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7月3日~9日 第21巻 『春の淡雪』

7月3日

作業しつつ渋谷らくごのポッドキャストで、三遊亭青森さんのまくらを聴く。コロナ禍で困っている仲間のために、若手の二つ目でありながら1000円ずつお金を配ったのに誰も広めてくれない!という話から「カッコよくなりたいなぁ」で文七元結に入るのが、お金を渡す+カッコいいとは何かという噺のテーマを示しつつ、ちゃんとウケてるのでネタ振りのためだけの枕になっていない案配で見事。

「おてあげ 第一号」を読了。編集者の雑談座談会や日々の日記、様々な本に関わる人たちの困りごとをまとめたリトルプレス。本を作るにしても売るにしても、働くとには色々な悩みが付きまとうわけで、作り手の皆さんに親近感が湧く。特に、著者のタイプ別にメール対応のTipsを書いた記事が、現場のリアルな知恵という感じで面白かった。

帰宅後、録画していた舞台『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』を観た。若き日の未熟なところもあるシャーロックが、前半では兄の手のひらの上で転がされて凹みつつも、推理を通じて次第に自信を取り戻し、兄と対決し、最後には友人を救ってしまうという展開まで、しっかり詰め込んであってそれで2時間ちょっとの内容なのだからすごい。シャーロックを友人として大事に思いつつ実は裏の思惑を抱えているワトソンを佐藤二朗が演じ切っている。ラストのシャーロック・ワトソンのやり取りは、古畑任三郎の津川雅彦回っぽさもあった。いい感じに楽しく観てから就寝。

7月4日

『われわれの雰囲気』を読み終える。柏木さんパートの入院生活の描写は、思うように動けず、また一命は取り留めたものの少し何かが違えば死んでいたかもという恐ろしさ、入院生活がいつまで続くかという不安と、しかしそれもその場での日常としてある、という色んな要素がマーブル上に入り混じっている感触。僕は生命に関わるようなものでは全くなかったけど入院を二回経験していて、全身麻酔をしての手術も一度やったことがあるので、病院生活での心細い感じなどをじんわりと思い出した。

7月5日

今日は仕事が暇で、夕方からはばたばたと作業が入っていたけど、ほぼネットサーフィンしつつぼんやりやり過ごすような日だった。群像の次号の目次が出ていて、今回も分厚そうだ。町田康の「口訳 太平記 ラブ&ピース 外道ジョンレノンを根絶せよ」がタイトルからしてヤバそう。

渋谷らくごが三連休と重なる日程なのに、サイトは不具合が出るわTwitterはAPI制限でがたがたで可哀そうだな、という気持ちになり、マストドンで各回のプレビュー文を書き始める。マストドンの1トゥート500文字はちょっとしたプレビュー・レビューを書くにはちょうどいい分量だな。日曜の回の分までプレビュー書いたら、日付が変わりそうな時間帯だったのでそこで一旦中断。

7月6日

仕事後、久しぶりに歌いに行きたくなってひとりカラオケで1時間。アジカンの『サーフブンガクカマクラ』完全版が出たのもあって、「江ノ島エスカー」「稲村ヶ崎ジェーン」なども歌う。大きい声出したので喉がガラガラ。

帰宅後、渋谷らくごのプレビューの残りを書ききった。今回は特別に金曜20時回のYoutube無料中継もあるらしく、少しでも観る人が増えるといいなと思う。

なかなか寝付けず夜更かし。

7月7日

今日は割と仕事が忙しかった。昼休憩のタイミングで近所の書店に行って群像8月号の分厚さを確かめると、やはり結構な厚さがあり、これはいつも通り郵便受けに入らず再配達パターンかな、と思ったが、帰宅すると郵便受けの中にすっぽりと8月号が収まっていた。配達する人の、郵便受けに群像を入れる技術が上がっているのかもしれない。いつも同じ配達人ではないだろうけど。

数日分溜まっていた日記をここまで書き進めて、明日はお昼から予定もあるので、早めに寝ることにする、つもりでいる。これを書いている時点の僕は。

7月8日

結局全然早めに寝なかった。日付が変わってからやっと寝付いた。
朝のうちに読みかけだった『「テレビは見ない」というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』を読了。フェミニズム・ジェンダー観点から見た、近年までのバラエティ番組やドラマの問題点や好プレー・良作などを踏まえた論考は読み応えあって、言及されてる中では『問題のないレストラン』とか観れてないので、観たいなぁと思う。一方、まだほんの2年前の本だけど、現在までにも色々と変化や新しい番組があって、テレビには限らないがコンテンツ供給量の膨大さに気が遠くなる。おそらく現時点の段階でこの本を出したらキョコロヒーやイワクラ吉住とかも言及されてそうだし、「恋愛に女の友情は負けない」ドラマの系譜の最新版として『日曜の夜ぐらいは…』もあるし、テレビもちゃんと新しいことをやろうとしているんだな、というのは実感としても分かるところ。もしもこれから10年後くらいに同じコンセプトの論集が出たらまた新しい作品の名前がどんどん上がってきそうだ。

