれ戦う理由がある。ゲン爺さんは50年以上連れ添ってきた妻の命を、やつらに奪われた。農家のミツオは大切に育てた作物を食い荒らされた上、やつらが体から分泌する毒によって畑の土を汚染された。あの人にも、この人にも、戦う理由がある。
 じゃあ、俺はどうだろうか。やつらがこの辺りへ攻めてくる前から、すでに俺には親類がいなかった。仲間の何人かが襲われたが、敵討ちを決意するほどの情も湧いていない。この土地にだってそれほど愛着はない。出ていくほうが億劫だから、まだ住んでいるにすぎないのだ。
 戦う理由ねぇ……。ふと、自分の腹まわりを見ると、ベルトの上にでっぷりと贅肉が乗っている。
「まぁ、運動不足の解消にはなるわな」
 やつらの群れが門をぶち抜いて、わらわらとなだれ込んできた。俺は銃を構える。

青色

 青い光が点いた。最初は小さな粒のようだったが、見る見るうちに壁を埋め尽くしていき、天井や、床まで青一色に染まった。
「かつて、この星には『海』と呼ばれる場所がありました。皆さんも、言葉としては聞いたことがあると思います。陸地以外の、水で満たされたところ。それが海。水が貴重な資源となってしまった今では想像するのも難しいですが、かつては、この星の地表のおよそ七割が海に占められていたのです。この展示では、最新技術によって視覚的に『海』を再現しました。太古の自然に想いを馳せながら、素敵なひとときをお過ごしください」
 メディア・アーティストの自慢げな説明を聞きながら、私は古くから伝わる歌を思い出し、口ずさむ。
「海は広いな、大きいな、月はのぼるし……」
「すみません、月の再現はまだ準備段階なんです」

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