131. 140字掌編集 その3
梅雨の恋猫
恋猫は春の季語なんだぜと教えたら、うちの三毛は納得いかない様子でむうっと唸る。この辺をうろつく野良の灰猫にご執心の三毛は、梅雨の最中に時季外れの恋猫となった。
大雨の間、窓の外を恨めしそうに眺める三毛を見ていてよく分かったのだが、猫にも「想い続ける」という才能は備わっているらしい。
夜としか言いようがない夜
蹴られた。腹を蹴られた。俺の腹を蹴った奴は身長一八〇センチほどだろうが、俺は蹴られた拍子に尻もちをついているから相手が身長三〇メートルほどに見える。三〇メートル向こうの声が「二度と近づくな」と吐き捨てるように言ったが、三十メートル向こうだから顔がはっきり見えない。声は俺にそっくり。
観雷
芸術に感動した時、「雷に打たれたような衝撃を受けた」と表現することがあるが、彼は雷に打たれた際、「芸術を観たかのように感動した」という鮮烈な体験をした。それ以来、天候の悪い地域に足を運んでは雷に打たれて暮らしているが、最近は大仰に感動を煽るような雷ばかりで興を削がれるのだという。
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