昼からはもりた主催で一斗缶ビリヤニを食べる回。新大久保のレンタルルームを借りて、もりたの知り合いというだけの接点で十人以上集まるとのこと。レンタルルームの入っているビルの前には坂東先生が立っていて、荷物が多い。一斗缶の入った袋を両手で提げて持っていて、ものすごく重いらしい。レンタルルームに上がって、ある程度参加者が集まったところで一斗缶を開けると、堂々たるビリヤニの表面が現れて、砕いたゆで卵が乱雑に散らされている。初めて食べたビリヤニは米が細くて、普段の米の気分で口に入れると食感が違い過ぎて脳がちょっと混乱する。参加者はもりたのTwitter経由の友人から高校・大学の後輩、以前働いていた会社の上司までバラバラ。一度に覚えられないからみんな会話のたびにそれぞれの関係性を辿り直していて、じゃがしまさんは何度も「恋人を喪った安田短歌」の説明をしていた。ビリヤニは量が多かったがこちらの人数も多かったので、思いのほか早い段階で一斗缶が空っぽになる。中盤で骨付き肉が出てくるのが地層を掘っている感覚。
ビリヤニ会は13時開始で18時解散。まだ明るいのでほとんどのメンバーが残って、二次会は磯丸水産。ここでもワイワイ喋る。ソシャゲとかゲームとかが共通の趣味だと、初対面の人同士でも距離が縮まるようで面白く、少しうらやましい。飲み会でいきなり初対面の人と「えっ!〇〇師匠がお好きなんですか? あの師匠の『粗忽長屋』がめちゃくちゃ良くて…」という話にはならないのだ。ちょっと話の流れで「A3!」の2.5次元舞台の話が出たら、聞きつけた柿内さんが飛ぶようにしてこっちのテーブルにやってきた。柿内さんがA3!や他の2.5次元演劇のプレゼンを僕にするも全然刺さらず、逆に僕が最近観た『絶唱浪曲ストーリー』や立川吉笑さんのギミックを交えた落語の話をして「うわ~、面白そうだ…」と柿内さんに食らわせて、プレゼン対決は三連勝した。

もりたはもうベロベロで、それでも三次会をやるぞと言い張っているので、7人ほど残った。線路に沿って新宿まで歩いて向かう。思い出横丁の焼き鳥屋の二階で、とりあえずワンドリンク・ワンフードずつ頼んでゆるゆると三次会をして、23時頃に解散。一次会が13時スタートだったから、丸十時間の集まりだった。もりたは泥酔レベルで仕上がっていたので心配だったが、同じ路線を使う人が多かったのでそちらに託して、みんなとは新宿で別れた。なんか十時間ずっと楽しかったな。柴崎友香の『主題歌』という小説が、たしか、マンションの一室で行われるパーティ的な集まりでその場でたまたま出会った人たちの交流が生成されていくような場面が後半で描かれていたと記憶していて、あの感じだな、と思いながら帰った。帰りにウォークマンで曲を流したら、たまたま、ぜったくんの「なんて日だ」が流れてきて「なんて日だ なんて日だ まずは下北に集合してからが最高のはじまりさ」と歌い出したので、パーティー帰りにピッタリじゃないか、と思ってこのときは聴き流しながら今日の余韻に浸っていたのだが、今、日記を書きながら歌詞を確認したら途中で胃の調子が悪くなって後の予定をキャンセルしなきゃ、という歌だった。

7月9日

さすがにあんなに盛り上がった翌日なので眠いしうっすら怠いのだけど、柿内さんがちゃんと日記を更新していて驚異。

昼からは『天中軒景友 鬼平犯科帳を唸る』をお江戸日本橋亭で観た。景友さんの鬼平浪曲は2回目。一席目は以前の回で観たことのあった「老盗の夢」。冒頭に挿入されたシーンの意味が後半分かる仕掛けや、喜之助が肉欲に溺れるさまをコミカルに描く前半から、危うい局面に転がり込む緊迫した後半までの流れ、ラストにちょっとブラックなオチまで付いて、本当に見事な構成の演目だなと思う。講談の神田春陽先生は、浪曲由来のネタとして「忠治の娘」。持ち時間に対して準備したネタが短いから、枕をたっぷり。いい感じに場を温めつつ、本題の語り口は貫禄があり、一人の人生をかけた覚悟が語られる後半は特に引き込まれた。景友さんの鬼平浪曲2席目は今回初演の「消えた男」。一人語りだと時間が遡るような複雑な話は見せ方が難しいと思うんだけど、手振りがつくギャグっぽいシーンをフックにしてそれが繰り返されることで分かりやすくなっていたり、池波作品の偏った女性観に「令和の世なら大炎上」とエクスキューズ入れたりと、浪曲化するときのアレンジが行き届いている。終盤、三味線を止めたところに「火付盗賊改方・長谷川平蔵!」の名乗りがバシッと決まってカッコいい。

帰宅後、鬼平を読み進めた。密偵の茂兵衛から、盗人二人を目撃したという報告を受けた平蔵。賊の一人・雪崩の清松の名前は平蔵に聞き覚えがあった。清松は同心・大島勇五郎が密偵として使っている博打打ちだが、盗賊だとは平蔵も知らなかった。茂兵衛が確かに清松は盗人に間違いないというので、平蔵は密偵を使って調査を始めるが……という話。実は大島、清松の手ほどきで博打にハマった結果借金まみれになり、悪行に協力するよう迫られていたのだった。清松一味は池田屋五平という別の盗人の娘を誘拐し、身代金として千両を要求。金を出さなければ娘の命も保証しないし、万が一の場合は大島を通して火盗改にひっとらえられるかも、と暗に脅すのだった。大島自身をゆするのが目的でなく、その力を利用してさらに大きな盗賊から金を引っ張るというのは、清松もなかなかの策士だが、密かに捜査の網を広げていた平蔵たちによって思わぬ形で裏をかかれてしまう。メインの物語が終わった後、平蔵が佐嶋に漏らした「この年齢になって、あれこれしたいと想うていた楽しみは、すべてあきらめたわ」「いまのわしは、若いころの罪ほろぼしをしているようなものじゃ」という発言からは、シリーズも終幕に向かいつつあることを示唆しているような気もするのだがどうだろうか。

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