見出し画像

東京/Figgis

東京
作詞:門山修一
作曲:Figgis
編曲:スケールダウン

セメントの海、メメント・モリ
街はみるみるうちに駐車場に

テーブルクロス引きの天才によって
俺らのフロアも様変わりして
赤茶けた土もスリートゥーワンで
3色のタイルへ地異が転変
ていうかこここの前酔ってた時に寄った道じゃねぇか
ってか今も酔ってらぁ

バックアップは充実 オリジナル消失
踊ってたやつらもみんな絶滅
記憶はせいぜいコレクターアイテム
脳を盗られた俺たちは剥製
ていうかここさっきも通ったはずだが更地にされてる
はい、また殺された

手放した光景
張り付いた憧憬
ショーケースの中で生きるなんてまっぴらだ
俺は降りる
降ろしてくれ

「消えない」なんて
頼りない想定
重ねすぎたレイヤーに俺の足跡も
残ってろよ
残ってろよ

ていうかここさっきも
ていうかここさっきも
ていうかここさっきも
ていうかここさっきも

遠のいた背景
染みだした憧憬
同系色の壁に囲まれた街から
俺は逃げる
逃がしてくれ

「消えない」なんて
頼りない想定
重ねすぎたレイヤーに俺の足跡も
残ってろよ
残ってろよ

セメントの海、メメント・モリ
街はみるみるうちに駐車場に


楽曲メモ
思い出の場所の思い出

 中古レコード店『半径堂レコード』が閉店したのは、2013年の春だった。手元に残っていたレシートによると(領収書やらレシートやらをどうしても捨てられない質なのだ)、最後に僕がその店で買い物をしたのは2010年の12月だ。アレスター・マグラグレン「The second Sunday this week」を買っている。名盤だ。翌年の春に僕は引っ越して、店から随分離れたところに住むことになったから、半径堂レコードが潰れたのを実際に知ったのは今年に入ってからだった。たまたま以前住んでいた街に用事があったので、久しぶりにレコードを漁ってから帰ろうと思ったら、店はもう跡形もなく、車が4台停められる程度のこじんまりとした駐車場になっていた。
 思い出してみれば、当時、自分以外に客がいたのを見たことはなかったし、店内も目に見えて老朽化していたから、店に通っていながら「いつ潰れてもおかしくないな」と考えてはいたのだ。とはいえ、実際に店が無くなっている状態を目の当たりにすると、虚をつかれてしまった感じで、数分ばかり呆然と立ち尽くしてしまった。駐車しようとしたドライバーにクラクションを鳴らされて、僕はそそくさとその場を立ち去った。それ以来、あそこには行っていない。

 門山くんがショックだったのは、上京して初めて住んだアパートが知らない間に無くなっていたことらしい。
「そのアパート、大家さんが一階に住んでたんですよ。優しいお爺さんで、金がない時は家賃待ってくれたりもして。俺がそこを出るときも『音楽頑張りなよ』って言ってくれたんですよね。で、久しぶりに近所を通りかかったんで行ってみたら、アパート無くなってて、美容室になってたんです。すごい悲しかったし、その美容室の名前が長ったらしい上に筆記体で書いてあって『なんて読むんだよ』とか思ってたら、店の中から美容師さんが出てきて『よろしければカットされますか』って言われて、流れで髪切ったんですけどそれも絶妙に似合ってなくて(笑)」
 思い出の場所は僕らが勝手に思い入れているだけであり、いつだって簡単に潰されて、コインパーキングや名前もよくわからない美容室にされてしまう。それにはあらがえない。
「でも、」と門山くんは言う。「最近、東京を美化しよう、変わるのが良きことだ、みたいな空気を感じてて、それは本当にいいんだろうかということは、あらがえないにしても言いたいじゃないですか」

 カバーを了承してくれたお礼に、「The second Sunday this week」のレコードを門山くんに貸した。この曲でマグラグレンはこんな風に歌い始める。
「失くしたものを数えるために今日は会社を休んだんだ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?